常見陽平のはたらく道2022.10

情報労連は日本の労組の
最前線であり、防波堤である

2022/10/13
日本の労働組合の将来は、結成60年を迎えた情報労連にかかっている。ICT分野での創造的爆発を期待する。

情報労連が結成60周年を迎えた。中央執行委員長の安藤京一氏は、プロレス好きとして知られているが、情報労連は今年50周年を迎える新日本プロレスよりも10年長く闘い続けているわけだ。心からお祝いするとともに、同志たちの固い団結、燃える闘魂に敬意を表したい。

わが国においてこれほど労働組合の存在意義が問われている時代はない。組合は労働者を代表しているのか、その意見を代弁しているのか。組織率低下にどのように歯止めをかけるのか。政治とどのようにかかわるのか。働く人およびその課題の多様化、複雑化にどのように立ち向かうのか。あなたはどう思うか。

特にICT関連の領域は、環境の変化が激しい。ビジネスのルールが常に変化する。「働きやすい職場」の定義も労働者によって異なるだろう。「自由で柔軟な働き方」「時間ではなく成果で評価」という掛け声が連呼される。俗耳になじむスローガンである。長時間労働を誘発しかねない。ただ、ICT関連業界の労働者としては明確にNOとも言い切れないのではないか。気をつけなくては、経営側の方がむしろ労働者のことを考えているのではないかと言われかねない。

ICT企業の経営側は、労働者に寄り添う動きを見せている。特に外資系企業やメガベンチャー企業とのエンジニア争奪戦は熾烈になっている。自社をこれらの企業の草刈り場にしないために、手厚い報酬を用意し、働きやすい環境づくりに力を入れている。これは本来、労組が主張し、勝ち取るべきことではなかったか。経営側は、労組を相手にしないが、優秀だと目される、辞めてほしくない従業員にはとことん向き合っているのではないか。

情報労連はどうすればいいのか? ぜひ日本一ICT労働者の事情に詳しく、その味方であり続ける労組をめざしてほしい。

採用活動で苦戦する企業に共通しているのは、採用担当者が自社のビジネスに詳しくなく、現場の事情を知らないことだ。実は同じことが労働組合でも起こっていないか。労働者が団結しているのにもかかわらず、なぜそんなことが起こるのか。それは、自分が労働者として直面している課題を同志たちに主張していないからではないか。日々直面する違和感を赤裸々に共有するべきである。この想いの共有が必要ではないか。組織率低下の原因についても、労組の労働者離れが進んでいるのではないかと自問自答するべきだ。

議論の手法の工夫も必要だ。新型コロナウイルスショックで対面での議論、交流がやや停滞したが、オンラインでの議論が可能となった。情報共有の手段も増えた。ICTを駆使した労働組合運動とは何か。模索を期待する。

日本の労組の浮沈は情報労連にかかっていると言っても過言ではない。ICTにかかわるだけに、前例のない労働問題に向き合い続けているからだ。ここ数年では、インターバル規制など情報労連発の取り組みも大きなうねりを見せた。今後の運動の創造的爆発を祈る。新しい労働運動、働き方をつくるのは情報労連の同志たちである。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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