特集2022.11

中小・下請・個人請負のいま
日本経済の底上げに何が必要か
アプリを使った管理と多重下請け
アマゾン配達員の労組結成が問うこととは

2022/11/15
多重下請け問題に、新たな問題が起きている。アプリを通じた個人事業主の管理という問題だ。顕著に表れているのが、ネット通販アマゾンの配達の現場。今年に入り、アマゾンの下請けの運送会社と契約を結ぶ配達員が、労働組合を結成する動きが相次いでいる。何が起きているのか。労組を支援する菅弁護士に聞いた。
菅 俊治 弁護士/日本労働弁護団常任幹事

過重労働で苦しむ配達員

労働組合を結成した配達員は、アマゾンの下請けの運送会社と契約を結ぶ個人事業主です。アマゾンとの直接の契約関係はありません。

配達員は、過重労働や長時間労働に苦しんでいます。ただ、個人事業主という形式上、労働法による保護がありません。配達員は、労働条件の改善などを目的に、労働組合を結成し、アマゾンに団体交渉を申し入れました。

私たちは、アマゾンが配達員の重要な労働条件を決定しており、そうした実態を踏まえれば、配達員とアマゾンの間に直接の契約関係があるのではないかと考えています。

アマゾンとの関係

それを示すため、いくつかのアプローチを想定しています。

一つ目の主張が、「共同使用者」の概念を使ったアプローチです。「共同使用者」とは、アメリカなどで用いられる概念で、使用者の責任や権限は単独の企業が持つとは限らず、複数の法人が分担することもあるとする概念です。例えば、賃金を支払っているのは下請けの会社であっても、毎日の業務を決めているのがアマゾンであれば、アマゾンは下請け会社とともに共同の使用者の立場にあるという考え方です。アメリカの裁判所で使われる概念ですが、日本の裁判所では残念ながらまだ使われていません。

配達員は、過重労働に苦しんでいて、事故のリスクも高まっています。安全配慮義務をアマゾンに直接問うことも考えられます。

二つ目の主張は、配達員とアマゾンとの間には、労働契約が存在するというアプローチです。手がかりは、配達員が仕事をする際に使うアプリです。アプリは、アマゾンで仕事をするためには必ず必要です。配達員は、その仕事に就くために最初にアプリの利用契約を締結します。そして、利用権限を付与されることで初めてアマゾンの仕事ができるようになります。

仕事をするときも、アプリが欠かせません。その日の荷物を何個、どこに運ぶのかという指示はアプリを通じて指示され、配達員は荷物を配達したら完了の報告をします。配達員は自身の勤務データもアプリに入力します。

アマゾンには、どのような法的な根拠があり、配達員に業務を指示できるのでしょうか。そこには両者の間に何かしらの合意があるはずです。アマゾンは配達員にアプリの導入を求め、配達員はそれに同意して仕事ができるようになります。ここには契約の意思表示があります。そして、その内容は労働契約の性質を持つのではないかと考えています。

このようにして両者の間には、労働契約が存在するというのが二つ目のアプローチです。これはウーバーイーツに関しても、同様のことがいえます。

三つ目は、たとえ直接の契約関係がないとしても、重要な労働条件を実質的に決定しているのはアマゾンだとして、団体交渉に応じる義務があるとするアプローチです。これは朝日放送事件など、既存の判例法理に基づく主張です。

こうしたアプローチなどを検討しながら、アマゾンとの契約関係などを訴えていきたいと考えています。

使用者としての責任を問う

乗り越えるべき課題が多いのも事実です。例えば、個人請負のトラック運転手の労働者性を否定した最高裁の判例(横浜南労基署長〈旭紙業〉事件)があります。従来の判例にどう向き合うのかは一つの課題です。

一方、既存の考え方を応用することもできます。例えば、アプリを使って仕事をしているということは、配達員が事業組織に組み入れられているともいえます。アプリの存在が、事業の組織性を明確にしているとも考えられ、労働者性を訴える一つのアプローチになり得ます。

インターネットやアプリの発展によって、企業は時間や場所を問わず、労働者をコントロールしやすくなりました。一方、労働者をコントロールし、そのことで最終的な利益を得ているのにもかかわらず、労働契約を締結せず、使用者としての責任を免れているケースが増えています。本来あるべき企業の責任を問う運動がますます重要になっています。

個人請負・フリーランスの保護を巡る状況は、日本は世界と比べてかなり後れを取っています。「ガラパゴス」的な状況を乗り越えるためにも、労働組合による運動が非常に重要だといえます。労働組合の皆さんとともに活動してきたいと思います。

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