特集2022.11

中小・下請・個人請負のいま
日本経済の底上げに何が必要か
ドイツのものづくりはなぜ強いのか
日本の中小企業が学べることとは?

2022/11/15
ドイツは、自国をものづくりの国だと認識し、それを支える仕組みを国のあらゆるところに整えている。その仕組みの概要とともに、日本の中小企業が学べることについて聞いた。
岩本 晃一 独立行政法人経済産業研究所
リサーチアソシエイト

国全体でものづくりを支えるドイツ

ドイツは、国民全員が自国をものづくりの国だと認識し、ものづくりで生き抜くという強い意志を持っています。そのため、ものづくりを支援するための制度や仕組みが国のあらゆるところに整備されています。

例えば、デュアルシステムという教育制度です。制度への賛否両論は常にありますが、10歳の段階で将来の進路が決まります。おおまかにいうとホワイトカラーになるか、ブルーカラーになるかです。ホワイトカラーへの進路を選ぶと約3割が大学に進学し、残りは専門学校に進学します。専門学校は製造業の現場で職長になることなどを前提としたものづくり専門家養成学校です。

一方、ブルーカラーへの進路を選ぶと、「マイスター」の養成学校に通います。ドイツのマイスターは、素晴らしい才能を発揮すれば、大企業の社長よりも高い報酬を得ることもあるほど社会的ステータスが高い存在ですし、ギルドの流れを持ち、組合は強い政治力を持っています。

同様に大学も、ものづくりを支えています。例えば、ドイツの3大工科大学といわれる大学(アーヘン、ベルリン、ミュンヘンの各工科大学)は、大学収入の約3分の1が民間企業との共同開発です。中小企業にとって研究開発部門を持ち続けることの負担は大きいですが、ドイツでは大学やフラウンホーファー研究機構と共同開発することで新商品などを開発することができます。

欧州最大の応用研究機関であるフラウンホーファー研究機構には3万人を超えるスタッフがいて、中小企業だけではなく、大企業とも共同で研究開発を行っています。

同研究所は、日本にも支部を持っていますが、中小企業から製品開発を受託することはほとんどなく、研究所が価格を提示すると高いと言うそうです。その背景には日本の産業構造があると考えられます。日本の中小企業は、下請けや系列関係の中に入り、親メーカーから図面を提供され、技術指導を受けることで技術力を蓄えてきました。親会社との取引関係の中で無償で技術を提供されてきたので、技術に対して相応の費用を払うという世界常識が備わっていないと思われます。

産業クラスターを生み出す風土

一方、ドイツの中小企業はどうでしょうか。例えば、BMWは、部品調達を行う際、調達基準を満たすのであれば、世界中のどのサプライヤーからも購入します。そのため、サプライヤーには、入札で勝ち続けるための継続した製品・技術開発が求められます。日本の下請け企業のように製造部門だけを持っていればいいというわけにはいきません。だからこそ、ドイツの中小企業はフラウンホーファー研究機構のような研究機関と連携して、製品・技術開発に取り組むのです。

ドイツの製造業では、数十人規模の中小企業がほとんどなく、400〜500人程度の従業員規模であることが一般的です。最低でも200〜300人くらいです。そのくらいの規模でなければ企業として生き残れないともいえます。

とはいえ、中小企業1社ではできることも限られています。そのため、ドイツでは企業間連携を伴う研究開発が盛んです。確かに開発する仲間同士では技術の囲い込みはありますが、企業が連携したオープンイノベーションは当たり前という感覚があります。ドイツにはオープンイノベーションという言葉がないくらい共同開発は当たり前なのです。

大学や研究機関の研究者は業界団体の会合に積極的に参加して、研究費獲得の活動をします。それは企業にとっては新製品開発のチャンスになります。

ドイツで「産業クラスター」がうまくいったのは、以上のようなものづくりを支える社会的な仕組みや慣習がある上で、州政府が制度をつくり、特定地域の特定産業の支援を集中的に行ったからです。

値段を下げない戦略

次に、輸出についてはどうでしょうか。

ドイツの中小企業は、最初から世界で売ることを前提として、製品を開発します。EU域内での販売から始まり、次にアメリカ、そして中国などアジアでの販売に広げていくという傾向があります。

日本の経済産業省が通商白書で、ドイツの中小企業の強さを探るため、中国向け輸出の内容を分析しました。日本企業は、時間の経過とともに製品の値段を下げていくのに対して、ドイツ企業は時間の経過とともに値段を上げていたことがわかりました。日本とドイツ、まったく逆の動きです。ドイツ企業は、価格競争に巻き込まれず、より高い付加価値の製品を生み出し、より高い価格で製品を売っていました。高いお金を出しても顧客がほしいと思う製品をつくるからだといいます。一方で、日本は価格競争に巻き込まれるというより、自ら価格競争に飛び込んでいく。「いいものを安く」という日本的な発想が、背景にあるのかもしれません。

日本の中小企業に求められること

私は、今つくっている製品で構わないので、国外の展示会に出展してほしい、それが最初のステップです、と言っています。そうすると、自社の製品が世界の中でどう位置付けられるかを知ることができます。展示会での声を聞くことで、世界で売れる製品が見えてきます。

ドイツの商工会議所は、世界中に事務所を持ち、非常にきめ細かい支援をします。日本が見習う点は多いと感じます。

ドイツの強い中小企業のやっていることは、売れる製品をつくり、海外に売るという、単純なことです。中小企業のすることに、魔法や奇想天外はありません。あくまで基本に忠実です。それがドイツの強い中小企業をつくっています。ドイツ企業にできて日本企業にできないことはないはずです。

系列の中にとどまり、親企業からの注文を受けるだけでは、人員削減くらいしか利益を生み出す方法がありません。親企業の言うとおりやっていれば、質素だけれども企業は存続できるという関係から抜け出し、海外での販路を拡大していく。円安の今こそチャンスです。それをできる中小企業を増やすことが、日本経済の再生につながるのだと思います。

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