特集2022.11

中小・下請・個人請負のいま
日本経済の底上げに何が必要か
持続可能なサプライチェーンのために
変革コストなど適正な価格転嫁を

2022/11/15
中小製造業の労働組合が多く加盟する、ものづくり産業労働組合JAMは今年8月、政策提言集「ものづくり進化論Ⅲ」を発表した。JAMの川野副書記長に提言をまとめた狙いなどについて聞いた。

ものづくり産業の大変革

「ものづくり進化論Ⅲ」は、2008年に「ものづくり進化論Ⅱ」を発表してから13年ぶりの提言となる。激変するものづくり産業を取り巻く環境への危機意識がその背景にある。

JAMの川野英樹副書記長は、「ものづくり産業を取り巻く環境は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)やグリーン・トランスフォーメーション(GX)など大きく変化している。体力の弱い中小企業は変化に自力で対応しきれない。ついていけない中小企業が続出すれば、サプライチェーン全体ががたがたになる」と危機感を強める。

例えば、GXでは、素材の加工や調達、原料や製品の運搬をはじめ、あらゆる場面で脱炭素が求められる。効率が悪くても安価な加工技術でしのいできたこれまでのやり方は通用せず、環境基準に適合した高い加工技術などが求められるようになる。だが、設備投資を自力で吸収できる中小企業は多くない。

「変革期だからといって設備投資をすべて自社でまかなうように押し付けられたら中小企業はお手上げ。持続可能なものづくり産業の確立のためにも、メーカーも含めてサプライチェーン全体でコストを負担する必要がある」と川野副書記長は強調する。

「ものづくり進化論Ⅲ」では、日本の製造業の強みは、良質な製品を安定して供給する中小企業で構成されるサプライチェーンで生み出されているとして、労務費や原材料費・エネルギーコストの上昇分や設備投資など事業に必要な費用が、確実に価格転嫁され、付加価値が適正に分配されなければならないと訴えている。

価格転嫁は待ったなし

さらに、価格転嫁は待ったなしの状況だ。円安や原材料費の高騰を背景に企業物価が上がり続けており、川野副書記長は、「企業物価の上昇は尋常な上がり方ではない。今、価格転嫁しなければいつするのだという状況。避けて通れない課題」と語気を強める。JAMでは、2020年に価格交渉のための「対応マニュアル」を作成し、労使交渉などで活用している。円安・物価上昇を受けて対応を強める。

「ものづくり進化論Ⅲ」では、親事業者と下請け事業者との価格交渉の場の設置や労務費や原材料費等の上昇分の価格転嫁を義務化し、罰則規定を設けるなどの政策も提言した。

産業別労組の新しい機能

JAMは「ものづくり進化論Ⅲ」で、産業別労働組合の新しい機能も提示した。JAMが労働力供給事業を展開し、企業横断的な労働条件を確立することで企業規模間格差を是正するという機能だ。具体的には、JAMの組合員を受け入れる企業とJAMが労働協約を締結し、組合員はJAMが設定する最低基準以上の労働条件で働く。さらに雇用が一時的に失われた組合員に対し、リカレント教育を行い、再雇用を支援する。こうすることで企業横断的な労働条件の確立をめざす。

「一つの企業ではなく、産業や地域で人材育成することが大切」と川野書記長は訴える。埼玉県にある「ものづくり大学」と連携した人材育成や、加盟企業労使の協力による「学び直し支援」などに取り組むことにしている。

「『ものづくり進化論Ⅲ』では、10年、20年後のものづくりの姿を描いた。これをテーマに労使で協議することが実現への一歩になる。持続可能なものづくり産業を確立することが、日本の将来を左右する。『誰一人取り残さない』という視点で取り組む必要がある」

川野副書記長は未来を見据えて語る。

特集 2022.11中小・下請・個人請負のいま
日本経済の底上げに何が必要か
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー