地域を良くする地方議会へ
地方議会・地方議員に期待される役割とは?「目覚めた議会」はこんなにすごい
地方議会が秘める可能性とは
研究所事務局長
「マニフェスト大賞」の背景
日本で「マニフェスト」に注目が集まるようになったのは2000年代以降です。
背景には次のような事情があります。2000年4月に「地方分権一括法」が施行されました。この法律が施行される以前の日本は、国が地方の政策を考え、地方に交付金などを渡すという中央集権型のシステムでした。
それがこの法律の施行によって変わります。高度成長が終わり、少子高齢化時代に入る中で、地方の問題は地方で考え、地方で解決するように国のシステムが変わったのです。
マニフェストという言葉は、この中で出てきました。それまでは、国が地方のことを考えてくれたので、地方議会は極端に言えばやることがほとんどありませんでした。しかし、法律が変わって地方が「自己責任」の環境に置かれるようになると、地方議会が何をするのかが問われるようになります。
そこで出てきたのが、マニフェストです。三重県知事を務めた北川正恭・早稲田大学教授が、2003年に選挙などにおけるマニフェストの必要性を訴えました。それ以降、各自治体の首長や国政政党がマニフェストをこぞって打ち出すようになります。
地方議会や地方議員もこの動きに追随します。地域の施策を決定する権限は議会にあります。地域の課題解決のためには、議会が変わらないといけないことに気付いたのです。
「マニフェスト大賞」は、地方議会のあり方に危機感を持った地方議員が2005年に有志で始めました。1回目の「マニフェスト大賞」は議会部門のみでしたが、221件の応募がありました。2回目からは首長部門や市民部門を設置し、2022年の17回目の「マニフェスト大賞」には3135件の応募がありました。
こうした応募件数の増加は、議会の活性化という側面だけではなく、地方の衰退という厳しい現実も反映しています。人口減少や少子高齢化がこの20年間でさらに進む中で、何とかしなければいけないという危機感がこの数字にも表れていると思います。
先進議会の事例
この間、応募された取り組みを見ると、議会改革は、議会内部の改革から住民参加型の改革へと変化したことがわかります。また、行政職員からの応募が増えたり、障害者や性的少数者などマイノリティーの課題解決につなげた事例の応募が増えたりしてきました。
「マニフェスト大賞」が始まった当初の議会改革は、議会内部の改革が中心でした。その第一歩は、自分たちの役割を確認することです。例えば、地方議会の役割を確認するための勉強会の開催などがその内容でした。その次の段階は、議会の広報です。議会の活動を住民に知ってもらうために住民との意見交換会を実施する議会が増えました。
そして現在、増えているのが住民参加型の議会改革です。特徴的な活動をいくつか紹介します。
全国で唯一の活動をしているのが、愛知県犬山市です。犬山市には、「市民フリースピーチ制度」という制度があります。この制度は、市民が市政に関することを議会で発言でき、その内容を議会が全員協議会などで議論し、行政の施策などに反映するという制度です。アメリカ出身の市議会議員であるビアンキ・アンソニー氏が、アメリカの地方議会をモデルに導入を提案しました。
この制度を使って、実際に多くの市民が議会で発言しています。例えば、次のような事例がありました。犬山市には、「災害弱者」リストに掲載されると災害時に行政が対応してくれる仕組みがあります。しかし、このリストに掲載されるための条件が厳しすぎると、視覚に障害のある人が、議会で発言したのです。自分は災害があった際、周囲の状況を把握できないのでサポートが必要だが、条件が厳しすぎるのでリストに掲載されない、要件を緩和してほしいと訴えました。議会は、この発言を受けて約半年間議論をして要件を緩和しました。
また、小学校4年生の女子児童が、小学校ではズボンで登校できるのに、中学校に入るとスカートをはかなければいけない。中学校でもズボンで登校できるようにしてほしいと要望しました。議会は、教育委員会を呼んで議論して、半年くらいかけてルールを変えました。
効果を実感する市民
こうした取り組みの結果、市民は市役所に要望するより、議会で自分の思いを訴えた方がルールを変えられることを実感しつつあります。先ほど挙げた、視覚障害者の人は、それまで何度も行政に同じ要望をしてきましたが、行政はそれがルールだからといって受け入れてきませんでした。
ここに議会が果たす役割があります。行政は決められたルールの中で仕事をするのが基本で、ルールを変えようとはしません。しかし、議会は違います。議会は、ルールを変えたり、新しいルールをつくったりすることができます。これが議会の役割です。
ルールが悪ければ変えればいい。これが議会の発想であり、行政にはできないことです。犬山市の住民はこのことに気付き、自分たちでルールを変えようとしています。
その他の自治体でも、中高生が議会に陳情書を提出して、議会を通じて課題を解決したり、横浜市のように「Decidim(ディシディム)」という住民参加型のデジタルプラットフォームを導入して、政策立案の企画段階から住民参加できる仕組みを導入したりしています。こうした住民参加型の議会改革に取り組む自治体が増えています。
議会を目覚めさせる
私たちは、こうした議会を「目覚めた議会」と呼んでいます。一方で、議会改革が進んでいない議会を「居眠り議会」と呼んでいます。「マニフェスト大賞」が始まってから約20年で、改革を進める議会とそうでない議会の差がどんどん開いています。
その違いはどこから生じるのでしょうか。要因の一つは、住民の動きです。住民が動けば、政治家は動きます。地方の住民は、病院や学校がなくなるとか、あそこのお店が閉まったとか、地域の変化に敏感です。その中で、危機に気付いた住民が議員に働き掛けていくことで、議員や議会が動きます。
1人で政治にかかわろうとするとハードルが高いので、友人と一緒に地域の議員に話しかけてみたり、メールを送ってみたりするのもいいのではないでしょうか。民意が政治を変えていきます。
地域はこれからもっと疲弊するし、課題はもっと複雑化します。公務員だけでは地域の課題は到底解決できません。現場の声を踏まえて解決策を提示する議会の役割は、ますます重要になります。防災をはじめ地域の課題を解決するためには、住民自治を育てていかなければいけません。その役割を果たすのが議会です。住民が議員を活用するという意識で、地方議会や地方議員にかかわってほしいと思います。