特集2023.03

地域を良くする地方議会へ
地方議会・地方議員に期待される役割とは?
地方議会を活用し
「保育でもうける」
悪質な事業者のチェックを

2023/03/13
地方議会は、地域の保育・子育て支援策を良くするために、さまざまな役割を発揮できる。ポイントはどこにあるのか。保育所の問題に詳しいジャーナリストの小林美希さんに寄稿してもらった。
小林 美希 労働経済ジャーナリスト

自治体独自の動き

国は3歳児以降の保育料の無償化を実施しているが、負担が重い0〜2歳児については低所得層に限るなど無償化の対象は限定的となっている。兵庫県明石市は、いち早く第二子以降の保育料を無償化するなどして、子育て世代の流入を図った。統一地方選挙を前にして、福岡市も2023年度から第二子以降の保育料を無償化する方針を固めるなど、自治体独自に保育園の利用を無償化するなどの動きが出ている。

こうした差が出る一因となるのは、保育園の運営費は1980年代に国庫負担率が8割だったものが5割に恒久化され、自治体負担が高まったことにある。自治体の財政基盤や子ども施策への考え方によって差が表れてくる。

議員による情報開示を

保育や子育て支援について地方議員が果たすべき役割は、保育士や保護者からの悩みや情報提供を丁寧に聞き取り、実態を調査して公開することから始まる。

保育士による虐待や不適切保育について内部通報の窓口が設置されているか、保育士の人件費がきちんと支出されているか、私立の認可保育園で経営者が運営費を私的流用していないか──など、自治体に対して厳しく追及する必要がある。

経営者だけが高額報酬で保育士が低賃金というケースは少なくないが、個々の収入は個人情報保護を理由に開示されない。とはいえ、自治体議員が自治体に対して園長や経営者の年収分布の開示を求めることは可能だ。保育施設の財務情報、人件費実績、監査内容などは徹底して情報開示に努める必要がある。

安倍晋三政権下で待機児童対策が目玉政策となり急ピッチで保育園が作られた。しかし、「保育でもうける」という悪質な事業者の参入も促してしまった。国は、運営費である「委託費の弾力運用」を認めており、保育園の年間収入の4分の1もの費用を他に流用できるようになっている。本来、委託費の8割以上が人件費を占めるが、実際の人件費支出が4〜5割に抑えられ、人件費が他の費目に回っている現状がある。そうした人件費比率など委託費の使途について、自治体議員は実態を把握すべきだ。

独自の規制は可能

委託費の弾力運用とは、あくまで国が通知で認めているものであるから、自治体は独自に使途制限を厳しくすることが可能だ。例えば東京都世田谷区では、開設2年目以降の人件費比率が5割を下回ると区の独自補助をしない。過去に筆者が世田谷区内の認可保育園の人件費比率を調べると、ほとんどの保育園で人件費比率をクリアしていた。

新型コロナウイルスの感染拡大などを理由に出生数が激減し、定員割れを起こして経営難を訴える株式会社や社会福祉法人が増えてきた。そうした経営者が首長や与党議員に対して公立保育園を調整弁にして廃園を迫り、自身の保育園の経営の安定化を図ろうとする現象が出ている。

しかし、保育園を親の就労を支える施設とだけ見るのではなく、地域再生の中核として見るのであれば、定員割れをカバーする施策を行えばよい。地域の高齢者や小学生や中学生が気軽に立ち寄ることができて、交流を図ることができれば、高齢者の孤独・孤立を防ぎ、小中学生の居場所を作ることもできる。

議員の本気度をチェックする

議員の肩書があれば誰しも、保育や子育ては重要だとアピールする。しかし、アピールにとどまる議員は少なくない。実際に議会でどのような発言をしているか、議事録を検索してみる必要がある。そして、具体的に相談してみると議員の本気度がわかるため、臆せず連絡を取ってみることも大事だろう。

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