特集2023.03

地域を良くする地方議会へ
地方議会・地方議員に期待される役割とは?
「脱炭素」で地域を活性化する
街づくりを根本から見直す

2023/03/13
地球規模の課題である「脱炭素」は、地域の課題とどのようにかかわっているだろうか。街づくりは、脱炭素社会の実現に重要な役割を果たす。そのキーポイントが、「対話」だ。
田中 信一郎 千葉商科大学准教授

これまでの街づくり

街づくりは、脱炭素社会の実現に大きくかかわっています。そのことを知るには、日本の街づくりの歴史を振り返る必要があります

現在の日本の都市や地方のあり方は、1950年から1970年の20年間にかけて形成されました。この間、人々の暮らす場所は大きく変わりました。1950年には全人口のうち、市に住む人口が約3割で、町村に住む人口が約7割でした。1970年になるとその数字が逆転し、市に住む人口が約7割になり、町村に住む人口が約3割になりました。

こうした都市への人口移動で起きたのは、郊外化です。都市部では急激な人口増加に対して住宅供給が追い付かなくなり、住宅は郊外へと広がりました。そこには問題がありました。住宅の「量」が優先されたため、断熱性など「質」の部分は後回しにされたのです。

郊外化が進むと、住む場所と働く場所が離れるようになり、通勤時間が長くなります。さらに、都市部のような公共交通機関がない郊外では、移動のための自動車が必要になり、自動車に依存する街づくりが進みます。これらが1950年からの20年間で起きたことでした。

脱炭素社会の実現のためには、こうしたこれまでの街づくりを根本から見直す必要があります。例えば、インフラについては、人口減少社会に突入すると郊外化で広がったインフラの維持が難しくなります。そのため質の高いインフラを共有できる範囲で、街づくりをする必要があります。自動車に依存しないためには、公共交通機関を活用した街づくりも大切です。さらに住宅は、断熱性の高いエネルギー効率の高いものに建て替えていく必要があります。

他方、都市や地域のあり方に合わせて再生可能エネルギーを導入していくことも大切です。例えば、農村部地域で作り出したエネルギーを都市部に販売することもできます。地域の住民が出資して再生可能エネルギー事業を運営すれば、利益は地域に還元されます。こうすれば、これまで国外に流出していたエネルギーの費用を国内に還元できます。実際、世田谷区の公立保育園は、長野県から自然エネルギーを購入しています。

議会と議員の役割

こうした街づくりを実践するのは、自治体です。国は脱炭素を政策として後押しできるかもしれませんが、実行するのは自治体です。ですから、地方議会や地方議員の役割が非常に重要になります。

その中で、議会にまず期待するのは、脱炭素に対する住民の意思を明確にすることです。長野県は、議員提案で、脱炭素条例を制定し、県民の総意として脱炭素を進めることを宣言しました。こうした宣言は、行政の取り組みを後押しするためにも、とても重要です。

加えて、議会が果たすべき重要な役割は、対話を促すことです。議会が、行政や企業、市民団体や住民の間に入って対話を促すことが大切です。

議会は、異なる利害関係の住民の代表者が集まって議論する場です。だからこそ、その場で合意できたことには重みがあります。例えば、岩手県議会は、議会の中に特別委員会をつくり、専門家や住民から意見を聴取して、超党派の提言をつくりました。議会には、さまざまな利害関係者の意見を調整する役割を果たしてほしいと思います。

議員個人も脱炭素について住民と率先して対話してほしいと思います。議員のネットワークを使って、地域の横通しをしたり、議員個人がプロジェクトを立ち上げて再生可能エネルギー事業に取り組んだりしてもいいと思います。そうした活動は議員にとって新たな支持層の獲得にもつながるはずです。

地域の活性化に生かす

脱炭素は、地方選挙の争点になりづらいのが現状です。実際には、人口減少や都市開発のような課題が争点になりがちです。

とはいえ、脱炭素はそうした課題を解決するのにも役立ちます。例えば、地域経済の活性化に悩んでいる地域であれば、再生可能エネルギー事業を地域経済の活性化のために活用できます。同時に、それは地域から出ていくエネルギーコストの節約にもなります。また、住宅の断熱化は、地域の工務店の利益にもつながります。

長野県上田市は2019年、少子高齢化や人口減少が進む中で不安に感じていることを市民にアンケートしました。その結果、回答で最も多かったのは、「車の運転ができなくなり、移動手段が確保できなくなること」、2位が「一人暮らしの高齢者が増えること」、3位が「空き家が増えること」、4位が「商店やスーパーが減少すること」でした。その課題への対応が、歩いて暮らせる街づくりだったり、質の高い住宅やインフラのシェアだったりします。つまり、脱炭素の街づくりが、地方都市が直面する課題の解消策と重なるのです。上田市では、地元の有志が研究会を立ち上げ、市長や地方議員、地元企業などと対話をして、こうした政策提言をしています。

これまでの街づくりは、人口増加と経済成長、化石燃料の大量使用を前提としたものでした。しかし、この前提条件は現在すべて崩れています。新しい前提に合わせた街づくりが求められています。現在はそのための過渡期だと言えます。

その中で大切なのは、やはり対話です。脱炭素社会のベースには対話があります。脱炭素社会の実現に向けて、住民の意見を調整する議会や議員の役割は非常に大きいと言えます。

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