特集2023.03

地域を良くする地方議会へ
地方議会・地方議員に期待される役割とは?
顕在化した「新しい困窮層」と
急速に進む「単身化」
都市問題のこれからは?

2023/03/13
情報労連では、都市で暮らす組合員が多い。では、都市でこれから課題になる問題とは何か。地方自治を研究する識者に聞いた。
今井 照 地方自治総合研究所
主任研究員

これからの都市問題

──これからの都市の問題として、どのようなことが挙げられるでしょうか。

問題はいくつもありますが、そのうちの一つは、「新しい困窮層」の増加です。「新しい困窮層」とは、これまでの社会政策の網の目からこぼれ落ちてしまう人たちのことを指します。例えば子育てをしながらパートで生計を立てていた人は、コロナ禍でいきなり収入が途絶え、住まいを追われることすらありました。しかし、過年度に収入があれば非課税世帯として認められませんし、生活保護の条件に該当しない場合も多々あります。このようにこれまでの社会政策では制度的に対応できない人たちが、コロナ禍で大量に出現したのです。中間層が二極化しつつあることの証左でもあります。

実は生活保護受給世帯数は、コロナ禍でもほとんど増加していません(2020年3月:163.5万世帯、2022年3月:164.3万世帯)。しかし、「第2のセーフティーネット」と呼ばれる生活困窮者自立支援制度を利用する人たちが急増しました。働きたくても働けない、あるいは住むところを追われた人たちが、おそらく人生で初めて「第2のセーフティーネット」の窓口である社会福祉協議会などに殺到したのです。例えば、生活福祉資金の特例貸付総額は約1兆4000億円、貸付決定件数は約334万件に上りました。ただし、これは貸付なので原則として返済が求められます。

また「こども食堂」のように行政が気付いていない領域を市民活動が支えている事例もあります。

進む「単身化社会」

──ほかにはどのような課題がありますか。

もう一つの課題は、「単身化社会」への政策転換です。日本全体で、単身世帯の割合が急増しています。国勢調査を見ると単身世帯の割合は1990年には23.1%でしたが、2020年には38.0%にまで増えています。

核家族化に加えて高齢化が進んだため、子どもが独立して親の一人が欠けると、高齢者が長期間にわたって単身化する事例が目立っています。さらに若年層でも単身化が進んでいます。背景には晩婚化や未婚化があります。男性の生涯未婚率は、2000年に12.5%だったものが、2020年には28.2%と急上昇しています。女性は17.9%です。

これまで日本の社会政策は「世帯」や「家族」を単位に設計されてきました。例えば、民法では家族の扶養義務が規定され、世帯収入を基準とした制度も多く存在しています。しかし、家族そのものが少人数化し、実質的に離別状態にあると家族内では支えられず、一方、制度的には公的な支援も受けられないので、孤立する可能性が高まっているのです。これまで家族単位でつくられてきた社会政策を個人単位に再構成する必要があります。

もう一つの課題が、「移動社会」の進展です。リモートワークの広がりで二つの地域で居住する人が増えたり、住民票を残したまま別の地域の高齢者施設に入るなどの人たちが増えています。これまでの行政サービスは、住民票のある地域で提供されることが基本だったので、実態にそぐわなくなります。このことは人権の問題でもあります。

都市住民への影響

──「新しい困窮層」の増加は、中間層にどのような影響を及ぼすでしょうか。

「新しい困窮層」の増加は、地域全体のポテンシャルを低下させます。中間層が二極化すれば社会不安が増大し、生活上のコストやリスクが高まります。大企業で働いている人とも無関係ではありません。もちろん、何かの拍子に立場が変換されることもあるので、社会的なセーフティーネットを張っておくことは自分自身にとっても重要な課題です。

「新しい困窮層」や貧困層は、特に雇用環境の変化が激しい都市部で多く見られます。雇用環境のよいときは都市部への転入超過が多くなりますが、悪くなっても転出者が増えるわけではないからです。とりわけ東京圏(東京、埼玉、千葉、神奈川)ではそれが顕著です。現在、東京圏で暮らしている人の多くは東京圏で生まれ育った人たちなので、地方に帰るという選択肢も少なくなってきました。

単身化や高齢化が進むことで家族単位でのセーフティーネットが失われつつあります。こうした問題は、最終的には行政が対応するしかありませんが、いち早く地域で課題を発見している市民活動と連携を取る必要もあります。

住まいの政策の強化を

──どのような対応が求められるでしょうか。

「新しい困窮層」や貧困層への対応という点では、「住まいの政策」が大切です。1970年代までは各地で公営住宅が建設されてきましたが、土地価格の高騰以降、災害時などを除いてまったく行われていません。

コロナ禍では、離職などで住宅を失う恐れがあるときに一定の家賃を賃貸人などに支払う「住居確保給付金」の申請が急増しました。生活保護制度の中に住宅扶助という仕組みがありますが、「新しい困窮層」には制度的に当てはまらなかったからです。

コロナ禍のような経済ショックがあった場合でも、最低限、住まいの保障があれば何とか乗り切れる可能性が高まります。今から公営住宅を建設するのは難しいかもしれませんが、これまで長年にわたって経済政策として続けられてきた「持ち家政策」を転換して、広範囲に住宅手当を給付することも検討されるべきでしょう。ただし、住宅手当を創設すると地域の家賃相場が上がってしまうので、家賃相場をどう統制するかという問題が浮上してきます。

また、東京23区などはワンルームマンションの建設に規制をかけるなど、単身者の居住を避ける政策をとってきましたが、単身化社会の進展に合わせた政策転換が求められます。

本来、「第2のセーフティーネット」として予定されていた生活困窮者自立支援制度は、個別相談によって生活を支えつつ、教育訓練や就労のマッチングをすることが期待されています。コロナ禍の教訓として、相談員や予算を増やし、支援を厚くしておく必要があります。

自治体議会の役割

──自治体議会やその議員にはどのような役割が期待されますか。

自治体議会は、地域で得られた情報を地域の行政に生かしていく場です。「新しい困窮層」をはじめ、これまで行政が把握していなかった地域の政策課題を発見し、対応策を制度化して予算をつけていく役割があります。

しかし、個々の議員は自分の支持者や支持層のことを熟知してはいるものの、議会全体として地域課題に取り組む姿勢に欠ける傾向があります。先駆的な議会では個別の会派や議員を超えて、議会全体として住民との意見交換会を開いたり、有識者を招いて政策研究をしているところがあります。市民の知恵と力を借りながら、議会全体として取り組んでこそ、行政を動かすことができます。

議会が地域を変えてくれると期待する人が少なくなれば、議員のなり手が少なくなり、投票する人も減るという悪循環に陥ってしまいます。地域課題を解決するためには議会への市民参加が不可欠です。皆さんも、選挙はもちろんのこと、議会へ政治参加する機会を増やしてほしいと思います。

特集 2023.03地域を良くする地方議会へ
地方議会・地方議員に期待される役割とは?
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー