特集2023.03

地域を良くする地方議会へ
地方議会・地方議員に期待される役割とは?
災害に強い街づくりへ
防災力を高めるため
地方議員にできること

2023/03/13
防災力を高めるために地方議会や地方議員にどんなことが期待されるのだろうか。板橋区の防災課長や議会事務局長などを務め、防災と議会の関係に詳しい鍵屋教授に聞いた。
鍵屋 一 跡見学園女子大学教授/
一般社団法人危機管理教育研究所主席研究員

災害のたびに混乱

──地方議会は、災害対応においてどう位置づけられてきたのでしょうか。

日本の地方議会は、地方自治法制の中で力が強くならないように設計されてきました。背景には、首長と議会の二元代表制があります。国は、首長に対して機関委任事務という形で国の仕事を任せてきました。それに対し地方議会は、機関委任事務は国が決めることであるとして議会の中でほとんど議論してきませんでした。2000年の地方分権改革以降、機関委任事務は、法定受託義務と自治義務に分かれ、地方議会で議論できる領域は広がりました。しかし、厳しい財政状況の中で、地方議会が独立して力を持つことは依然として難しいのが現実です。

では、災害対応ではどうでしょうか。1962年に施行された災害対策基本法の中に、実は、地方議会に関する項目は、一つもありません。

地方自治法を見ると、災害関連で地方議会がかかわる項目が一つあります。災害時の非常対応として首長が予算を編成する際の項目です。首長が編成した予算を議会が否決し、首長がもう一度提出した後に議会が否決をしたら、首長はこれを不信任とみなして議会を解散できるという規定です。いわば、災害時は首長の予算に文句を言うな、という条文です。

このように災害時に地方議会が果たすべき役割を規定した法律は、ほとんどありません。

さらに、私が、板橋区議会の事務局長になったときに災害時の地方議会に関して調べてみたのですが、それに関する研究さえ、ほとんどありませんでした。だから地方議会は災害のたびに混乱に陥ってしまい、これまで力を発揮することができずにいました。

──現状はどうでしょうか。

東日本大震災以降、こうした傾向は少しずつ変わり、地方議会・地方議員の力を生かそうとする動きが出てきました。具体的には、議会基本条例の中に災害対応を定めたり、議員の行動マニュアルをつくったりする動きです。先進的な議会では、議会BCPをつくり災害時でも議会機能を発揮できる仕組みを整えています。

こうした動きを調査して整理しました。その結果、地方議会が力を発揮するためには、あらかじめルールを定めておくことが必要ということがわかりました。議員一人ひとりの行動マニュアルにとどまらず、議会全体の行動マニュアルを決めておくことが大切です。例えば、災害時に議会として災害対策支援本部を設置し、首長がつくる災害対策をサポートする。こうしたルールを決めておく議会が多いです。

2016年段階でこうしたルールを決めている議会は5%程度でした。現状では20%くらいになっているのではないでしょうか。

議員に期待される行動とは

──災害時、地方議員はどのような行動ができるのでしょうか。

災害時の議員の行動を研究したり、議員からヒアリングをしたりした結果、二つの行動が重要であることがわかりました。

一つは、議員が情報の結節点になることです。議員が、地域で集めた情報や要望を災害対策本部に伝える一方、災害対策本部で話し合われた内容を住民に伝え、情報の結節点になることが大切です。

ただし、気を付けるべきポイントがあります。議員が自分の地域や支持者の要望だけを行政に伝えるようなことはしないことです。声の大きい議員の要望ばかり通ってしまうと不公平感が強まり、かえってもめごとが起こります。

こうしたことを避けるために、議員が集めた情報を議会にいったん集約し、要望としてまとめた上で災害対策本部に伝えることが大切です。

二つ目は、議員が地域の支援活動をすることです。災害時は、行政の負担を踏まえると議会を開くのが難しくなります。そのため、議員はその間、避難所の運営や在宅避難者の支援など、地域で支援活動をすることが大切です。

この二つが、災害時に議員がすべき行動として重要です。さらに、議会BCPの課題として、議会をいつ正常化するのかを決めておくことも大切です。

──平時に求められる対応は何でしょうか。

地方議員には、議会で防災以外の部局に災害対応の質問をしてもらいたいと思います。

なぜなら、災害対応は、防災を担う部局だけではなく、役所全体で担うものだからです。例えば、避難所を運営するのは防災の部局ではなく、福祉の部局だったりします。同じように、物資の輸送を担当するのは管財課だったりします。けれども、防災以外の部局は、平時において災害対応に熱心に取り組んでいません。そこで議員が平時の議会や委員会の中で、災害対応について質問する。例えば、教育委員会で学校の防災対応について質問する。するとその部局の担当者は、質問に答えるために必要な対応をとるようになります。

いつ来るかわからない災害への対策は、日常の業務の中で埋没しやすいテーマだといえます。そこで、長期的な視点から議員が防災以外の部局に質問する。

このように議員の質問が、役所全体の防災力を高めることにつながります。議会は、危機管理を活動の柱の一つに据え、長期的な視点から行政の防災対策を提案してほしいと思います。住民が地域の防災について気になっていることを議員に質問してもらってもいいでしょう。

地域のつながりが大切

──どのような議会改革が必要でしょうか。

議会の大切な役割は、行政のチェック機能です。災害時においても、それは同じです。例えば、災害のどさくさに紛れて首長がおかしな専決処分を通そうとするケースもあります。こうした際、議会がチェック機能を果たせるよう、議会をいつでも開催できる状態にしておく必要があります。災害時には、道路などの交通インフラが寸断し、議員が議場にたどり着けなくなるかもしれません。そうした事態に備えるために、議会のDX化をしなければいけません。総務省は、地方議会の本会議に関してオンライン開催を認めていませんが、仕組みを早急に整える必要があります。

──住民は、地方議会のどのような点をチェックすればよいでしょうか。

災害に強い街づくりに取り組んでいるかどうかを見てほしいと思います。

2021年、災害対策基本法が改正され、高齢者や障害者など災害時に避難支援が必要な人について個別に避難計画を作成することが、すべての市町村の努力義務になりました。

災害時にうまく避難できない理由は地域のつながりの弱さです。特に高齢者や障害者は地域の中で孤立しがちです。そこで、例えば高齢者と地域住民の間にケアマネジャーなどの福祉専門職が入って、地域と高齢者と福祉をつなぎ、災害に強い地域をつくる。防災をてこにしながら、コミュニティーのつながりを強くしていく。それが地域共生社会です。個別避難計画の策定は、そのための重要な道具になります。そうした観点で、地方議会や議員が、災害に強い街づくりに取り組んでいるかどうかを見てほしいと思います。

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