特集2023.03

地域を良くする地方議会へ
地方議会・地方議員に期待される役割とは?
「選ばれる地方」になるための
「ビジネスと人権」時代の公共調達

2023/03/13
地方自治体は公共事業を発注するなど、地方経済における主要なアクターだ。地方経済の持続的な発展のために人権を重視した公共調達が求められるようになっている。
上林 陽治 立教大学特任教授

人権デューディリジェンスと公共調達

2022年9月13日、政府は、企業がサプライチェーン(供給網)上で起きる人権侵害を把握し、改善に取り組む「責任あるサプライチェーン等における人権尊重のためのガイドライン」をとりまとめた。同ガイドラインは、中小企業を含めた日本で事業活動をするすべての企業を対象とするもので、原料や部品を調達する2次以降の取引先や下請けを含むサプライチェーン全般において、人権侵害のリスクがないかを調べ、防止や対策を促すという人権デューディリジェンス(以下、人権DDという)の実施を求めている。

人権DDは、国、地方自治体も無縁ではない。むしろ積極的な役割が求められている。人権DDの淵源である2011年の国連「ビジネスと人権指導原則」は、その原則6で、「国家は、国家が商取引をする相手企業による人権の尊重を促進すべきである」と規定し、企業活動の監視にとどまらず、公共調達を通じて、企業が人権重視の姿勢に転換することを奨励するとしているからだ。

国・地方自治体に課せられた義務

地方経済の主要アクターである地方自治体は、公共工事を発注し、業務委託や指定管理者という手法で自治体業務をアウトソーシングし、さまざまな商品を調達している。地方自治体はこれら工事や業務委託等の契約相手方に対し、人権侵害が発生していないかを確認し、仮に人権侵害が発生ないしはその恐れが生じていた場合は、相手方企業にその是正を求める立場にある。これが「ビジネスと人権」時代に発注元である地方自治体に課された義務なのである。

守るべき人権は多岐にわたる。強制労働や児童労働だけではない。人種・障害・宗教・ジェンダーによる差別も認められない。また把握すべき人権侵害リスクは、工事請負先・委託先・調達先企業やそのサプライチェーンで発生する賃金の不足・未払、労働安全衛生の不備、過剰・不当な労働時間、社会保障へのアクセス拒否、労働組合活動の妨害等の結社の自由違反、表現の自由違反、居住移転の自由の束縛、さまざまなハラスメント、プライバシーの権利侵害、救済機関にアクセスする権利の侵害など幅広い。

先のガイドラインでも、米国国務省が人身売買だと酷評した技能実習制度を、人権リスクとして取り上げている。

コード・オブ・コンタクトの策定

これらの義務を実効あるものとするためには、地方自治体は人権重視の取引行動規範=コード・オブ・コンタクト(CoC)を定め、発注先・委託先事業者にその遵守を求める必要がある。なぜなら請負契約を締結するにあたり、人権侵害を排除する旨を書き込んだCoCを添付してはじめて、工事や業務委託の発注先企業が、事業実施プロセスで人権侵害状況をつくらないことが契約内容に包まれると理解されるからだ。

本誌読者ならばすでに感づかれていると思うが、上記の実施過程は、各地で制定されている公契約条例が求める手続きとうり二つなのである。

選ばれる地方になるために

コロナ禍が収束に向かい、経済活動が戻りつつある中、人手不足感が高まっている。とりわけ外国人材や女性・学生という「安い」労働力に依存してきた地方経済における人手不足は深刻だ。

外国人材も含めて「選ばれる地方」になるためには、誰もが安心して暮らしていける地域の基盤作りが必要だ。これが「ビジネスと人権」時代の公共調達に課せられた地方自治体の義務なのである。

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