特集2023.03

地域を良くする地方議会へ
地方議会・地方議員に期待される役割とは?
急増する「非正規公務員」
公務職場で進む内部崩壊
地域経済にもマイナス

2023/03/13
地方自治体などで「非正規公務員」が急増しており、低賃金・雇用不安が深刻な問題になっている。持続可能な住民サービスや地域経済にかかわる問題であり、住民にも無関係ではない。
瀬山 紀子 埼玉大学准教授/
はむねっと副代表

増加する非正規公務員

一言で「非正規公務員」といっても、さまざまな人たちがいます。典型的には、地方自治体に直接雇用(任用)されている会計年度任用職員や学校の教職員、中央省庁やハローワークなどの国の関連機関で働く非常勤の職員のことを指しますが、このほかにも、行政の指定管理者制度や、民間に委託した施設で働く非正規職員も非正規公務員といえます。

総務省によると会計年度任用職員など地方自治体に直接雇用される非正規の職員は約69万人います(総務省「会計年度任用職員制度等に関する調査結果」2020年)。この数字には、任用期間が6カ月未満のような短期任用の人が含まれていないため、そうした人も含めると、その数は112万人に上ります。また、国の省庁や関連機関などで働く非正規の職員は約15.5万人です。このように国や地方自治体に直接雇用されている人の数は把握できますが、指定管理制度や委託などの仕組みのなかで働く人の数の全体像は、把握されていません。その人たちも含めれば「非正規公務員」の数はさらに膨れ上がります。

非正規公務員の数は、2000年代以降、急激に増えてきたとされます。公務員制度改革などを背景に正規の公務員が削減され、そこに非正規公務員があてがわれてきたと考えられます。

地域によって異なりますが、直接任用の非正規公務員の割合は約4割だといわれます。中には、5割を超えている自治体もあります。例えば、役所の窓口にいる人は多くが非正規といっても過言ではありません。会計年度任用職員の場合もあれば、窓口業務を民間に委託している場合もあります。保育士や司書、各種相談員など、専門的資格を必要とするような職も含め、さまざまな職場で非正規公務員が働いています。

低賃金、雇用不安の現実

「公務非正規女性全国ネットワーク(通称:はむねっと)」では、非正規公務員を対象に、2021年、22年の2年間、2度のアンケート調査(『公務非正規労働従事者への緊急アンケート調査』)を行いました。いずれの調査でも回答者の9割が女性で、雇い主の8割以上が地方自治体だったこの調査では、回答者の約半数が年収200万円未満で、22年調査では、フルタイムで働く人でも約6割が年収250万円未満でした。この賃金水準は、正規公務員の3分の1から4分の1に過ぎません。

賃金水準が低いだけではなく、雇用不安もあります。会計年度任用職員は、その名のとおり、会計年度(1年)ごとの任用です。そのため、再任用された場合であっても、新しい人を任用したのと同等とみなすとされています。おかしなことに、再任用されたとしても、新たに試用期間が設けられるのです。こうした状態ですから、基本、昇給という考え方がないとも言えます。

現場では、職場で一番長い期間働いているのが会計年度任用職員ということもあり得ます。その人が、正規の職員に業務を教えることもあります。ただ、基本、公務員には労働契約法が適用されないため、「無期転換ルール」もないのです。調査では、10年以上働いている人もいたほか、5〜10年働いている人も3割以上いました。特に消費生活相談員や婦人相談員のように専門的な知識や経験が必要な仕事で、入職からほとんど賃金が上がらないまま働いている人がたくさんいます。

はむねっとが11月に開催した院内集会

公務労働の内部崩壊

会計年度任用職員制度は、2020年度にスタートしました。今年は会計年度任用職員が始まってから3年目にあたります。これに合わせて東京のように5年年限としている一部自治体を除いて、全国の自治体が、会計年度任用職員を公募しています。新しい業務ができたから公募するのではなく、今ある業務も含めてすべての業務で公募しているのです。そのため、会計年度任用職員として現在働いている人も再度応募しなければいけません。会計年度任用職員の人が自分の職場に行くと「職員募集中」という案内がされている一方、次年度の事業についても考えているという現状もあるようです。精神的につらい思いをしている人も多く、全国の職場で不安が生じています。

こうした3年目の公募には明確な根拠があるわけではありません。もともとは、総務省が会計年度任用職員の再任用に関するQ&Aの中で、国の期間職員では3回目の再任用の際、公募をしていると例示したものを地方自治体がならったに過ぎません。しかも総務省は昨年12月、この例示を削除しました。

自治体の中には、「3年公募」の規定を撤廃しているところもあるようです。事業の継続性や必要な人の確保という点からも、雇用年限で一律に規制するようなやり方は適していないという判断なのだと思います。

「会計年度任用」という、1年ごとに人を入れ替えることが前提の制度は、知識も経験を評価しない制度です。頑張って働いても評価されないし、培ったノウハウを生かす場もないと言えるため、職場でスキル形成しようというモチベーションが高まらないとも言えるでしょう。将来展望を見いだせず、辞めるという声もアンケートに寄せられました。

前提がおかしい制度の中で働き続けることは多くの疲弊をもたらします。また、継続任用されるかどうかわからない中で働いていることで、職場内でものが言えなくなる仕組みができてしまったとも言えるでしょう。現実と合致しないおかしな制度が続いていけば、公務労働の現場は、内部から瓦解していくと感じます。

正規の専門職員を増やす

こうした状況は住民サービスにも影響します。自治体の中には、会計年度任用職員が正規の職員より知識や経験があると困るから、その人たちは研修を受けなくてもいい、というところすらあると聞きます。住民サービスの向上とは真逆の動きです。

非正規職員との賃金格差などを理由にした正規職員の労働強化も進んでいると聞きます。無理な建前に現場を合わせようとするから、あちこちで職場の崩壊が進んでいると、さまざまな声を聞いて強く感じているところです。

こうした現状を変えるためには、自治体職員の働き方を変えなければいけません。対応策の一つは、正規の職員を増やすことだと思います。加えて、現状、正規の職員は、職務を限定せず部署移動を繰り返す人ばかりで、専門職として採用される人はごくわずかという現状も変える必要があると思います。非正規で働いてきた専門職の正規化を含む、職員体制の見直しが急務だと思います。

正規職員の増加は、人件費の増加につながるという意見もあるかもしれません。しかし、この間行われてきた公務員の人件費の削減は、地方経済にどれだけプラスだったでしょうか。地方自治体は、地域にとって大きな雇用の受け皿であり、女性にとってまともな職場の選択肢の一つです。公共部門の雇用は、社会的不平等や、男女の経済的な不平等を是正する役割を果たします。その効果を過小評価すべきではありません。

むしろ、公務員を削減し、労働条件を悪くしてきたことが、地域の疲弊と結び付いていることに目を向けるべきです。低迷する地域経済を転換し、中間層を復活させるためにも、まっとうな公務労働をつくることが求められています。

地方議会はまず、非正規公務員がどれだけ広がっているのか、その実態を明らかにしてほしいと思います。その上で、会計年度任用職員のあり方や、行政の民間委託なども含め、その効果を検証し、持続可能な自治体行政のあり方を提起してほしいと思います。公務労働をまっとうなものにしていくことが、持続可能な地域経済の鍵になるはずです。

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