特集2023.04

組織を強くする
人が集まる、人が生きる組織とは?
閉じた組織では活力を失う
組織を開き個人が活躍できる組織へ

2023/04/12
組織が活力を失っていくのはなぜだろうか。どうすれば活力を高めることができるだろうか。日本は、「何もしない方が得」という活力のない状態に陥っていると指摘する同志社大学の太田肇教授にその処方箋を聞いた。
太田 肇 同志社大学教授

活力を失う組織

──組織のメンバーが、やる気を失っていくのはなぜでしょうか。

捉え方はいろいろあると思いますが、私は、日本社会全体が悪い意味の共同体になっていることが、その根本にあると考えています。

共同体には良い面もありますが、悪い面もあります。その一つは、共同体がそのメンバーだけを大切にすることです。現代は、グローバル化や情報化が進み、ボーダーレス化がますます進んでいます。その中で、組織のメンバーだけを大切にし、組織を維持することが難しくなっています。

もう一つは、共同体は閉鎖的で同質的な集まりになりがちで、いわゆる「空気」を濃くし過ぎてしまうことです。その中でさまざまな制約が生まれ、同調圧力が、組織のメンバーのやる気をそいでいます。

職場が「ゼロサム」状態(合計するとゼロになること。一方の利益が他方の損失になること)になると、「出る杭は打たれる」職場風土が生まれます。「ゼロサム」状態では、高い評価を誰かが得ると誰かの評価が低くなり、誰かがポストを得ると誰かがポストを失います。こうして限られたパイを組織の中で奪い合う構造になると、メンバー同士がけん制し合うようになり、結果的に自分から挑戦するよりも、「何もしない方が得」という計算が働くようになります。何もしない方が周囲から疎まれずに済み、受け入れてもらえるからです。日本社会全体がこうした状態に陥っており、社会の活力が失われているのではないかと考えています。

──組織内でのパイの奪い合いを解消するためには?

そうした行動は、個人としては合理的ですが、組織としてみれば活動全体が縮小していき、組織が衰退していきます。メンバーの行動を変え、パイを大きくしていかなければいけません。

ただ、分配するパイを賃金や役職ポストに限ってしまえば、先ほど説明したようにパイには限界があります。そのため、それとは別のパイを用意する必要があります。例えば、金銭やポストだけではなく、仕事の質や自己承認など、無形の報酬を得られるようにすることも挙げられます。従業員が自分のやりたい仕事をできるようにしたり、仕事を認めてもらったりすることも同じです。このように金銭以外のパイを用意し、パイそのものを大きくする必要があります。具体的には、社内FA制度や役職公募制を設けて、従業員が希望するキャリアをサポートすることも一つの方法です。

また、パイを共同体の中に限らず、共同体の外に求めていく視点も大切です。例えば、副業を解禁して従業員が企業の外で活躍できるようにすれば、パイは企業の外にも広がるので、共同体内における「ゼロサム」状態を解消できます。その意味では、働く人のキャリアが外部に開けているかどうかも大切です。

──今までの日本の組織はむしろ「あうんの呼吸」のような同質性を強みにしてきたイメージがあります。

これまでの日本の組織は専門性を軽視してきたきらいがあります。それではプロジェクトに対するそれぞれの貢献が見えません。これから求められるのは、それぞれの従業員が専門性を発揮してチームに貢献する組織です。専門性が組織の外部で評価されれば、社会的な承認を得られ、パイの奪い合いにもつながりません。チームのメンバーそれぞれが専門性を発揮して、プロジェクトを完成させていく。そうした仕事の仕方が増えていくと思います。組織のオープン化、フラット化がこれからのキーワードだと考えています。

──従業員それぞれがやりたいことを言い出し始めたら、会社はそれを受け止めることができるのでしょうか。

会社はある意味で、従業員の「わがまま」を認める必要があります。ただ、それだけではなく、会社としては、「あなたのしたいことは認めてあげます。一方で、あなたは会社や部署にどのように貢献できるのですか」と問う必要があります。見方によっては、ドライな関係だといえるでしょう。

同質性への対処法

──共同体の意識を変えていくためのポイントは?

共同体を変えていくのは容易ではありません。背景の一つには、「やっても無駄」という学習性無力感が積み重なってしまったこと。もう一つには、組織が同質的な人ばかり集まってしまっていることがあります。

学習性無力感を解消するためには、ロールモデルが身近にいることが大切です。周りに成功している人がいれば、それをまねる人が増えてきます。

他方、同質性の問題に対処するために手っ取り早いのは、異質な人を一定の割合で職場の中に入れていくことです。例えば、転職してきた人や外国人、社外のフリーランスがいるだけで職場の風土も変わっていくはずです。

そのためには人事部の役割も大切ですが、人事部は、管理が難しいとか、人間関係が乱れるという理由で異質な人を組織に入れることを嫌います。ですから、トップの役割発揮が重要です。トップが覚悟を決めて組織を変えていかなければいけません。

「する方が得」へ

──労働組合に対する期待は?

企業のオープン化が進めば、働く人は一つの企業に閉じこもらず、キャリアを形成するようになります。ただ、そこにはリスクもあります。個人の立場は弱いので、それを支えるセーフティーネットや社会的なインフラが重要です。例えば、転職支援や教育訓練支援などを労働組合が支えていくことも大切です。

──日本社会は変われるでしょうか。

組織の中に閉じこもり、パイを奪い合っていると組織は活力を失っていきます。それを変えられないのは、個人レベルでは、その方が得になるからです。ですから、この状態を変えるためには、「する方が得」という選択肢をプレーヤーに示す必要があります。とりわけ組織を変える権限を持っているリーダーにその選択肢を示すことが大切です。それは、制度を変えていくことでもあります。

「何もしない方が得」というのは、雇用システムも無関係ではありません。政府が雇用の流動化を進めようとしてもなかなか進まないのは、転職する方が不利になると思われているからです。セーフティーネットの整備も含めて、「する方が得」という選択肢を示すことが重要です。そのためには、それを促す制度、仕組みづくりが必要です。

情報化が進めば、組織のオープン化やフラット化はさらに進んでいきます。「何もしない方が得」という消極的な姿勢になっているままでは、日本社会全体はますますじり貧になっていきます。閉ざされた組織にメスを入れて、開かれたものへ変えていく必要があります。

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