組織を強くする
人が集まる、人が生きる組織とは?多様な人材を生かす
インクルージョンの実践が大切
ダイバーシティ経営が必要な理由
ダイバーシティ経営が求められる理由は、変化に対応するためです。変化の中でも大きな要素は、人口構造の変化です。特に日本は少子高齢化と人口減少を背景に、女性や高齢者、外国人労働者の労働市場への進出が進んでいます。働く人の多様化に合わせて、組織のあり方を見直す必要性が高まっています。
また、製品やサービスを提供する消費市場も多様化が進んでいます。顧客の多様化に対応するためにも、多様な人材が重要です。このように多様化は企業の内側と外側で進んでいます。そうした中で組織のあり方が今までどおりというわけにはいきません。変化に対応しなければ、ビジネスそのものが立ち行かなくなってしまうのです。
また多様性が重要なもう一つの理由は、多様性がイノベーションを生み出す要因であること。異なる知識や経験を持つ人たちが刺激し合うことでイノベーションは生まれます。企業を取り巻く変化が激しい時代の中で、企業が生き残るためにはイノベーションが不可欠です。この観点からも多様性が求められています。
多様化がもたらす対立と対策
ただし、職場の多様化が進むと意見の対立も起こりやすくなります。そこで大切なのは、会社のミッションやビジョンを共有すること。多様化が進めば、意見が食い違う際にお互いに譲り合う場面も出てきます。性格や価値観、属性がばらばらな人たちが協力し合って一つの目標を達成するためには、組織のメンバーが会社のミッションやビジョン、目的を共有することが欠かせません。
個別の意見が増えて調整が大変だと思う人もいるかもしれません。しかし多様化は企業が成長するために行うものです。企業の成長の足を引っ張る多様性は見直す必要があります。多様化が進んだ職場において個別対応が増えたとしても、経験を積み重ねれば、対応策も蓄積されていくでしょう。
インクルージョンとエクイティ
ダイバーシティ経営は、多様な人材を採用するだけでは実現しません。多様な人材一人ひとりが能力を発揮できる環境が必要です。そこで求められるのが、「インクルージョン(包摂)」です。
インクルージョンとは、組織におけるすべての人が対等に組織に参画し、個々の違いや、経験・能力が最大限に生かされている状態のことを言います。こうした状態は、多様な人材が職場にいるだけではできあがりません。なぜなら人は自然に任せていると、似た者同士で集まってしまうからです。例えば、企業が多様な人材を確保しようとマイノリティーを採用した場合、その人が職場の中で疎外感を感じてしまえば能力を発揮できません。その人が、職場の中で「受け入れられている」「能力を発揮できている」と思えるような環境を意図的につくらなければならないのです。
そのためには、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)を解消したり、職場の心理的安全性を高めたりする施策が有効です。例えば、自分からあいさつするとか、目を見て話すとか、そういった日常的な言動や態度が、排除しないコミュニケーションのために求められます。
また、「エクイティ(公平性)」という考え方も大切です。多様な人材がいる場合、スタート地点は皆同じではありません。公平さを担保するために、個別にサポートしていく必要があります。
ウェルビーイングを高める
日本企業のダイバーシティ経営が他国に比べて遅れている背景には、意思決定層の構成が変わっていないことがあります。現在の意思決定層は、過去のやり方でうまくいった人たちなので、そのやり方を現在にも使おうと考えがちです。今までのやり方でうまくいったと思っているから、ダイバーシティ経営がなかなか進まないのです。意思決定層の多様化をさらに進める必要があります。
また、働きやすさをもっと追求していく必要もあります。働く人が幸せを感じる方が、企業のパフォーマンスは高まります。頑張って仕事をして幸福になるのではなく、幸福な人が頑張るから成功できるのです。企業は、働く人に幸せや安心を感じてもらうチームづくりをすることが求められています。従業員のウェルビーイングやエンゲージメントを高める施策は今後さらに重要になるでしょう。
企業は多様化の波を避けて通ることはできません。多様化に上手に対応した方が、企業のパフォーマンスは上がり、企業の生き残りにつながります。経営者は、ダイバーシティ経営に本気で取り組む必要があります。