特集2023.04

組織を強くする
人が集まる、人が生きる組織とは?
人間らしく豊かに働く
進化する組織「ティール組織」とは?

2023/04/12
2018年にフレデリック・ラルー氏の著書『ティール組織』が大きな話題となった。進化した組織「ティール組織」とは何か。日本でよくある誤解を解きつつ、組織を進化させるために必要なことを考える。
嘉村 賢州 東京工業大学リーダーシップ教育院特任准教授
場とつながりラボhome's vi代表

ティール組織の特徴

ティール組織は、最近注目されている「進化型組織」の一つといわれています。その特徴として、階層のないフラットな組織構造や、指示系統やルールのない組織構造がよく挙げられます。ただ、それは正しい理解ではありません。

ティール組織は、「生命体的な組織」というのが、最も正しい理解です。世界中では今、人を機械の部品のように管理する組織ではなく、人々の集まりを生命体や生態系のように捉え運営する組織が現れています。そうした組織を分析したものが、ティール組織なのです。

こうした組織には、三つの特徴があります。

一つ目が、自主経営・セルフマネジメントです。上司、部下という上下関係をベースにした組織ではなく、現場の判断で意思決定を行います。

二つ目が、全体性・ホールネスです。職場の中で自分の人格に仮面をつけて過ごすのではなく、家族や友人と過ごすようにありのままの自分でいられるという特徴があります。

三つ目が、存在目的・エボリューショナリー・パーパスです。これは、固定的なゴールや計画に基づいて組織を運営するのではなく、周辺環境も含めて組織が変化しながら成長していくことを指します。

日本での誤解

ティール組織が日本で紹介されたのは5年ほど前です。フレデリック・ラルー氏の著書は大きな話題になりましたが、一方でティール組織には「ノー・ルール」「ノー・階層」というイメージが先行してしまい、その結果、「そんなのは無理」「理想論」という理解が広がってしまいました。しかし、ティール組織にもルールはあります。ティール組織では、性悪説的なルールや、多すぎるルール・プロセスはなくなっていきますが、性善説ベースでしっかりとしたルールの構造は残ります。

例えば、ティール組織の事例としてよく登場するオランダのビュートゾルフは、1チームは12人を超えないというルールを定めています。また、ある組織では機械を購入することや自分の給料のことなどを自分で決めることができますが、「助言プロセス」を踏まない決定をすれば、解雇されることもあります。

また、ティール組織は、自分を律することのできる優秀な人しか向いていないといわれますが、そんなことはありません。優秀さで人を選ぼうとすると優秀でなければいけないというプレッシャーにさらされ、全体性が阻害されます。そこに真の安全性はありません。

大切なのは何をめざすのかという目的に対する共鳴です。参加するメンバーが、自分たちがその組織になぜ集まっているのか、世の中と喜びを分かち合うために次にどのような行動をすればいいのかを考え続けることが大切です。

「多様性のわな」の回避

ティール組織を「グリーン」な組織と混同している議論もよく見かけます(図表参照)。「グリーン」は、メンバーの多様性を認め合い、できるだけ平等に行動することをめざします。「グリーン」は、「アンバー」や「オレンジ」が進化した組織ですが、「多様性のわな」にはまりやすいという弱点があります。

「多様性のわな」とは、すべての人の価値観を認め合おうとする場合に起こります。例えば、すべての人の意見を尊重しようとして話し合いがいつまでも終わらなかったり、みんなで決めたことを言い訳にして誰も責任を取らなくなったり、つぎはぎだらけの計画になったり、それぞれがそれぞれに意思決定することで小粒のプロジェクトが増産されたりします。また、平等のカルチャーが強すぎると、異端児が生まれづらいという弱点もあります。

ティール組織では、創業者の世界観が大切にされます。とはいえ、それが従業員に強制されるわけではありません。創業者の描くストーリーや方向性、方向感覚はあるものの、その中で現場の感覚で意思決定をしていきます。このことで、現場は納得感と責任を持って行動することができ、「多様性のわな」を回避することができます。トップの天性の感覚と現場のセンサーの感覚を生かした組織が、ティール組織であると言えます。

人類のパラダイムと組織の発達段階
『ティール組織』日本語版付録

変化への対応

ティール組織に進化する組織がなぜ現れているのでしょうか。戦略思考で予測可能な分野であれば、「アンバー」や「オレンジ」のままでいいかもしれません。ただ、経営トップ層でさえ先の見えない時代では、ティール組織の価値がより高まっていくと思います。これまでのように少数の階層の上の人たちが、過去の経験をもとに判断するやり方では通用しなくなっていきます。それよりも、現場レベルで意思決定ができた方が変化に素早く対応できます。新しい価値を生み出したり、変化に対応したりするためには、ティール組織の手法が求められるようになっています。例えばアメリカのIBMでは社内通貨を発行し、従業員が新規事業に自由に投資できるようにし、一定金額が集まったプロジェクトを本格化させるという手法を導入しています。

組織を進化させる

ティール組織への進化をめざすなら、経営者には相当の覚悟が求められます。ティール組織の提唱者のフレデリック・ラルー氏も述べていますが、ティール組織は正解でもないし、めざすべきものでもありません。むしろ、株主利益の最大化が求められる現在の社会環境は、ティール組織に適合していないともいえます。それでも「グリーン」や「ティール」をめざすということは、人間らしく働ける組織をつくり、社会をもっと良くするサービスを生み出したいと願うからです。

大切なのは、自分たちの組織が健康で健全なのかを問い直すことです。働く一人ひとりが、外的な恐れや焦りを気にせず、内なる情熱や思いやりに基づいて働けているか。それを見つめ直すことがスタートです。組織のあり方を変えようとするならば、5〜10年という時間がかかります。まずはしっかり勉強することから始める必要があります。

組織を見直す上で、ティール組織の手法を生かすことはできます。例えば、全体性と存在目的の要素は職場にあるけれども個人に権限がないのであれば、自主経営の手法を取り入れればいいし、自主経営と全体性の要素はあるけれども、製品やサービスに自信がないというのであれば、存在目的を問い直すということができます。全体性が足りなければ、安全・安心に発言できる環境や制度を取り入れていくといいでしょう。個人を評価するような評価制度は、人を部品のように扱う制度だと言えます。

ティール組織はメディアで大きく取り上げられた後、いったん落ち着きましたがインターネットでの検索数はじわじわ増えています。ティール組織は単なる理想論ではありません。現実的にそうした組織が増えていることをラルー氏が紹介したに過ぎません。そういう意味で日本も組織変革に根本的に向き合う時期が来ます。変化が遅れるほど、対応が難しくなります。変化の必要性に気付く組織がもっと増えてほしいと思います。

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