トピックス2023.06

技能実習制度を廃止し新たな制度創設へ外国人労働者の受け入れはどうなる?
ともに社会をつくる存在として
環境整備を

2023/06/12
政府の有識者会議が、技能実習制度を廃止し、新たな制度の創設を検討するとした中間報告書をまとめた。報告書の内容をどのように評価すべきか。めざすべき方向性はどのようなものか。識者に聞いた。
鈴木 江理子 国士舘大学教授

中間報告書の問題点

5月に政府の「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」がまとめた中間報告書では、技能実習制度の目的と実態の乖離を認め、「技能実習制度を廃止して人材確保及び人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべき」ことが示されました。

構造的な人権侵害を内包する技能実習制度に対しては、以前から廃止を求める声がありました。それにもかかわらず、「適正化」という言葉で、制度は存続・拡大されてきました。中間報告書において、ようやく「廃止」が明記されたことは一歩踏み込んだようにも見えます。けれども、そうとは言えません。なぜなら、新たな制度の目的に「人材育成」が残っているからです。

技能実習制度が人権侵害を生み出す原因の一つは、転籍が制限されていることです。人材育成を目的に掲げるゆえに、実習実施計画に基づいて技能等を修得しなければいけません。実習生に自由な職場移動を認めてしまうと、技能等の修得ができなくなるという理由で、労働者の権利であるはずの転籍を制限することが正当化されてきました。

中間報告書では、人材確保という目的を新たに加えることで、転籍制限を緩和するとしています。けれども、制度の目的に人材育成を掲げている限り、抜本的な見直しとは言えません。

技能実習制度と地域の衰退

人材育成という目的を残す意図は、新たな制度でも外国人を職場や地域に縛り付けておきたいからだと思います。

有識者会議のメンバーには、業界団体や自治体の首長なども含まれています。彼らは、転籍を認めてしまえば外国人が流出してしまうことを懸念しているのだと思います。

これは、制度で縛らなければ、外国人が職場や地域から出て行ってしまうことを暗に認めているようなものです。確かに地方は、最低賃金が都市部より低かったり、生活の利便性や娯楽性が都市部ほどでなかったり、都市部との競争で不利な立場にいます。けれども、実習生を制度で縛り付け、問題を覆い隠したところで事態は何も変わりません。むしろ、実習生に負担を押し付け、問題を先送りしている間に、地域の衰退が進んでしまったとも言えます。

そもそも、地方からの人口流出・東京一極集中を緩和するためには、地域の魅力を高めることが必要だと言われてきました。技能実習制度は、そのための努力を怠る原因にもなっていました。現状のままでは生き残れない産業が、技能実習制度によって安価な労働力が供給されることで、改善されることなく存続してしまった側面もあります。

実習生に負担を押し付けるのではなく、職場や地域の魅力を高める努力をしなければ、本質的な問題は解決しません。職場や地域の魅力が高まれば、日本人にとっての選択肢にもなり、日本人も戻ってくるのではないでしょうか。

受け入れ体制にも課題

受け入れ体制などにも大きな問題があります。

中間報告書では、監理団体や登録支援機関の適正化を図るとしていますが、果たして本当に改善されるかどうか、あまり期待がもてません。監理団体の適正化は、技能実習法の目的の一つであったはずですが、実際は改善されていません。

より本質的には、リクルートやマッチングといった仲介を民間団体に任せることに限界があります。国境を越えた人の移動には、さまざまなコストが生じます。そのコストを民間に負担させると、弱い立場の人間、つまり移住する当事者にコストが押し付けられがちです。

他方、そのコストを受け入れ企業に負担させれば、企業はコストが回収できるまで労働者を縛り付けようとします。

こうした状況を踏まえれば、外国人労働者のリクルートやマッチング、国際移動には、公的機関の関与と支援が不可欠です。韓国の雇用許可制がすべてうまくいっているとは言えませんが、学ぶべき点はあります。

ともに社会をつくる存在

このように見ると、中間報告書は、技能実習制度を廃止し、新たな制度を創設するとしているものの、看板を付け替えたマイナーチェンジにとどまるものだと言えます。

日本政府は、「移民政策ではない」と繰り返しつつ、外国人労働者の受け入れ拡大を図ってきました。外国人を日本社会でともに暮らす「住民」としてではなく、単なる「労働力」として捉え、家族の帯同や形成を認めず、都合よく一定期間で帰国させるという制度です。

しかし、少子高齢化や人口減少が深刻化する日本が必要としているのは、単なる労働者ではなく、ともに地域を支える住民ではないでしょうか。加えて、周辺諸国との労働力争奪戦も激しくなっていきます。そうした状況を踏まえて、制度を検討すべきです。

私は、技能実習制度や特定技能制度に限らず、専門的・技術的労働者や身分に基づく在留資格をもつ外国人など、日本で働くすべての外国人を含めて、受け入れのあり方を議論する必要があると考えます。日本が必要とする外国人であるならば、在留期間に上限を設けたり、転籍や家族の帯同を制限したりすることなく受け入れるべきです。

数年で必ず帰国することを前提とした制度より、日本での定住が可能な制度のもとで働き暮らした方が、学習意欲や地域との交流意欲も高まるはずです。

家族の帯同にも、さまざまなメリットがあります。例えば、単身よりも家族と暮らした方が精神的にも安定するし、家族がいれば、家賃が安く、家が広い地方の方が住みやすいかもしれません。子どもがいれば、地域で育つ子どもが増え、地域の活性化にもつながります。

将来推計人口を踏まえれば、これからの日本は、国外から来る人とともに社会をつくっていく必要があります。そのためにも、多様な人たちと暮らすための制度や環境を整えることが急務です。もちろんコストはかかりますが、それは持続可能な社会を構築するための未来への投資です。職場や地域の魅力が高まれば、日本で働き暮らすすべての人にとっても、好ましいことです。

同じ権利を認める

労働組合の不安の一つは、大量の外国人労働者が流入することで、日本人労働者の労働条件が低下することだと思います。しかし、国家が国境をコントロールしているため、外国人が無尽蔵に入ってくることは現実的にあり得ません。

他方、悪い条件で働く労働者が増えると、自分たちの条件も引き下げられてしまうのではないかという懸念もあるでしょう。私も安価で便利な労働者を受け入れることには反対です。だからこそ、実習生のような権利が制限された労働者を生み出す制度を存続させてはいけないのです。権利が制限されれば、悪い条件でも働き続けざるを得ず、全体の労働条件の引き下げにもつながるからです。

外国人も日本人と同じように権利を行使でき、セーフティーネットで守られることが重要です。そうすれば、労働条件を悪化させることはないはずです。国籍に関係なくともに働く対等な労働者として、労働組合は、外国人労働者の組織化を積極的に進めてほしいと思います。

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