地域で生かすICT
原動力は現場の力ICTを地域の教育で生かす
「GIGAスクール構想」を進める
石橋みちひろ参議院議員の取り組み
課題の解消に奔走
「GIGAスクール構想」は当初、2020年から5年間かけて1人1台端末とすべての教室のネットワーク化を達成するという計画でした。しかし、2020年3月、新型コロナウイルスの影響で学校が一斉休校する事態になり、子どもたちの学ぶ権利を確保する必要性が高まったことで計画が大幅に前倒しされ、1年で整備を進めることになりました。
現場の関係者の皆さんには相当なご苦労をおかけしましたが、おかげさまでハード面の整備は一気に進み、2022年3月までに、1人1台端末とすべての教室のネットワーク化は、ほぼ達成できたのです。
この間、私は、超党派の議員連盟である「教育におけるICTの利活用促進をめざす議員連盟」(以下、ICT議連)の事務局長として、さまざまな現場の声を聞いて課題に対応してきました。
例えばハード面では、端末を一斉に使用するとネットワークがつながりづらくなるというボトルネックの問題。これは技術的な支援の結果、相当程度解消されてきました。また、端末が故障した際などの予備機の手当てをしていなかったという問題。これも徐々にではありますが、対処が進んできました。加えて、先生の端末が生徒用よりも古く、授業がスムーズに進まないという課題や、高校での端末・ネットワーク環境の整備という課題にも対応を進めてきました。
これから魂を入れていく
「GIGAスクール構想」の狙いは、ICTを活用することで従来型の授業ではできなかった一人ひとりの子どもを中心においた新しい学びを提供するとともに、教育の地域間・学校間格差をなくし、すべての子どもたちに豊かな学びの環境を保障することです。
その観点からすれば、その土台となる端末とネットワークの整備というインフラ環境の整備はできてきました。問題は、そうした土台を子どもたちのためにきちんと活用できているかどうかです。実際、計画1年目の終わりころには、端末は配備されたもののまだ使われていないという話もあちこちから聞こえてきました。
そのため、計画2年目に入るころからICT議連として端末の有効活用の促進を文科省に提言してきました。特に力を入れたのが、「GIGAサポーター・ICT支援員」の確保です。ICTを教育現場できちんと活用するためには、ノウハウや経験を持つ人材が必要です。学校や自治体がICT支援員を効果的に活用できるように、予算の確保や自治体同士の連携をサポートしてきました。ただ、自治体によっては人材難で、確保が難しいという声も聞こえています。この点は、情報労連の皆さんにもぜひ協力していただきたいところです。
ICTを活用した教育の好事例は、2010年の民主党政権時代から「フューチャースクール事業」「学びのイノベーション事業」などの実践を積み重ねた結果、すでにたくさん生まれていて、共有されています。例えば、子どもの習熟度に応じて個別にカスタマイズされたドリル問題を出せるようになったりとか、他の地域や世界とつながって、普段聞けない専門家の話が聞けるようになったりした活用例が紹介されています。特に効果的なのが、グループ学習や共同学習でのICT活用です。例えば、グループで調べものをして、ディスカッションをして発表するような授業で、これまであまり参加や発言ができなかった子どもが積極的に参加するようになった例も多数あります。子どもたちの個性や長所を伸ばすような活用方法を今後も広げていけるように支援していきたいと思います。
大切なのは、現場の先生方がICTを効果的に活用して、それが子どもたちの成長や将来への可能性につながることです。「GIGAスクール構想」に本当の意味で魂を入れていくのが、これからの私たちの大事な役割だと考えています。
端末の更新時期
「GIGAスクール構想」がスタートしおよそ3年半が経過する中で今後、端末の更新時期に差し掛かってきます。
1人1台端末環境がようやく整備されたわけですから、ここで振り出しに戻すわけにはいきません。端末の更新を自治体任せにすれば、できる自治体とできない自治体との格差が生まれてしまいます。今後、ソフト面を拡充させていくためにも、土台となるハード面を維持・拡充する必要があり、議連としても、そのためには国がしっかり予算をつける必要があると考え、すでに昨年段階から文科省にその要請をかけてきています。
その効果もあって、政府は今年6月の「骨太の方針」で端末の更新を「国策として」進めていく方針を示し、その後の概算要求でも来年度更新を迎える端末の調達予算が盛り込まれています。まずは予算案に確実に予算が盛り込まれるよう、ICT議連として努力を続けていきます。
ただ、端末の更新にはいくつか課題も見えています。最初の導入時の端末予算は、1台一律4万5000円でした。そもそも、この価格の端末では性能に限界があります。小学校高学年や中学生がより高度な授業を行うには、スペックが不足します。本来であれば、学習レベルに合わせた端末を用意する必要があり、それが可能な予算組みにすべきです。
円安も課題になっています。3年半前と比べて実質的に4割近く円安に振れているため、同じ予算では同じ性能の端末を確保することができません。こうした課題も、予算案策定に向けた協議の中で、政府にかけあっていきたいと思います。
組合員の皆さんとともに
情報労連の組合員の皆さんには、ネットワークの整備などで多大なるご尽力をいただきました。これからネットワークの更新も迎えることになるので、今後もハード面で「GIGAスクール構想」を支えてほしいと思います。
また、私から皆さんにお願いしたいのは、ハード面だけではなく、ソフト面でも積極的な貢献をしてもらいたいということです。情報労連の組合員の中には、ICTの知識やノウハウを持ったプロがたくさんいます。その知識やノウハウを「ICT支援員」として地域の学校教育を支えるために生かしてほしいのです。労使でぜひそのための相談をしていただきたいと思いますし、私たちも環境整備に取り組んでいきます。
「失われた30年」といわれるこの期間、日本は教育分野で世界から決定的な後れを取りました。その背景には、21世紀の情報化社会・ICTの時代にふさわしい教育体制をつくってこなかったことがあると考えています。私はこれを政治の失敗だと捉えています。
資源の少ない国である日本にとって、最大の資源は人です。さまざまな可能性を秘めた子どもたちが、未来に向かって成長できる環境をつくるのが「GIGAスクール構想」であり、目的だと考えています。
これは誰か一部の人だけが得をする話ではなく、日本全体の将来の話です。未来を切り開く子どもたちの学びの環境をより良いものにしていくことが、みんなのためになる。この想いを共有してもらい、組合員の皆さんとともに教育現場でのICTの利活用を進めていきたいと思います。