特集2023.11

地域で生かすICT
原動力は現場の力
市民がITを活用し地域課題を解決
シビックテックは社会をどう変えるか

2023/11/13
市民自らがITの力を生かして地域の課題を解決しようとするシビックテックが広がっている。どのような活動が展開されているのか、活動が持つ意義は何かなどについて聞いた。
竹下 智 安田女子大学教授

シビックテックの定義

「シビックテック」という言葉に明確な定義はまだありませんが、学術論文などでは次のように言われています。

「市民主体で自らの望む社会を創りあげるための活動とそのためのテクノロジのこと」(稲継編2018)、「社会や地域の課題をICT等のテクノロジで解決していこうという活動そのものとその技術」(福島2019)。また、シビックテックの代表的な団体である「Code for Japan」の関治之氏は、「地域コミュニティがテクノロジーを活用して行政とも連携しながら、課題解決をしていく活動」とシビックテックを定義しています。こうした定義を踏まえるとシビックテックは、「市民自らが地域の抱える課題に対してITを活用して主体的に取り組む活動」だといえます。

活動の広がり

こうした活動が盛んになった背景には、アメリカの動きがあります。2009年にオバマ大統領が、オープンガバメントイニシアティブという取り組みを始めました。この取り組みは、「透明性」「参加」「協働」の三つを原則にし、政府の政策形成への市民の参加を促しました。その後、ITの専門家たちによる「Code for America」が立ち上がり、ITの専門家を各地域に派遣するなどの活動が始まったといわれています。

日本では、2011年の東日本大震災以降、ITを活用したボランティアが広がり、ここからシビックテックの動きも広がりました。2013年5月に金沢市で「Code for Kanazawa」が立ち上がり、その年の10月に「Code for Japan」が設立されました。シビックテックの活動は徐々に広がっており、例えば「Code for Japan」の事業規模は2019年には6700万円でしたが、2023年には1億5000万円まで拡大しています。

シビックテックの活動

日本のシビックテックの特徴は、ブリゲードと呼ばれる地域単位の組織がたくさん存在していることです。「Code for 〇〇」のように地域単位で活動する組織は、全国で約90近くあります。そこに参加しているのは、地域のIT企業の経営者や従業員のほか、自治体職員、その他社会人、地域住民などです。

定期的に会合を設けて、新技術の紹介や地域課題などの共有、課題解決のためのアイデア出しや、時にはアプリの開発などを実施しています。また、自治体に技術者を派遣することもあります。

有名なアプリでは、「Code for Kanazawa」が開発したごみ出しサポートのアプリである「5374ゴミナシ.jp」や、「Code for Japan」の“東京都の新型コロナウイルス感染症対策サイト”等があります。また、自治体への技術者の派遣では、「Code for Japan」が2014年から2019年にかけて全国22の自治体に58人の技術者を派遣してきました。

このほか、シビックテックの活動としては、「CoderDojo」という活動もあります。これは2011年にアイルランドで設立された子どもたちを対象にプログラミングの場を提供する非営利のプログラミングクラブです。特徴は、子どもたちにプログラミングを教えるのではなく、子どもたちが自由にプログラミングをしつつ、わからないところを大人たちに聞くというスタイルで運営されていることです。基本的に無料で開催され、保護者からの寄付で成り立っています。日本でも現在200以上の「CoderDojo」が存在しています。

社会変革の土台に

シビックテックは草の根の取り組みです。その活動を根付かせるためには技術者だけの集まりではなく、地域住民や自治体職員が参加するなど、幅広い層の人が集まる場にすることが大切です。

技術者だけの集まりにしないことは、地域社会のDX実現のためにも重要です。DXは、地域の人々の意識や文化を変革しなければ実現しません。地域の人たちが自分たちにはITは関係ないと思ってしまえば地域社会のDX実現は困難です。そのため、普段はITとあまりかかわりのない住民や自治体の職員がシビックテックに参画することが重要です。シビックテックに多様な人が参加することで、さまざまな化学反応が期待されます。

日本のDXの課題の一つは、ITを活用するユーザー企業側にIT技術者が少ないことです。IT技術者の約7割がベンダー企業に所属しており、ユーザー企業には約3割しか所属していません。アメリカはほぼ逆の割合でIT技術者がユーザー企業に所属しています。これが日本でDXが進まない要因の一つといわれています。中でも、日本は公務分野に所属するIT技術者が少ないと指摘されています。基本的に、自治体職員は3年に1度ローテーションで職場を異動するため、DXを推進できる人材を育てにくい構造になっています。

そのためIT企業が自治体に技術者を派遣することも効果的です。この活動も、シビックテックの一つと言えるのではないでしょうか。こうした取り組みは、自治体にメリットがあるだけではありません。企業にとっても企業の枠を超えて活躍する「越境人材」の育成に活用できます。IT技術者にとってもシビックテックは、社会貢献だけではなく課題解決力の向上などにつながります。

テクノロジーが社会に浸透し、企業も社員全員にDX研修を実践するなど、ITの素養を持つことが当たり前の時代になりました。その中でシビックテックの活動が広がり、地域にその知識やノウハウが還元されるようになれば、社会は変わっていくと思います。

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