特集2023.11

地域で生かすICT
原動力は現場の力
エネルギーの地産地消とICT
新たなサービスを展開できるチャンス

2023/11/13
脱炭素社会に向けて再生可能エネルギーの拡大が求められる中、ICTの利活用が不可欠になっている。エネルギーの地産地消にICTが果たす役割などについて聞いた。
吉田 明子 国際環境NGO
FoE Japan

ICTで需給バランスを調整

──再生可能エネルギーの普及にICTはどう活用されているでしょうか。

化石燃料や原子力を中心としたこれまでのエネルギー体制は、一度に大量のエネルギーをつくって、消費するというものでした。一方、再生可能エネルギーは各地に分散して存在しており、分散型のエネルギーシステムが必要です。国は、再生可能エネルギーを主力電源化するという目標を掲げています。今後、再生可能エネルギーが、発電の中心的な存在になることが期待されています。

その中でICTの利活用が重要になっています。再生可能エネルギーの中でポテンシャルが大きいとされているのは、太陽光と風力ですが、どちらも変動型のエネルギーであり、時間帯や天候によって出力が変わります。こうした性質を持つ再生可能エネルギーを活用するために、ICTの利活用が求められています。

ICTが重要なのは、それを活用すれば変動するエネルギーの需要と供給のバランスを調整できるからです。太陽光や風力といった変動する再生可能エネルギーであっても、ICTを使えば出力状況をリアルタイムで捉える一方、電気を消費する需要側の状況もリアルタイムで把握し、その需給バランスを蓄電池なども使いながら調整することができます。具体的には、たくさん発電できる時間帯に蓄電を促したり、天候の悪いときに需要を抑制したり、蓄電した電気を活用したりということです。こうした細かな需給バランスの調整を行うためにICTは不可欠です。これまでさまざまな産業でアナログからデジタルの変化が起きてきましたが、エネルギーの生産と消費の現場でもそうした変化が生じています。

──エネルギー分野のICT化はどの程度進んでいるのでしょうか。

エネルギー分野におけるデジタル化は、東日本大震災以降、急速に進んでいます。例えば、出力側である発電所は、デジタルによる出力調整ができるようになっています。太陽光発電では、天候やエネルギーの需給状況に合わせて発電量を制御できるようになっています。一方、電気を消費する側の家庭でもスマートメーターが普及し、電力消費量の把握はデジタルで行えるようになっています。このようにエネルギー分野のデジタル基盤は、整ってきています。

技術的に今後、広がりが期待されるのが、どの発電所でつくられた電気がどこで使われたのかがわかるようになるトラッキングの技術です。これまで発電した電気は、送電線に流してしまえばどこで発電した電気なのかがわかりませんでしたが、ICTの進化でそれがわかるようになっています。この技術が広がれば、再生可能エネルギーの「地産地消」が可視化されるようになります。

技術的には可能

──ICTを活用すれば再生可能エネルギーは不安定という問題を解決できるでしょうか。

これまでのエネルギーシステムは、化石燃料や原子力など、大きな装置で一気に大量の電気を生み出すものでした。こうしたシステムをベースに考えれば、天候などによって発電量が変動する再生可能エネルギーは不安定にみえるのかもしれません。ただ、巨大装置で一度にたくさんの電気がつくれることが安定的とも限りません。実際、2018年の北海道胆振東部地震の後には、大規模な石炭火力発電が止まったことで大規模停電(ブラックアウト)が生じています。災害への対応という点では、分散型のエネルギーシステムの方が、レジリエンス(回復力・復元力)が高いといえます。

そもそも、安定的なエネルギー供給において大切なのは、需要と供給のバランスをうまく合わせることです。その意味では、再生可能エネルギーの供給に波があったとしても、需要と供給のバランスさえ調整できれば問題になりません。蓄電池や電気自動車などを活用しながら需給バランスを調整できれば、安定的な電力の供給は可能です。そこでICTの利活用が求められることになります。

すでに、バーチャルパワープラント(VPP)と呼ばれるように、大規模な発電所がなくても、蓄電池を活用したりICTで需給調整を行ったりすることで効率的に電力を供給できるシステムが運用されています。人工知能(AI)が、天候や需要量などを予測し、需給バランスを調整することもできるようになっています。

ドイツではすでに再生可能エネルギーの割合が50%になっています。それでも問題なく電力が供給されています。再生可能エネルギーの利用に大きくかじを切るかどうかは、技術的な問題というよりも意思決定の問題だと思います。

エネルギーの地産地消へ

──地域は、再生可能エネルギーをどのように生かせるでしょうか。

地域には、太陽光や風力以外にも電源になるさまざまな資源があります。例えば、水力発電はこれまで自治体が大手電力会社に長期契約で発電した電気を販売していましたが、競争入札に切り替える事例が増えています。ごみの焼却施設を活用した発電設備もあります。

地域でエネルギーを生み出すことができるようになれば、そこで生まれた利益を地域で循環できるようになります。これまでのような1カ所の巨大な装置で発電する方法から、地域を拠点に分散型で発電する方法へ変わることで、お金の流れ方も変わるのです。例えば、天然ガスや石炭による発電は、その燃料を海外からの輸入に頼っていますが、再生可能エネルギーであればその分のお金を国内で回すことができます。

同じように住民が地域新電力に対して電気代を支払うようになれば、そのお金が地域に還元されることになります。そこで利益が生まれれば、地域の福祉などに活用することも可能です。例えば、宇都宮市は、地域新電力を設立し、太陽光発電やごみ焼却による電力を2023年に開業したLRTの運行に生かしています。エネルギーの地産地消を生かした地域循環型経済の広がりが期待されます。

また、地域において再生可能エネルギーを導入する際には、災害時の非常用電源として使ったり、地域循環型経済への転換を掲げたり、脱炭素以外の政策効果と合わせれば導入の意義がより高まります。

こうした状況で、地域新電力は、デジタル化で「見える化」されたデータを使った新たなサービスを提供できるようになっています。具体的には電気の使用量を活用した高齢者の見守りサービスの提供も始まっています。

地方自治体の間では、「ゼロカーボンシティ」を宣言する自治体も増えていて、脱炭素や再生可能エネルギーの活用が求められるようになっています。とはいえ、具体的な取り組みはこれからというところも多いです。ICT事業者にとっては、新たなサービスを提供できるビジネスチャンスが広がっているといえます。エネルギーの地域循環型社会の実現に向けて、ICT事業者の皆さんの活躍が期待されています。

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