地域で生かすICT
原動力は現場の力eスポーツで高齢者の健康促進
ICT企業出身の強みを生かす
eスポーツと高齢者
「2019年に市議になり、市の担当者から医療費や社会保険費に関するレクチャーを受けた際、このままではもたない、何とかしなければいけないと強く感じました。そうした思いで議員活動をする中で仙台eスポーツ協会の方たちと出会いました」と組織内議員の貞宗けんじ仙台市議会議員は振り返る。
当時、仙台eスポーツ協会は、高齢者層をターゲットにした競技人口の拡大に取り組んでいた。一方、貞宗議員もテレビゲームが高齢者の認知機能の改善に役立つということを知っていた。NTT東日本の出身でICTを活用した新規事業を展開する部署に所属していた貞宗議員は、eスポーツと高齢者という組み合わせが高齢者の予防医療につながると考え、市議会で取り上げたり、市の法人担当に要望したりしてきた。
そんな中、仙台eスポーツ協会とNTT東日本の担当者がつながることになり、仙台市、仙台eスポーツ協会、NTT東日本、東北福祉大学の4者が、eスポーツを活用した高齢者のフレイル予防(認知機能低下予防・社会参加への促進・筋力低下予防)をめざした共同実証を行う協定を2022年4月に締結した。
実証実験は月1回、約半年間行われ、約70人が参加。参加者はレースゲームやパズルゲーム、格闘技ゲームなどを楽しんだ。
デジタルデバイドの解消にも
その結果、認知機能や運動機能に改善が見られたほか、参加者同士のコミュニケーションが生まれ、社会参加の側面でも成果が見られた。
こうした結果を受けて仙台市は、2023年度からeスポーツを活用した高齢者のフレイル予防の取り組みを本格実施することを決めた。今年4月からは仙台市内の2拠点で定期的にゲームイベントを開催している。
貞宗議員は、「この取り組みは予防医療の一つだと捉えています。楽しみながら健康の増進につなげてもらえることがポイントです」と話す。
成果はこれだけではない。eスポーツの活用はデジタルデバイドの解消にも効果があった。貞宗議員は、「高齢者であってもデジタル機器を使ってみたいという人が多いことがわかりました。若い人を見てみて自分もやってみたかった、教えてくれる人がいなかったという人も多く、人とのつながりを生む面でも効果がありました」と振り返る。
今年6月には、子どもたちも参加する世代交流型のゲームイベントも開催された。貞宗議員は、「地域の高齢者が子どもたちと交流する機会にもなり、eスポーツは多世代交流のプラットフォームとしても活用できます」と話す。こうした取り組みを踏まえ、貞宗議員はeスポーツを引きこもり解消の支援策や障害のある人の社会交流の促進策に活用することも市に提案している。
行政の効率化は不可欠
貞宗議員が提案するICTの利活用は、eスポーツだけではなく、行政の幅広い分野に及んでいる。例えば、子育て世代の当事者として、育児相談窓口のオンライン化に取り組んできたほか、保育園の入所調整や病児保育の受け付けでのICTの利活用に取り組んでいる。
「デジタル化できる行政の領域は本当にたくさんあります。今後の少子高齢化の進行や医療費の増大などを踏まえれば、効率的な行政運営は不可欠です。将来世代に持続可能な街をつなぐためにもICTの利活用をさらに進めていきたい」と強調する。