特集2023.12

「柔軟化」「2024年問題」などへの対応
労働時間はどうなった?
個人請負労働者の長時間労働問題
野放しのままでは限界を迎える

2023/12/13
宅配ドライバーなどの個人請負労働者の長時間労働が問題になっている。個人請負労働者の労働時間規制をどう考えたらよいだろうか。識者に聞いた。
沼田 雅之 法政大学教授

規制なく野放し状態

労働時間規制は、労働法の中心的な存在です。そのため規制の対象は労働者かどうかではっきり区別されてきました。つまり労働者なら労働時間規制の対象になり、そうでなければ対象にならないということです。

そうした中、個人請負労働者は、労働基準法の労働時間規制の対象外とされてきました。そのため個人請負労働者が、長時間労働を背景に労働災害を認定された事例は少数しかありません。あったとしても、それは個人請負労働者の就労実態が労働基準法上の労働者と同じだと判断される場合です。個人請負労働者の長時間労働の問題は、ほとんど野放しになってきたといってよいでしょう。

利益あるところに負担あり

こうした中、近年、宅配ドライバーなどの個人請負労働者の長時間労働が問題になっています。このような課題に対応するにはいくつかのアプローチがあります。一つは、労働時間規制が適用される労働者の範囲を拡大する方法。もう一つは、雇用類似の第3のカテゴリーを設ける方法です。ただしこれらの方法は労働者であるかどうかを判断するために時間がかかるという課題が残ります。

そこで逆転の発想で規制が行われるようになったのが、アメリカの一部の州です。これらの州では、純粋に独立自営業者だと判断できる場合以外は労働者としての保護を与えるという規制ができました。カリフォルニア州ではそれを判断するために「ABCテスト」という基準が設けられました(表)。アメリカと日本では労働法の枠組みが異なるため単純比較できませんが、個人請負労働者のリスクを発注者にも分担して負わせるという点では参考になります。

そもそも労働法や労災保険が発達してきた背景には、「利益あるところに負担あり」という考え方があります。昨今のプラットフォームビジネスにしても、働き手となる個人請負労働者がいなければビジネスが成り立ちません。そうした個人請負労働者の労働の結果、利益を得ているのであれば適切な負担をするのが筋だといえるでしょう。

ABCテストの基準

①ワーカーが、契約上も実態上も業務遂行過程において使用者の指揮命令下に置かれないこと

②ワーカーが使用者の通常の業務の範囲外の業務を行っていること

③ワーカーは、使用者のために行われた業務と同じの性質の事業、ビジネス等を独立、継続して行っていること

制裁的な制度を判断要素に

個人請負労働者を労働者かどうか判断する基準は、見直す必要があります。その際、新たな判断要素の一つとして注目すべきなのは制裁的な制度の有無です。例えば、アマゾンの個人請負の配達員には、ノルマの達成度合いや苦情の数などによってシフトが選べなくなるという制裁的な制度があるといいます。こうした制裁的な制度を現代における指揮命令と捉え労働者性を肯定する要素にできると考えています。アイドルのようなタレントにも一定数の公演に出演しないと違約金が求められる場合があり、普遍的な要素として当てはめられると考えています。

これに加えて大切なのは、使用者側に個人請負労働者が労働者かどうかの説明責任を負わせることです。個人請負労働者が労働者であるかどうかは、あくまで労働力を利用している側が立証すべきです。「ABCテスト」はその典型だといえるでしょう。

■    ■

個人請負労働者には労働時間規制が適用されません。その結果、過重労働の状態で荷物を運んでいるドライバーがたくさんいます。過労の問題だけではなく、交通事故などの第三者を巻き込む問題につながります。個人請負だから規制がなくてもよいという状態は、いずれ限界を迎えるでしょう。

労働時間規制は、労働者の健康や安全を守るためだけではなく、家庭や地域などの社会的な活動を支えるためにも必要です。社会の健全な発展を支えるという視点からも、労働時間規制を考えることが大切です。

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