特集2023.12

「柔軟化」「2024年問題」などへの対応
労働時間はどうなった?
労災認定基準の見直し後の変化は?
労働時間の認定基準が厳しく

2023/12/13
2021年9月に脳・心臓疾患の労災認定基準が見直され、今年9月には精神疾患の労災認定基準が見直された。変更のポイントとその後の影響について、この問題に詳しい山岡弁護士に聞いた。
山岡 遥平 弁護士/
神奈川過労死対策弁護団

労災認定基準の見直し内容

脳・心臓疾患の労災認定基準は、2021年9月に改正されました。これにより脳・心臓疾患の労災認定は、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して認定することが明確化されました。

それまでの労災認定は月100時間超の時間外労働が必要というように労働時間を中心に認定されてきました。改正によって例えば月の時間外労働が65時間程度でも関連する精神的負荷があれば労災認定されることが明確になりました。労働時間以外の負荷要因が評価されることで認定されやすくなったといえます。

一方、精神疾患の労災認定基準は、今年9月に見直しが行われました。認定基準となる精神的な負荷の項目が整理され、パワーハラスメントなどに関する精神的な負荷が整理され具体例が詳しくなったのが特徴です。

例えば、「ノルマ」に関しては、厚労省が行った調査で精神的な負荷が比較的強いという結果が出ました。これを受けて新たな認定基準では、達成が強く求められる業務目標は「ノルマ」であると整理されました。また、パワハラについて、いわゆる6類型に従って例示されるなど、整理されました。顧客や取引先からのカスタマーハラスメントに関する項目も追加されました。

パワハラを理由とする労災認定は、2021年にいわゆる「パワハラ防止措置法」が成立したことなどを背景にこの間、増加傾向にあります。労災認定が認められやすくなっているといえるでしょう。今回の改正の影響が今後どのように表れてくるのか注目されます。

労働時間の認定が厳しく

労働時間以外の負荷要因による労災が認定されやすくなっている一方、労働時間を要因とした労災認定は厳しくなっています。具体的には、労働基準監督署による労働時間の認定が非常に厳しくなっています。これまでなら労働時間として認められたものでも最近は認定が厳しくなっています。例えば、宿直中にくも膜下出血を発症した医師の労働時間について、労働基準監督署は宿直中の労働時間を「ゼロ」という事例が起きています。また、「持ち帰り残業」や「早出残業」「休憩中の労働」などの認定も厳しくなっています。営業職の社員の客先までの移動時間が労働時間に含まれないなどの事例も生じています。

こうした傾向を踏まえるとテレワークの労災事例に関する労働時間の認定は、厳しくなる可能性が高いです。パソコンのログオン・ログオフだけで記録していた場合、会社はいざとなると、「働いていたかどうかわからない」と主張することがあります。働いていた時間をどのように記録するのかが課題になります。労基署は、働いた「成果」を求めることがありますが、仕事のすべてに「成果」があるわけではありません。例えば資料を読み込むのも仕事の一つです。目に見えやすい「成果」だけではなく、使用者の指揮命令下にあったかどうかがポイントになります。

このように過労死等の労災認定基準に関しては、全体の傾向としてハラスメントなど労働時間以外の負荷要因を評価した認定が増えている一方、労働時間の認定が厳しくなっている現状があります。現場の実態として長時間労働が減っているという印象はあまりありません。

使用者の責任を問うべき

そもそも労働時間管理の責任は、使用者側にあります。にもかかわらず、不払い残業や労災事案が生じた際、労働時間管理がされていなかったため労働時間がきちんと認定されず労働者が不利益を被る事態はおかしいと思います。労働時間管理の責任を問われなければ、使用者が労働時間を守る動機付けがなくなってしまいます。使用者による労働時間管理の責任を明確化し、できていなかった場合の責任の取り方を明確にすべきです。

また、労働基準監督署による監督や労災認定を強化してほしいと思います。現状では権限があるにもかかわらず指導や是正がされていない事例がたくさんあります。会社の緊張感を高めるためにもしっかり目を光らせてほしいと思います。

再発防止に協力を

ここまで労災認定基準に関して説明してきましたが、過労死等をなくすために大切なのは、長時間労働やハラスメントをなくしていくことです。労働組合にはそのために現場の実情を把握して会社に伝え、改善することを期待しています。ハラスメント問題に関しては労働組合が問題の起きる前に率先してフォローしていくことも大切だと思います。

加えて、仮に労災事案が生じてしまった場合、労働組合は、起きてしまったことに対し責任を回避するのではなく、原因究明や家族の支援に積極的に協力してほしいと思います。それがスムーズな課題の解決につながり、再発防止にもつながります。皆さんの活動に期待しています。

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