特集2023.12

「柔軟化」「2024年問題」などへの対応
労働時間はどうなった?
フレックス・裁量労働・テレワーク─
労働時間の柔軟化で
職場はどう変わった?

2023/12/13
新型コロナウイルスの感染拡大以降、情報通信業界の働き方は大きく変化した。テレワークが普及し、労働時間の柔軟化も進んだ。現場はどう変わったのだろうか。通信キャリアとソフトウエア企業の組合担当者に語ってもらった。

柔軟化の実態は?

──労働時間の柔軟化の現状を教えてください。

Aフレックスタイム制と裁量労働制を導入しています。フレックスタイム制は全社員の約4分の1、裁量労働制は約1割に適用されています。裁量労働制は特定の部署が対象です。新規事業にかかわる部署が多いです。

どちらも労働時間を自分で管理する自律と責任が求められる制度で、運用が課題です。

Bコアタイムなしの「スーパーフレックス」制度が社員の約9割に適用されています。朝7時から夜22時までの間で業務時間を自由に選択できます。

コロナ前からリモートワークを導入しています。コロナのまん延後、その動きが加速し、現在出社しているのは一部のグループ会社を除き、社員の1割程度です。

リモートワーク開始前は対面・出社が基本でした。パソコンを事務所から持ち出せない仕組みもありました。現在では出社せずとも仕事ができる環境が整っています。

C当社もコアタイムなしの「スーパーフレックス」制度を導入しています。社員の7〜8割が対象です。前日までに上長に報告すれば出退勤の時間を自由に選択できます。裁量労働制はかつて数カ月だけ試験的に導入したことがありました。現在は一般社員には適用されていません。

一方、固定時間やシフト時間で働く人もいます。不公平感が生じかねませんが、1年に数回、部署異動を希望できる制度があるため、不満の声は聞こえてきません。

勤務場所はリモートワークが基本で、実施率は約8割です。業務の特性などを踏まえ本部長が部署ごとに出社日を決めることもできます。当社の本社は、全員出社できるスペースはありません。

Dいわゆる「働き方改革」の際、制度を整理しました。テレワークやコアタイムなしの「スーパーフレックス」制度、時間単位年休などを導入しました。

テレワークはコロナのタイミングで業務上難しい人を除いて全社員に適用されました。現在は作業効率を踏まえテレワークか出社かを選べるようになっています。「スーパーフレックス」は全社員が対象です。前日までに上長に報告すれば勤務時間は自由に選べます。

裁量労働制は導入していた時期もありましたが、仕事のできる人に業務が偏る問題が起きたため現在は一般社員には適用されていません。

強まる自己管理の傾向

──労働時間の柔軟化の影響は? 労働時間はどう把握していますか。

A裁量労働制は長時間労働の傾向が強くなっています。人事部と適用に当たって導入の目的や業務内容などを事前に協議しています。しかし実績を見ると結果的に労働時間が長くなっています。

一方、フレックスタイム制は始業時間の柔軟化が進んでいます。テレワークと組み合わせて、午前中はテレワーク、午後は出社というパターンも可能です。社員がうまく活用している印象です。

テレワークでもフレックスタイム制でもパソコンのログオンとログオフで時間を管理しています。出社した場合は入退館を記録しています。

Bフレックスタイム制とリモートの組み合わせで労働時間管理は自己申告の度合いが強まっています。

労働時間はパソコンのログと自己申告で記録しています。ログの時間と自己申告の時間にギャップがあれば理由を求められます。場合によっては上司が当該社員にヒアリングします。

朝7時から夜22時までの「スーパーフレックス」なので、早い人は朝7時から勤務を始めます。その場合、定時終業は15時半になりますが、その時間で仕事が終わらず17時半とか19時まで働く人もいます。結果的に時間外労働になってしまいます。

36協定の上限時間は少しずつ短くなっています。しかし一人当たりの平均総労働時間数はあまり変わっていません。長時間労働をする人が少なくなった一方、通勤時間が減った分、時間外労働をする人が増えたという印象です。

C入退館とパソコンのログを記録しています。数値は自分で確認できます。上司もチェックします。以前は見ることができませんでしたが、労働組合の申し入れで閲覧可能になりました。

ログの時間と申告した時間にずれがあると上長からチェックが入ります。

これに加え過重労働を防ぐ仕組みがあります。業務終了後から次の業務開始までの時間が10時間未満だと理由の申告が必要になります。月の時間外労働が40時間を超えると本人と上長に自動的にアラートメールが送られてきます。65時間を超える場合は上長がヒアリングをして健康状態を確認します。70時間を超える場合には本部長の決済が必要です。

Dここ数年で時間外労働は減少しています。働きやすくなり、だらだら仕事をすることが減ったのだと思います。組合員からは働きやすくなったという声が圧倒的です。

「スーパーフレックス」と時間年休を組み合わせるとたいていの用事は済んでしまうので1日単位の年休の取得が取りづらいという課題があります。

パソコンのログは取っておらず基本は自己申告です。細かい記録を取るとかえって面倒だという声が組合員からも多いです。社風かもしれません。

時間管理は、「働いているふりをしてさぼっている」「働いていないふりをして働いている」という両方があります。前者は仕事の効率が悪ければ賃金に反映されるので、それが歯止めになり得ます。後者は見つけづらいですが、組合に声が寄せられれば会社対応しています。36協議でもチェックしています。

現場の実態を伝える

──労使協議の内容は?

A時間外労働の実績は労使で共有してチェックしています。

パソコンのログや入退館の記録はあくまで数字です。労働組合では組合員にアンケートを取ったり、職場の執行委員が聞き取りをしたりして現場の実態を把握しています。会社の記録と現場の実態にギャップがあれば会社との協議で伝えています。実際、現場の実態とのギャップはあります。具体的には休憩時間のあり方などです。

裁量労働制を適用されている組合員からアンケートを取ると、裁量労働制になって業務量が増えたという声が上がってきます。組合員からは裁量労働制を適用されていない人の業務が制度適用者にしわ寄せされているという声が多く上がっています。こうした声を会社に伝えています。

Bフレックスタイム制が導入されると1日の時間外労働について協議を行う必要がなくなります。事前に定めた月間の上限時間を超えそうな場合は協議しますが会社からの申請が直前になることも多いです。

労使の申し合わせにより水曜日は「ノー残業デー」となっています。7.5時間以内で終業するよう会社も呼び掛けていますが、フレックスタイム制だと効果が見えづらいです。

C労使で月1回、時間外労働の状況を確認しています。時間外労働は年々減少しています。

時間外労働の上限規制で年間の上限時間は720時間になりましたが、これ自体「過労死レベル」でまだまだ長いです。労使協議では、毎年上限時間720時間はおかしいと申し入れを行っています。月45時間を超える時間外労働も細かく業務内容を協議し、残業が常態化しないよう労使ともに取り組みを継続しており、会社も譲歩の姿勢を見せてくれています。

テレワークできる人とできない人の格差があるので、会社には「出社手当」の支給を要求しています。

D制度の整理は区切りがついたので現在は主に運用をチェックしています。

評価のあり方も課題

──今後の課題は?

A労働時間の柔軟化にはメリットもあればデメリットもあります。デメリットの部分を会社に伝え、改善することも大切です。そのためには現場の実態をしっかり把握することが必要です。労働組合の役割だと思います。

労働時間規制は心身の健康への配慮が第一です。その上で働いた時間と成果物の関係を整理する必要があると思います。

B総労働時間の短縮が長年の課題です。徐々に減っているものの時間外労働ありきの働き方は変わっていようです。すべての人が時間外労働をしているわけではなく、スキルのある人に時間外が偏っている印象があります。いかに平準化するかが課題です。単純に人を増やせばいいという考えもありますが、難しいのが実態です。

C残業時間が0時間で75%の成果を出す人と40時間の残業をして85%の成果を出す人がいるとします。現在は後者の方が高く評価される傾向があると思います。私はおかしいと思っていて変える必要があると考えています。裁量労働制は労働時間に対する考え方が変わった上で導入すべきだと思います。

D賃金が一律で上がる時代ではないので、労働時間が短くなる一方、もっと働かせてほしいという組合員の声もあります。組合員のニーズが多様化する中で労働組合としてどのように調整し、会社との間を取り持つかが課題です。

──ありがとうございました。

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