職場のダイバーシティー推進
一人ひとりが働きやすく能力の生かせる社会へ多様な人種・ルーツを持つ人との協働
差別の解消へ大切な視点は?
プロジェクト研究員
外国人や「ハーフ」への差別
日本の職場ではどのような人種や国籍を巡る差別が起きているでしょうか。日本に在留する外国籍者を対象に行われた「外国人住民調査報告書」(2017年)を見てみましょう。
この調査によると、日本で仕事を探したり、働いたりしたときの経験として、「外国人であることを理由に就職を断られた」という人が25%、「同じ仕事をしているのに、賃金が日本人より低かった」という人が19.6%、「外国人であることを理由に、昇進できないという不利益を受けた」という人が17.1%いました。国籍を理由として差別を受けた人が多くいることがわかります。
また、日本で「ハーフ」や「ミックス」と呼ばれる人たちの中には、さまざまな民族や人種のルーツを持つ人たちもいます。私の研究で全国の「ハーフ」や「ミックス」の人にアンケート調査を行いました。その自由記述から職場に関する経験をピックアップしたところ、次のような記述がありました。
「名前がカタカナで外国籍だと思われ、アルバイトの書類審査で落とされた」「大学教員で日本語学の専門家なのに、『私の日本語、理解できましたか』と言われたことがある」。また、採用面接の際、労働条件に関して質問したら「純粋な日本人じゃないから直接的な物言いをするんだね」と言われたというものもありました。
このように日本に在留する外国籍者や、「ハーフ」や「ミックス」と呼ばれる人たちは、さまざまな差別的な言動を経験していることがわかります。
マイクロアグレッション
「マイクロアグレッション」とは明確な差別と一見わからなくても、日常の中で起きる偏見に基づいた言動であるといえます。例えば、日本生まれの「ハーフ」に対する「日本語、上手ですね」とか「日本に来て何年ですか」といったもの。ほかにも、特定の人種の人に「歌がうまい」「ダンスが上手」など、褒めたつもりで述べたことも含まれます。上記の私の調査では職場でマイクロアグレッションを受けた人の割合は約6割に及びました。
マイクロアグレッションの問題は、それが恒常的かつ継続的に行われることです。発言する側にとっては一度きりの経験でも、言葉を受ける側は何回もそれを受けます。私がヒアリングした人でも1日1回は必ずマイクロアグレッションを受けるという人がいました。1日1回でもそれが毎日、毎年と積み重なれば何千回にも及びます。その精神的なダメージは大きいです。放置すれば当事者の健康にも影響が出ることから、企業としても放っておくことはできません。
具体的には、社会から疎外された気持ちになったり、差別を内面化して自分のルーツを嫌悪するようになったり、ストレスが蓄積することでトラウマ的体験にもなります。その結果、心理的・精神的な疲弊が蓄積し、日本で生活することが難しくなり、海外で就職したり、転居を余儀なくされる人もいます。発言する側からすれば他愛のないことでも、それを受ける側にとっては深刻な影響があることを知ってほしいと思います。
ともに働くために知っておくこと
多様なルーツの人とともに働く機会は、グローバル化の進展とともに増えています。海外で事業展開をする場合にも差別の問題に向き合う必要があります。
その際まず大切なのは、日本の文化や習慣が世界の「普通」ではないと知ることです。「日本はすごい」「世界もそう思っている」という感覚で相手を見下してしまうのではなく、相手の価値観は自分たちと同じではないと知り、相手の価値観を尊重することが不可欠です。
そのためにも、最低限の知識を身に付けることが必要です。知識の不足は、偏見や差別に容易に結び付きます。相手のルーツとなる国に関する最低限の知識だけではなく、日本との歴史的関係を踏まえておく必要もあります。特に日本の場合、アジアの国々との歴史的経緯を学ばなければいけません。そうした知識が欠けていると、「この人(企業)とは付き合えない」と思われてしまいます。
その上で、人種だけではなく、ジェンダーやセクシュアリティ、宗教、政治などに関するマイクロアグレッションやアンコンシャスバイアスに関して知識を得ることも必要です。例えば、代名詞のジェンダーが「he」なのか「she」なのか、もしくは「they」なのかということも大切です。しっかりアンテナが張られていると思ってもらえれば良い評価につながります。間違ってしまった場合も、間違いを認め、次から気を付けると誠意を伝えることが大事です。
セーファースペースの構築
職場におけるマイクロアグレッションは、さまざまな場面で起きています。そのため、それぞれの場面での対応が求められます。
例えば、企業内での対応では、外部の専門家の研修を受けたり、自社の採用や人事評価、製品の広告宣伝のあり方について専門的な第三者の評価を受けたりするといったことが考えられます。
取引先から自社の社員がマイクロアグレッションを受けることもあります。対応策としてある企業は、取引先の会社が自社の社員に差別的な言動をしないよう、取引時のガイドラインを渡していました。
また、働く人を守るという側面では、相談先やセーファースペースの構築が大切です。例えば、カリフォルニア州のある保育園のトイレには、働く人の権利の一覧がポスターとして掲示されています。その中では、職場での差別は違法だと明記されており、働く人の権利が強調されています。また、職場には相談の秘密を守り、権利を守る人としての「セーフパーソン」がいて周知されています。日本の場合、人権はマナーや規範のように捉えられることが多いですが、権利を暗黙の了解にせず、誰にでもしっかり見える形にすることが大切です。
日本では、他者と同じ状態が良いという規範がありますが、世界に出れば違いがあることの方が当たり前です。違いをチームの阻害要因にするのではなく、違いを前提に、互いを尊重しながらチームを構築するという捉え方が大切です。