特集2024.06

職場のダイバーシティー推進
一人ひとりが働きやすく能力の生かせる社会へ
SOGIを巡る職場のダイバーシティー
事例の積み重ねが大切に

2024/06/12
企業における性的マイノリティーへの取り組みは進みつつある。一方で職場の課題は解消されたわけではなく、イメージと現実のギャップもある。事例の積み重ねが重要だ。
神谷 悠一 LGBT法連合会 理事・事務局長

──企業の性的マイノリティーに対する取り組みは、どのくらい進みましたか。

前向きに取り組む企業がとても増えています。私たちは2020年から「Equality Act Japan─日本にもLGBT平等法を─」というキャンペーンを展開しています。2023年6月に「LGBT理解増進法」が成立・施行されたことも影響して、このキャンペーンへの賛同企業は、2023年春の段階では約45社でしたが、現在では100社近くまで増えました。

また、社内で同性パートナーシップ制度などの整備などに取り組む企業も増えています。全体として企業の取り組みは、前進の一途をたどっていると思います。

──課題はありますか?

企業の課題としてよく耳にするのは、制度を整えたもののカミングアウトをしてくれる人がいないということです。もちろん、制度をつくったからといって利用してくれる人がすぐ出てくるとは限りません。制度があるだけではなく、利用しやすい職場環境があることも非常に大切です。制度をつくるという一過性の取り組みにせず、利用しやすい職場環境にしていくなど継続的に取り組んでほしいと思います。

今年の「東京レインボープライド」のパレードには約1万5000人が参加しました。この数は昨年の1.5倍です。会場では数多くの企業がブースを出展しました。企業側にとって、パレードやブースで企業のロゴが出れば、ダイバーシティーへの取り組みをアピールすることができ、企業の宣伝になります。こうしたマーケティング活動自体は、イベントに参加するために企業内で制度を整えたり、研修をしたりすることもあるので一概に悪いとは言えません。ただ、企業内の環境整備よりマーケティングが先行している企業も少なからず見られます。そもそも多くの職場でカミングアウトしづらい環境などの課題は解消されたわけではないので、継続的に取り組んでほしいと思います。

──イメージと現実のギャップもありそうです。

職場でカミングアウトする人の割合は、当事者の中でも1割程度だといわれます。カミングアウトする人は少しずつ増えていますが劇的に変化したとまでは言えません。その中で職場では理解のある人だけに打ち明けるなど、水面下での変化が起きているのだと思います。

メディアの報道量と現実のギャップもあると思います。性的マイノリティーに関するメディアの報道は増えましたが、一方で現実の職場では相談を受けるなどの課題に直面したことがない人も多く、ギャップが生じています。当事者にとっては、相談できる場所があることはメディアで広がりつつも、自分の職場では相談できる場がないと感じる人もいます。相談する人が増え、それに伴い実際の案件が増えれば、こうしたギャップも少しずつ解消されていくはずです。事例を積み重ねるのには時間がかかります。事例が共有されることでギャップも解消されていくと思います。

──その点、トランスジェンダーに関する社会的な理解が進んでいないようにも見えます。

昨年7月の経済産業省のトランスジェンダー職員のトイレ使用を巡る最高裁判決は、重要な判決です。判決文は個別事例の具体的な事情を考慮する必要性を示しました。あの判決に対して過度に不安をあおる言説もありますが、判決文をよく読んでほしいと思います。

この判決の個別意見では、個人がその真に自認する性別に即した社会生活を送ることができることは重要な法益とされています。また、昨年10月にあった性同一性障害特例法の手術要件を巡る最高裁決定は全員一致で、自らの性自認に従った法令上の性別の取り扱いを受けることは重要な法的利益であると述べました。

いわゆる「LGB」に比べて、トランスジェンダーへの職場の対応は明らかに進んでいません。トイレ使用に関することだけではなく、ホルモン治療への対応など、本人の意向や性別移行の状況などを踏まえつつ対応することの難しさを企業が感じているのかもしれません。しかし、何も問題が起きていなかったり、当事者が何も要求していない段階からあれこれ心配しても仕方ありません。労働組合はどのような問題でもそうだと思いますが、個別具体的な事例の中で前向きな解決策を探っていくという姿勢が大切だと思います。

──今後求められる対応は?

最高裁は今年3月、犯罪被害者給付金の同性パートナーへの不支給が違法であるとする判決を下しました。これは同性パートナーが「事実婚」に該当し得ることを示した判決です。

犯罪被害者給付金のように事実婚を規定する類似の制度は100の単位であるとされています。同性パートナーとの関係が異性カップルの事実婚と同じ扱いになれば、多くの制度が見直されることになります。国の法律だけではなく、企業の制度にもかかわる課題なので、職場としても制度の見直しが必要になります。

今年の春闘では、連合が作成した「性的指向及び性自認(SOGI)に関する差別禁止に向けた取り組みガイドライン」に沿った要求も数多く行われています。要求の数は昨年の倍に上りました。労働組合がもっと前面に出て運動を展開してほしいとも思います。

「LGBT理解増進法」が施行されたことで、この課題は一段落したように思われがちですが、現実には就職差別やアウティングなどさまざまな問題は今も解消されず残っています。私たちは、性的指向や性自認を理由とした差別禁止法が必要だと考えています。その制定に向けて、引き続き運動を盛り上げていきます。

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