特集2025.08-09

戦後80年
過去と現在をつなぐ
日本が戦争に巻き込まれるリスクとは
対話を促す平和外交が重要

2025/08/18
日本が戦争に巻き込まれるリスクはどこにあるのか。リスク低減のために必要なこととは何か。協力と対話を促す平和外交の強化が、日本経済の発展につながる。
ホルムズ海峡の封鎖は想定し得る戦争参加のシナリオだ (写真:right-w/PIXTA)
布施 祐仁 ジャーナリスト

日本が戦争に巻き込まれるリスク

イスラエルは今年6月、核兵器開発を阻止するという名目でイランに対して空爆を行いました。アメリカもそれに乗じて攻撃し、イランはイスラエルや周辺の米軍基地に報復攻撃をしました。今回は幸いにも全面戦争に発展せず済みましたが、非常に危うい状況でした。イランは、原子力の平和利用を認めている核不拡散条約(NPT)に加盟しているため、今後も核開発を継続すると明言しています。衝突のリスクは今後も残ります。

今回の出来事で私が懸念したのは、イランによるホルムズ海峡の封鎖です。日本は原油や天然ガスの9割を中東から輸入しています。ホルムズ海峡が封鎖されれば、日本は大きなダメージを被ります。

影響はそれだけにとどまりません。ホルムズ海峡の封鎖は、2015年の安保法制で政府が唯一、「存立危機事態」として集団的自衛権の行使が該当し得る例として挙げた事例でした。実際に起きた場合、日本が攻撃を直接受けなくても、自衛隊を派遣することが可能になります。自衛隊がホルムズ海峡で機雷の掃討をすればそれは戦闘行為になり、日本が戦後80年で初めて戦争に参加する事態となります。

これと同様のシナリオが台湾を巡っても起きる可能性があります。具体的には台湾周辺のシーレーンの航行が脅かされ、それが存立危機事態と認定されれば、アメリカとともに参戦するというシナリオです。実際、自衛隊は2021年以降、米軍と一体に台湾有事を戦う準備を進めています。

このシナリオが現実になった場合、日本が米軍と自衛隊の作戦拠点となり、中国のミサイル攻撃の対象になる可能性が高い。これが日本が戦争に巻き込まれるリスクが高いシナリオです。

台湾有事をどう見るか

中国の習近平政権が台湾統一のために将来的に軍事侵攻するという見方があります。私は少し違った見方をしています。台湾侵攻は、軍事的にも政治的にも成功する可能性が低く、中国の政権にとってリスクがあまりにも高い行動です。中国が直接的な軍事侵攻を行う可能性は低いのではないかと見ています。

しかし、台湾を巡って緊張が高まっているのは事実です。実際、中国は台湾周辺で大規模な軍事演習を繰り返すなど圧力を強める一方、台湾の頼総統も中国を敵視するかのような発言をしています。アメリカや日本も台湾海峡周辺での行動を強めています。偶発的な衝突がエスカレートして戦争に発展する可能性はあり、そこに日本が巻き込まれる懸念があります。そうなれば、日本国内も攻撃の対象になり得ます。

防衛費の増大リスク

一方、アメリカの外交政策にも危うさがあります。トランプ政権は、過去の合意を反故にするような行動をすることで各国との緊張を高めています。平和のためには過去に積み重ねてきた外交努力を大切にすることが重要です。

また、トランプ政権は、同盟国に対して防衛費の増額を求めています。戦争に巻き込まれるだけではなく、経済的な負担が高まるリスクも高まっています。実際、岸田政権は2021年の「安保三文書」の閣議決定で、GDPに対する防衛費の比率を1%から2%に倍増させるというアメリカの要求を受け入れました。アメリカは今、それを超える防衛費の増額を日本に求めています。この動きが続けば、「防衛増税」や「社会保障の削減」という国民の負担増に結び付く可能性が高いです。

日本は80年前の戦争で戦費の調達を国債に頼りました。その結果、敗戦後に国民はハイパーインフレに襲われ、非常に苦しい生活を強いられました。その反省から戦後は国債を防衛費目的で発行しないというルールの下で規制してきました。しかし、現在、そのルールが実質的に取り払われ、建設国債を使って護衛艦をつくったり、軍事利用できるインフラ整備に使われたりしています。際限のない防衛費の増額につながりかねず、非常に危うい状況だと思います。

平和外交の重要性

アメリカは、いざというときに武力を行使して相手を屈服させる外交政策を繰り返してきました。こうした方法は武力で相手の行動を抑止するものである一方、相手もそれに対抗して武力を強化するために、際限のない軍拡競争を引き起こして安全保障環境をかえって悪化させます。いわゆる「安全保障のジレンマ」に陥るのです。今、台湾を巡って東アジア地域に起きているのは、まさにこの事態だといえます。武力で対応しようとするあまり、かえって戦争のリスクを高めています。

こうした事態に対応する方法がないわけではありません。かつての冷戦期でもヨーロッパでは北大西洋条約機構(NATO)とワルシャワ条約機構という軍事同盟が対立していましたが、一方で欧州安全保障協力機構(OSCE)のような協力と対話を促す枠組みもありました。

現在の東アジアにもこうした枠組みが必要です。アジアでは東南アジア諸国連合(ASEAN)が、そうした平和外交をすでに展開しています。ASEANは、米中対立を克服するために、対話と協力を促し、信頼を醸成する外交を進めており、日本もこうした枠組みに参加することで地域の安全保障を展開する必要があります。

そのことは、アメリカ追従の外交政策を見直すことでもあります。トランプ政権の動きを見てわかるように、アメリカについていけば大丈夫という外交政策は通用しなくなりつつあります。日本の自立した外交政策や安全保障政策が求められるようになっています。

アジアの一員として

そこで皆さんに考えてほしいのは、軍備増強でそれをやろうとしても無理だということです。アメリカに頼ることなく日本単独で中国の軍事力に対抗しようとすれば、とてつもない防衛費が必要になり、現実的ではありません。核兵器を持てば、北朝鮮のように世界から孤立し、経済制裁の対象となり、資源のない貿易立国の日本は生きていけなくなります。日本は、軍事力に頼るのではなく、ASEANのように外交によって脅威を減らし戦争を予防するというやり方をとる以外にないのです。それが経済的にも最も理にかなっています。

日本がこのような道をなかなか選択できない背景には、明治以来の「脱亜入欧」意識があると思います。アジアとの関係よりも欧米との関係を重視する思考を改め、アジアの国々と対等な関係を築けなければ、平和のための枠組みは構築できません。日本のこれからの平和と経済発展のためには、アメリカから自立し、アジアとの関係を強化する外交がいっそう求められています。

戦争は人の命を奪うだけではなく、経済的にも破滅的な影響を及ぼします。そうした現実を知る人も戦後80年たって少なくなりました。戦争が起きたらどうなるのか。その想像力が弱くなる中で、戦争の記憶を継承し、風化に抗うことが平和運動にとって重要だと思います。

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