トピックス2016.08-09

「31MEU」を県外移転すれば在沖海兵隊問題は解決へ向かう

2016/08/17
沖縄県議会が県内からの「海兵隊撤退」を決議するなど、沖縄の過重負担はすでに限界を超えている。どうすれば問題を解決へ導けるのか。具体的な提案が出始めている。
屋良 朝博(やら ともひろ) ジャーナリスト、新外交イニシアティブ評議員。元沖縄タイムス論説委員。著書に『改憲と国防』(共著)『誤解だらけの沖縄・米軍基地』(以上、旬報社)『砂上の同盟』(沖縄タイムス社)など。

「海兵隊スリム化」で7割解決

沖縄米軍基地問題の解決策を提案します。沖縄米軍基地問題は、米軍再編で大規模なリストラを決めた沖縄海兵隊をもう少しスリム化するだけで問題の7割が解消します。それは、部隊の運用実態を理解すればさほど難しいロジックではありません。

在沖米軍を削減すると中国に「誤ったシグナル」を送るので、現状の変更は危険だという主張を耳にします。それなら何が正しいシグナルなのでしょうか。観念論にとらわれると解決の窓を閉ざします。海兵隊の主力部隊をグアムなどへ移転する米軍再編を日米両政府が合意したいま、選択の幅は広がっています。

米軍再編後の海兵隊

沖縄の米軍基地の中で最大兵力は海兵隊(約1万8000人)で、全体の約6割を占めています。基地面積の割合も全体の75%が海兵隊基地なので、圧倒的な存在です。海兵隊のグアム移転などで人口が多い沖縄本島中部の米軍基地は、かなりの部分が返還される見通しです。

再編の結果、沖縄に残留する海兵隊は約1万人とされ、機能は司令部と第31海兵遠征隊(31MEU、2200人)と呼ばれる小ぶりな機動部隊のみとなります。司令部は沖縄の部隊だけでなく、山口県岩国基地の戦闘機部隊、ハワイにある戦闘部隊を指揮下に置き、再編後にはグアムなどへ分散する部隊を含めて遠隔操作します。

有事の際の海兵隊の動き

仮に、フィリピンで反政府ゲリラの反乱があり、フィリピンの支援要請を受けて米国が軍事介入するとします。すると海兵隊は、長崎県佐世保に配備された強襲揚陸艦隊が沖縄で隊員と物資をピックアップして現地へ急行します。ただし、この兵力ではとても足りないため、グアムやハワイなどからも増派されます。司令部はフィリピンの現地でこれらの部隊と合流し、全部隊を統合指揮します。

このように有事の際は、沖縄の部隊だけでなくハワイ、グアムの部隊が現地で集結します。もちろん海兵隊だけでなく、必要に応じて陸海空軍も動員されるでしょう。紛争対処は沖縄駐留の海兵隊で完結するものではありません。米軍再編でグアムへ主力部隊が移転しても緊急時に兵力を投入する態勢を維持します。

「体制」と「態勢」の区別を

キーワードは「体制」と「態勢」です。フィリピンや日本など米国の同盟国で緊急事態が発生した場合、世界最強の米軍が駆けつけてくれる、という安全保障体制という“システム”と、部隊配置の態勢という“ポスチャー”を区別しなくては議論が混乱します。日米両政府が合意した米軍再編は英語で、「ディフェンス・ポスチャー・レビュー(DPR)」と呼ばれています。海兵隊を沖縄から大規模に分散移転する態勢見直しは日米安保体制を維持する中で実施されます。しかもその目的は「沖縄の負担軽減」なので、政治的な理由によるものです。

沖縄の米軍基地は海兵隊だけではなく、極東最大規模といわれる嘉手納空軍基地もあり、太平洋からインド洋をカバーできる陸軍通信施設もあるので、海兵隊の分散配置=態勢見直しは「体制」を損ねることはありません。沖縄の兵力削減を主張すると、安保批判と受け止められますが、その批判は的外れです。

31MEUを県外に移転させる

この前提を踏まえた上で、問題をもう一度見直してみましょう。普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、政府と沖縄県の主張が真っ向から対立しています。今回の参院選でも移設反対、海兵隊撤退を求める野党連合、「オール沖縄」の新人候補が自民党現職大臣を圧倒的な大差で破りました。沖縄県民は何度も選挙で反対を表明していますが、政府はその民意を無視し、移設工事を強引に進めています。

そもそも「普天間」とは?普天間には新型輸送機オスプレイ24機のほか各種ヘリコプターなど計約40機が配備されています。これは31MEUを支援する航空輸送力なので、31MEUが沖縄から移転すれば、普天間の代替施設を沖縄に建設する必要がなくなります。現在の再編にあとひとひねり加えるだけのことです。そうすれば絶滅危惧種ジュゴンや美しいサンゴが生息する辺野古の海を潰す愚行を回避できます。これは東村高江のヘリパッド建設問題も解消することになります。

31MEUの任務は何か

31MEUは長崎県佐世保の艦船で1年の半分以上をアジア太平洋地域へ遠征しています。その中で、米軍のプレゼンスを示し、同盟国・友好国と共同訓練を行っています。訓練は人道支援や大規模災害への共同対処に力点が置かれています。「9.11」「3.11」に象徴されるようにテロ対策、大規模災害対策が今日的な安全保障の重要課題になっているからです。

近年は中国軍も共同訓練に参加しています。中国軍は「われわれの参加は安全保障でより緊密な協力関係を構築していこうとする意思の表れだ」とアピールします。日本ではあまり報じられていませんが、これが本来の安全保障です。敵性国も引き入れて紛争を未然防止する取り組みです。

解決へ向けた三つの交渉事項

さて、ここまで見てきたように、沖縄の米軍基地問題を解決するためには、海兵隊の運用実態を踏まえた上で、31MEUを沖縄以外へ移す新たな再編を検討すればいいわけです。

そのためには、政治主導の対米交渉が不可欠です。交渉ごとですから、お得感がなければ海兵隊は沖縄から出て行きません。一般に交渉ごとでは「カネ」「運用の現状維持」「メンツ」を考慮します。一つずつ解決策を考えていきましょう。

米軍駐留経費(思いやり予算など)の中の施設整備費を海外の移転先へ振り向けることができればカネ目の話は決着します。日本が拠出する駐留経費は年間約3700億円ですが、ほとんどが基地従業員の労務費や周辺防音対策、漁業補償などです。基地を大幅に減らせば駐留経費は減るため、施設整備費を国外で支出したとしてもトータルでみると日本にとっては大きな節約になります。

運用面は、海兵隊に高速輸送船を提供する手があります。再編で分散配置される海兵隊は輸送力の向上が喫緊の課題なので、有力な交渉カードとなり得ます。参考にできる事例として、自衛隊が南西諸島での訓練で高速船1隻を年間約11億円で民間船会社からチャーターした実績があります。

さらに「メンツ」を保つために、人道支援、災害救援活動の共同訓練に自衛隊がより積極的にコミットし、アジアの安全保障での日米協力をアピールします。自衛隊はこの分野で国際的な評価が高く、憲法を変えなくても日本はアジアの安全保障に貢献できるわけです。日本は、「31MEUを国外へ再配置するのは、日米協力の深化のためだ」と言えばいいのです。

事態打開へ知恵を絞るとき

沖縄の米軍基地問題は、このまま放置するとますます迷走し問題解決は不可能になります。名誉ある選択を求めましょう。

軍事専門家でない筆者の提案は粗削りです。ただ米軍再編の日米交渉にかかわった米外交官にこのセット提案を話したところ、「日米JointMEU」と命名してくれたほどまずまずの受けでした。

沖縄はいま政府にギリギリ追い詰められ、限界点に達しています。事態打開の知恵を絞るときです。

MEU=遠征部隊はインド洋、大西洋、地中海などへも展開している。いずれも米本国から船で遠征しているので、沖縄に基地を常設するのは予算節約が大きな理由といえる
海兵隊は6カ月単位のローテーションで派遣され、沖縄で荷ほどきした後、アジア太平洋地域を演習などで遠征している。荷ほどきの場所をグアムやオーストラリアなどへ移しても運用は変わらない
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