特集2025.05

「新時代の日本的経営」から30年
雇用システムはどう変わったのか?
「単身自営」の増加と雇用ポートフォリオ
「高度専門能力活用型」は増えたのか?

2025/05/14
近年、雇われない働き方であるフリーランスに注目が集まっている。 その内実は自らのスキルを生かして働く「高度専門能力活用型」の拡大なのか、それとも「雇用柔軟型」の延長に過ぎないのか。自営の働き方を研究する識者に聞いた。
グラフ1 労働人口に占める就業形態比率の推移(1953年〜2024年)
資料は仲准教授による提供(出典)総務省『労働力調査』と『就業構造基本調査』より仲准教授作成
(注)非正規雇用労働者の比率のみ『就業構造基本調査』の値である
仲 修平 明治学院大学准教授

自営業主の減少と非正規雇用の増加

ここ30年間に起きた変化で注目すべき点は、自営業主が大きく減少した一方、それと並行するように非正規雇用労働者が増えたことです。特に女性では、自営業主や家族従業者が減少した一方で、非正規雇用労働者が増えました(グラフ1)。こうした変化が、この30年間を見る上で重要なポイントです。

一方、統計を見ると2015年あたりから自営業主の減少が底を打つような動きが見られます。長らく続いてきた自営業主の減少というトレンドが変化しているのか注目しています。

特に注目しているのが、私が「単身自営」と呼んでいる、雇人のいない自営業主の増加です。その中でも女性の単身自営の増加に着目しています。自営業主に占める雇人のあるタイプと雇人のないタイプを男女別で比較してみると、女性の自営業主に占める単身自営の割合が、2013年くらいから増えていることがわかります(グラフ2)。この類型は絶対数としても微増に転じています。

もう一つの注目すべき変化は、自営業における職業の構成が、専門・技術職の割合が増える方向へ徐々に変化していることです。自営業の専門職化が進んでいるといえます。

グラフ2 雇人の有無別にみる自営業層に占める自営業比率(非農林業)

資料は仲准教授による提供(出典)総務省『労働力調査』より仲准教授作成

フリーランスの規模

雇われないで働く人は現在どれくらいいるのでしょうか。総務省の2022年の『就業構造基本調査』に基づくと、フリーランスは約200万人おり、就労人口全体の3.1%程度いることがわかりました。また、フリーランス以外で「雇人のない業主(請負や業務委託を含む)」に分類される労働者は約180万人で、全体に占める割合は2.8%でした。2つのカテゴリーを合わせると、派遣社員や契約社員のカテゴリーと同じくらいのボリュームがあることになります。

フリーランスを本業にしている人の数は(推計値を含む)、総務省の調査で209万人、内閣官房で214万人、内閣府で178万〜228万人、中小企業庁で324万人でした。これらの調査からフリーランスを本業としている人は、おおよそ200万人くらいと見積もることができます。こうした公的統計を見る限り、フリーランス人口が急増しているとはいえません。

一方、副業でフリーランスをしている人の数は、総務省で48万人、内閣官房で248万人、内閣府で112万〜163万人、中小企業庁で148万人と、ばらつきがありました。副業や非定型的な働き方をしている人たちは公的統計に表れにくい傾向があるため、水面下でフリーランス人口が拡大している可能性はあります。

単身自営の女性の増加

就業構造の変化を正規雇用を軸にして見ると、正規雇用のボリュームはそれほど変わっていません。その一方で、自営業主が減り、非正規雇用労働者が増えました。つまり、正規雇用のボリュームが維持されたまま、自営業主から非正規雇用へのスイッチが起きたといえます。その背景には、女性や高齢者の非正規雇用への参入がありました。

その上で、近年は女性の単身自営が増加しています。これは、非正規雇用の拡大が頭打ちになる中で、単身自営が女性の新たな選択肢になっている可能性を示唆しています。

このような女性の単身自営増加の背景には、自分のスキルを生かして時間や場所に縛られず自由に働ける仕事が増えたことがあると思います。

また、その働き方に魅力を感じる人が一定数いることも挙げられます。実際、フリーランスに関する調査では、仕事の面白さや達成感といった非金銭的な報酬が、雇用されて働く場合よりも高いと指摘されています。仕事から得られる満足感や自己決定の自由度といった側面が、フリーランスという働き方に引き付けられる一つの要因になっています。

ただし、単身自営の女性の収入を見ると、その金額はかなり低いことがわかります。単身自営の女性の年間収入は、半数以上が100万円未満で、200万円未満を含めると7〜8割程度に上ります。収入面からすると、非正規雇用の状況に非常に近いことがわかります。

労働時間について見ると、女性の場合は短時間で働く傾向があります。請負や業務委託といった形態も一定数含まれていると考えられますが、週30時間未満の就業者が多く、特に週19時間未満の人は全体の約24%を占めています。こうした短時間労働が、収入の低さにつながっていると考えられます。

「自由に働けそう」という期待から育児や介護のためにフリーランスになる人もいますが、そうした調整が思い通り進まなかったり、社会保障などの面で雇われて働くよりも不安定だったりという理由で、雇用に戻る人もいます。

このようにフリーランスに引き寄せられる人がいる一方で、再び雇用に戻る人がいることで、フリーランス人口は急激に増えていないのではないでしょうか。

ポートフォリオの視点から

自営業主の変化を日経連の雇用ポートフォリオに照らして考えると、単身自営は「高度専門能力活用型グループ」に一定程度該当すると考えられます。実際、自営業者の中で専門・技術職の割合は増加傾向にあります。しかし、全体から見ればその数は依然として少なく、専門・技術職の自営業者数が大きく増えているとは言い難い状況です。

むしろ、単身自営の女性の収入や就業時間の短さを見ると、雇用ポートフォリオでいう「雇用柔軟型グループ」に近い存在だといえます。過去30年を振り返ると、フリーランス全体は「高度専門能力活用型」として発展してきたというよりも、むしろ「雇用柔軟型」に近い形で拡大してきたのではないでしょうか。

社会的保護の議論を

フリーランスの報酬の低さは、単価の低さにかかわっています。フリーランス個人で単価を引き上げようとしても解決できる範囲には限界があります。フリーランスが、職種や産業ごとに結び付いて価格交渉ができる仕組みが求められていると思います。

フリーランス新法は、働く人を守るための第一歩として評価できますが、その主眼は業務契約における公正性の確保にあります。そのためフリーランスで働く人を保護するためには不十分だといえます。ヨーロッパで整備されているような自営業者向けの社会保障制度を参考にしつつ、日本でも整備する必要があると思います。

フリーランスの働き方を分析してわかることは、そこで生じる問題が、雇用分野の問題とさまざまな面で共通していることです。単身自営が増加すると、ワーキングプア問題が顕在化するでしょう。それは、非正規雇用を巡って指摘されてきた低収入や雇用の不安定さという問題と、本質的には大きく変わらないと思います。そして、その背景には日本のジェンダー構造の問題があります。

フリーランスは一見華やかに見えるかもしれませんが、適切にサポートする仕組みとセットでなければ、安心して働けるようにはなりません。雇用に比べて社会的保護が乏しいままフリーランスを拡大していいのか、しっかり考える必要があります。

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