トピックス2016.11

労働組合が裁量労働制の運用に規制力を発揮
業務量そのものの調整が今後の課題に

2016/11/14
裁量労働制の導入およびその後の運用にあたって労働組合はどのような機能を果たしているのだろうか。労働組合の重要な役割が浮かび上がった。ヒアリング調査によって明らかになった実態を報告する。
三家本 里実 NPO法人POSSE
一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程

裁量労働制と労働組合

裁量労働制が長時間労働をもたらす傾向にあることは、これまでたびたび指摘されており、情報労連とNPO法人POSSEが共同で行ったアンケート調査でも、同様の結果が示された(本誌2016年3月号『残業』歯止めに労組の役割発揮が必要)。こうした状況を踏まえたうえで、裁量労働制の導入・運用において、決定的に重要なアクターである労働組合は、どのような機能を果たしているのだろうか。この点を明らかにすることが、本報告の目的である。

裁量労働制を導入する条件として、法的には、会社との間で、制度の対象業務やみなし時間数などを定めた、労使協定を締結することが、労働組合(職場委員会)には求められている。つまり、労使協議は、裁量労働制が適切に運用されるための「必須条件」なのである。それにもかかわらず、労使協議に対して、労組がどれほど関与しているのかについては、これまでほとんど明らかにされてこなかった。

例えば、次のような場合を考えれば、労使協議の重要性が確認できるだろう。それは、裁量労働制においては、実際の労働時間数にかかわらず、労使協定で定めた時間数、労働したものとみなされるが、このみなし時間と実際の労働時間との間に大幅な乖離が生じた場合である。このとき、制度の適用は認められないというように労組による交渉が行われなければ、裁量労働制は、単に残業代の抑制のために導入されたのではないかと疑われても仕方がない。

このような問題意識から、制度運用と労組の関係について明らかにするために、2016年4~6月、裁量労働制を導入している企業の単組役員・一般組合員(情報労連傘下、A~Dの4組合、11名)へのヒアリング調査を実施した。結果を端的に示せば、長時間残業が確認される場合には、当該労働者を、制度の適用から除外する措置が取られていることがわかった。

対象者とみなし労働時間

対象者

まず、裁量労働制の適用対象となる労働者は、聞き取りを行ったすべての企業において、管理職一歩手前の役職に就く者であった。それは、その役職に就くほどの経験を積んでいれば、自身の裁量を発揮して業務を遂行することができるだろう、と想定されているためである。

ただし、BおよびC組合では、その対象者に、実際に制度を適用するか否かという局面で、労組が関与する仕組みが、明確に設定されている。例えば、管理職から、ある人に制度を適用したいと申し出があった際に、その人は「上司から細かな指示を受けていないか」や「本当に裁量を発揮しうるような業務に従事しているのか」といったことを、個別に判断しているという。つまり、制度適用の対象となる役職に就いたからといって、すべての対象者に、一律に制度が適用されるのではなく、その適否に労組が関与しているのである。

みなし残業時間

次に、1日のみなし労働時間は、ほとんどの会社で7.5時間前後となっている。これは制度導入以前の所定労働時間を、そのままみなし労働時間とするところからきている。また、裁量労働手当の元となる想定された残業時間数は、制度導入前の平均的な残業時間から、【表1】のように設定されている。

【表1】みなし労働時間
A組合 7.5時間→8時間
B組合 7.5時間
C組合 7.5時間
D組合 7.3時間
【表1】みなし残業時間
A組合 25時間
B組合 30時間
C組合 29時間
D組合 40時間→30時間

長時間労働への対応

すでに裁量労働制が適用されている労働者の「適用除外」

制度適用者の実際の労働時間は、多くの場合、上記のように想定された残業時間内におさまらず、労組には、「自分はそれ以上、働いている」といった不満が寄せられている。長時間残業が発生する要因には、本誌前号でも指摘したが、納期が短いことや、仕様変更による突発的な業務量の増大などが挙げられる。プロジェクトが「炎上」している場合には、人員を増やすといった対応も取られるが、そのことによって、むしろ業務量が増加するという話も聞かれた。そのプロジェクトについて何も把握していない人が、開発の途中で追加されたとしても、その人にプロジェクトの内容を教えるという追加の業務が発生し、加えて、その分、自身の業務遂行が滞ってしまうというのである。このように、みなし時間と実際の労働時間が乖離することは珍しくない。では、そのような事態に、労組はどのように対応しているのだろうか。

各組合の対応を、【表2】にまとめた。B組合とC組合では、制度導入時に、実際の労働時間がみなし労働時間を大きく上回るような場合に、裁量労働制の適用から当該労働者を除外する、という条件を定めている。

D組合では、36協定による制限から、制度適用者に業務の負担が偏ってしまうという事態が生じ、適用除外の条件を設けさせるに至った。つまり、労使交渉において、長時間労働の実態を突きつけたことで、制度運用の中身が変化したのである。

A組合の場合、他の組合のように、明確な基準を設けていないが、長時間労働が確認される場合には、制度の適用から当該労働者を外しているという。

【表2】適用除外となる基準・ケース
A組合
  • 裁量を発揮できないような仕事量を抱えている場合
  • 毎日、終電帰りが続いている場合
B組合
  • チーム:平均で、月間総労働時間が200時間を超える場合
  • 個人:2カ月連続で、月間総労働時間が200時間を超える場合
  • 深夜勤務が月10回以上、発生する場合
C組合
  • 3カ月連続で、月75時間以上の残業が続く場合
D組合
  • 3カ月連続で、月93時間以上の残業が続く場合

このような対応は、長時間労働をせざるをえない状況においては、裁量を発揮することができないと判断されるからであり、加えて、上記のような具体的な基準の設定にあたっては、「過労死ライン」が意識されていた。ここから、労組が裁量労働制による過労死防止に、重要な役割を果たしていることがわかる。

裁量労働制の「適用範囲の変更」

さらに、D組合では、プロジェクトの状況によっては、裁量的に働けない可能性が高いとして、制度の適用対象となる労働者の範囲を、大幅に狭めるという変更があった。これによって、新たに制度の対象となった者も、真に自身で時間を管理できる場合に限り、適用を受けることとなった。

このように、適用除外、そして適用範囲の変更という形で、みなし時間と実際の労働時間の間に大幅な乖離が見られる場合に、労組の関与によって、制度の適用を否定しうることがわかった。長時間労働を規制する主体として、労組が機能しているのである。

上記のように、働き方の実態から、制度適用の可否を判断するという対応は、非常に重要であり、かつ労使関係においてしか、このような柔軟な措置は実現しえないものである。

だが、突発的な業務の発生や膨大な業務量への対応という、長時間労働が発生する要因そのものを解消しなければ、長時間労働の根本的な解決とはいえないだろう。聞き取りでは、適用除外は「事後的な対応だ」との声も聞かれた。また、制度適用者が長時間残業を担っているという現状は、裁量性を発揮した働き方という、そもそもの前提が崩れていることを表しており、全社的に裁量労働制の導入を見直す必要もあるだろう。

本調査から、裁量労働制の運用における労組の主体的な取り組みが明らかとなったが、長時間労働規制の観点からは、さらに、制度の導入そのものや業務量の問題を交渉の俎上に載せることが、労組に求められていることが示されている。

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