特集2017.11

「非雇用」のいまとこれから条例制定と組織化で労働環境を改善
アメリカ労働運動の新潮流

2017/11/14
アメリカでは、フリーランスや委託労働者、派遣労働者などの「オルタナティブ・ワーク」が広がっている。これに対して労働運動は、条例制定と組織化という手法で対抗している。
高須 裕彦 一橋大学大学院社会学研究科フェアレイバー研究教育センター

オルタナティブ・ワークの拡大

アメリカの経済学者であるローレンス・カッツ氏とアラン・クルーガー氏は、「オルタナティブ・ワーク」という言葉で、フルタイムの正規雇用ではない働き方を分類しています。

どういう分類かというと、「オルタナティブ・ワーク」は、まず「オンライン」と「オフライン」に分かれます。「オンライン」とは、クラウドソーシングといったプラットフォームビジネスのこと。一方、「オフライン」は、「委託・外注」「個人事業主」「派遣・オンコールワーク」の三つに分類されます。カッツ氏とクルーガー氏は、こうしたオルタナティブ・ワークに従事する人が2010年の10.1%から2015年の15.8%に広がったと推計しています。

他方、アメリカでは4割近くの人が時給15ドル以下で働いていると言われています。労働運動は、格差と貧困が広がる中で、生活賃金条例や最低賃金15ドル運動で成果を上げてきました。ニューヨーク州やシアトル市、カリフォルニア州などでは最低賃金の引き上げを実現しており、他州にも広がりを見せています。

また、オンコールワークに関しても、ニューヨーク市議会が規制を強化する条例を成立させました。具体的には、ファストフード労働者を対象に、勤務スケジュールを一定期間前に通知させたり、直前の変更には割増賃金を設けたりすることを義務付けました。

このようにアメリカでは、雇用されている労働者の賃金や労働時間を条例で規制する運動が成果を上げつつあります。その中で、個人事業主・フリーランスの保護のあり方が議論になっています。

労働者団体の活動

アメリカには、フリーランサーズ・ユニオンという団体があります。会員数は約35万人。このうち約2万5000人がユニオンの提供する健康保険に加入しているそうです。

ユニオンは、2016年に「Freelance Isn't Free Act:フリーランスは無料ではない」というニューヨーク市条例の制定に大きな役割を果たしました。この条例は、(1)報酬が4カ月にわたって少なくとも800ドルの契約に関しては、書面での契約が必要であること(2)期日どおりに満額の支払いがなかった場合に訴訟を起こして勝訴したら、2倍の賠償金を受け取れること─などを規定しています。ニューヨークには約400万人のフリーランサーがいると言われており、条例の意義は大きいと言えます。

また、シェアリングエコノミーの代表格である「Uber」についても、タクシー労働者の集まりである「タクシーワーカーズアライアンス」が成果を上げています。具体的には、免許取得要件をタクシーと同一にすることで繁忙期のみ営業するパートタイムの「Uber」ドライバーの参入を阻止してきました。また、タクシー労働者への暴行に対する刑罰を厳しくする条例も制定を実現しました。

新たなチェックオフ条例

10月にニューヨークを訪問し、労働団体などにヒアリング調査してきました。最も興味深かったのは、今年5月にニューヨーク市議会で成立したファストフード労働者に関する条例です。この条例は、ファストフード労働者がNPO組織に任意で継続寄付を行いたい場合に、その使用者に該当金額分のチェックオフを義務付けるという条例です。

「ファストフード・ジャスティス」というNPOは、労働環境や生活・住宅・移民問題などの取り組みを推進しています。このNPOへの継続寄付に関してチェックオフさせる仕組みです。ニューヨークには6万人のファストフード労働者がいると言われていて、NPOが組織化を進めています。

労働組合はこのNPOを支援しています。労働組合が、なぜこのような方法を取るのかというと、アメリカの「全国労働関係法」が背景にあります。アメリカで労働組合が団体交渉権を獲得するには、選挙で事業所などの交渉単位の過半数の支持を得なければなりません。ファストフード店のように使用者がバラバラでは、現行法上、労働組合の組織化は困難です。そのため、このような組織で労働条件を改善しようとしています。

このようにアメリカでは、賃金や労働時間などの労働条件を向上させるために労働運動が条例制定を積極的に活用しています。日本の労働運動にも一定の示唆を与えるものだと思います。

他方、アメリカの労働組合は、組織化を常に意識しています。法律の現状が厳しいからこそ、こうしたNPOの活用など、あらゆる手段を使って組織化に結び付けようとしています。日本も考え得る限りの方法で組織化に結び付ける、アメリカの労働組合のような努力も求められていると思います。

アメリカのNPO「FAST FOOD JUSTICE」のWebサイト
https://www.fastfoodjustice.org
特集 2017.11「非雇用」のいまとこれから
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー