「非雇用」のいまとこれから「年収100万円未満」個人請負アニメーターの現実
年収100万円未満
「3年目以内のアニメーターは年収100万円いかないです。絶対いかないです」─。
大学卒業後、アニメスタジオで働くAさんはこう証言する。Aさんはスタジオと請負契約を締結する「個人事業主」だ。
「動画1枚の単価は200~350円くらいです。元請けの自社制作だと1枚200円くらいですが、下請けに出されるとそこから引かれるので、もっと低くなります。聞いた中で一番ひどかったのは1枚100円です」
動画1枚を描くのにかかる時間は、40分から1時間。単純に時給換算すると、最低賃金の金額を大きく下回ることになる。1日に作業できる時間は12時間が限界。集中力のいる作業なのでそれ以上は難しい。200円の動画を1日12枚描いても2400円。月22日働いても5万2800円にしかならない。年収はもちろん100万円に届かない。
「だからアニメーターは実家暮らしか親の仕送りに頼っているかどちらかです」とAさんは打ち明ける。当然、国民年金などの保険料もそこから払わないといけない。
アニメ制作には、「原画」と「動画」という工程がある。「動画」より「原画」の方が単価は高いが、「動画」から「原画」工程に移っても生活はギリギリで月収は20万円に届けばいい方だとAさんは言う。
スキルが必要
「動画」は、「原画」と「原画」の間の動きをコマ割りする作業だ。Aの原画をトレースし、Bの原画のポーズまで1枚ずつ描いていく。Aさんは「まず線をきれいになぞるまで結構時間がかかります。それから、人物が振り向く場合とか、動画独自の技術が必要で、原画と原画の間の動きを単純に割ればいいわけではないんです」と話す。
さらに「動画の仕組みを知っている人が少なくて、教えられる人が少なくなっている」と訴える。高いスキルが必要なのに、それに対する対価が最低賃金よりも低いのが現実なのだ。「動画部門の3年以内の離職率は9割くらい」とAさんは周囲の状況を話す。人材育成の観点からも問題があるのは明らかだろう。
声を上げるために
アニメーターに個人請負は多いが、Aさんは、「労基署に駆け込まれたら会社はやばいと思いますよ」と打ち明ける。形式は請負契約になっていても、働く時間や場所、許諾の自由などに関して、労働者性が認められるような実態があるからだ。
だが、実際にそれを申告する人はいないとAさんは話す。
「アニメーター自身の生活が自転車操業なので、仕事がなくなると思うと駆け込めないんですよ」
多くの場合、不満を抱えた人たちは転職の道を選ぶ。一方、「現場に残るのは、絵を描く仕事だけをしてきた人ばかりで、転職に抵抗があって、労働条件に何も言えない人が増えてしまう」とAさんは分析する。
近年、アニメ制作現場の過酷な労働環境を指摘する声が高まっている。だが、Aさんの周囲の状況は相変わらずだ。
「何年か先のスケジュールまで決まっていて、現状これで動いてしまっているので、すぐに変えるのは難しいとか、業界の伝統だって言い逃れする人とか、そういう人も多いです。だから、1回壊して、違う仕組みをつくった方が早いという人もいます」
労働条件を向上させるために何が必要なのか。Aさんは、「これ以上安いお金ではやりませんと言う勇気も必要なのかなという気がしますね」と話す。アニメーターたちが声を出せる場をどうつくれるか、労働組合の役割が問われている。