特集2017.11

「非雇用」のいまとこれから歴史から見る「雇用によらない働き方」

2017/11/14
請負から雇用へという労働の歴史を振り返りながら、現在の「雇用によらない働き方」の促進をどのように評価できるかを考える。
金子 良事 法政大学大原社会問題研究所兼任研究員

雇用が従であることが可能だった時代

日経連の「新時代の『日本的経営』」は雇用のポートフォリオが注目されましたが、企業を構成するのが正社員だけではないという含意がありました。日本が雇用中心社会に推移していくのは高度成長期くらいからで、それは弥生時代以来の農村社会の変容と終焉を意味していました。農村社会の時代には、農業の繁閑を配慮した働き方が日本中にあったのです。彼らにとっては先祖代々の農業こそがメインであり、雇用はあくまで副業だったのです。いわゆる出稼ぎはその象徴でしょう。

雇用労働者を対象とした持ち家政策の推進はもともと農家や中小自営業者に比べて彼らが家を持っていないということで、1960年代から模索されたものです。この頃、正社員の生活モデルがつくられたと考えられます。ですから、90年代に見直されたことを考えると、いわゆる日本的経営が多くの人の生活を支えるモデルとして安定したのは20年くらいのものです。

自己決定と生活保障規範のトレード・オフ

現在、働き方改革の中で議論されている副業の容認は1990年代の議論と似ているところがあります。雇用のポートフォリオは企業側からの投資戦略という面もありますが、従業員側からの多様な生活の要求という側面もありました。これは一部ではワーク・ライフ・バランスという形で、現在でも継承され、長時間労働の是正という重要なトピックになっています。2000年代には従業員が自分のキャリアを選ぶキャリア権が注目されたこともありました。これらは一続きの流れと言えるでしょう。ただ、自己決定を強調すると、企業側の従業員保護、生活保障の規範が弱まることも注意する必要があります。

私は企業側が従業員全体の生活を考えざるを得なくなった一つの要因として戦後のインフレ下で月給制度が普及したことが大きいと考えています。1938年の日中戦争勃発直後の工場では、まだ請負給と呼ばれた出来高賃金制も多く、景気が良くなって単価が上がると、たちまち稼働率が下がるという問題がありました。職工は短期間に稼げるようになるので、工場に来なくなったのです。逆に言うと、職工たちはワーク・ライフ・バランスを勝手に自分たちで確保していて、それを企業も追認せざるを得なかったわけです。

副業の推進は、企業の生活保障規範を後退させる可能性と常に表裏一体です。しかし、現代の雇用社会においてはかつての農村社会のような生活基盤を多くの人は持っていません。それは非常にリスクの高いことなのです。

副業による長時間労働リスク

企業が内部化せずに仕事を外に出す場合、請負でも派遣でも、高いレベルと低いレベルのものがあります。前者は企業内にない技能の調達、後者は費用削減を目的に行われます。労働問題になるのは後者です。

実際、1990年代には家庭用コンピューターやプリンターが普及して、新しい柔軟な働き方として女性、特に主婦を中心にSOHOが喧伝されました。しかし、これは一部の識者が懸念していた通りに、従来の家内請負と同じように、単価の切り下げとそれに伴う長時間労働を招きました。単価の切り下げの前には柔軟な働き方など吹っ飛んでしまうのです。さすがに働き方改革実現会議実行計画を読むと、事務局はよくわかっていて、テレワークの長時間労働防止を強調しています。しかし、彼女たちの長時間労働は雇用労働ではないので、直接規制する手段はなく、あくまで企業に深夜・休日のメール禁止等を「推奨」するしかありません。そもそも規制できたとしても、誰も彼女たちの収入保障をしてくれるわけではありません。

職場拡散のリスク

企業側から見ても、近年は完全に自宅勤務だけという働き方は見直されてきて、毎日ではないにしても顔を合わせて仕事をすることの重要性が改めて認識されています。労働組合側から見ても、職場が拡散することは組織化の困難を意味します。少なくとも、事業所や企業単位での組織化とは別の方法を講じる必要があります。

歴史的に、どこの国も職場の仲間の連帯を基盤に労働組合をつくり上げ、社会保障のない時代には互助的な生活保障制度の構築をめざしてきました。現場を転々と移動するようなタイプの働き方は職場を起点に組織化するのは難しく、この場合は職種などが重要になります。それでも違う現場で顔を合わせることはあるかもしれません。インターネットでデータだけをやりとりする関係では、外部の組合が組織化を働き掛けようにも、その人を見つけてつながるのは難しいでしょう。

また、複数の仕事を持つことは、どの局面で労働組合員になるのかにも難しい問題を投げ掛けます。端的な解決は、仕事、職場によらない個人加盟でしょうが、組合活動を知らない人に組合の意義や連帯感を共有してもらうのは困難です。そこを産別がどのように突破していくのか、期待して見守りたいと思います。

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