「非雇用」のいまとこれからフリーランス当事者が協会を設立
企業と個人の対等なパートナーシップをめざす
対等なパートナーシップ
雇用によらない働き方に注目が集まっています。社会面では、労働力人口の減少で多様な働き方が求められていること、技術面ではリモートワークがしやすくなったり、多様なプラットフォームなどが登場したりして、フリーランスがビジネスをしやすくなっていることが背景にあります。国内のフリーランス人口は今後も増加する見込みで、この流れが逆行することはないと考えています。
日本では、高度経済成長期などを通じて正社員であることを是とする価値観や、会社員が優遇される仕組みが形作られてきました。働く人の選択肢を増やすためにも、こうした価値観からの脱却が必要だと考えています。
とはいえ、みんながフリーランスになるべきとは思っていません。多様な価値観に応じた働き方の選択肢を増やすことが私たちの目的です。
そのためには、二つのことが大切だと考えています。一つは、企業と個人の関係を対等なパートナーシップ関係にすること。パターナリズム的な主従関係ではなく、個人のジョブやキャリアを公正に評価し、対等に取引する関係性にすることが大切だと考えています。
もう一つは、雇用形態レベルの流動性を向上させることです。会社員からフリーランスへの一方通行ではなく、ライフステージやニーズの変化によって、両者を行き来できる社会を実現したいと考えています。
規制の切り分け
これらのビジョンを前提に、私たちは四つの提言をしています。
一つ目は、「準従属労働者」に対する保護です。フリーランスと一口に言っても、そのあり方は多様です。クラウドソーシングなどのお陰でフリーランスの敷居が低くなったことは柔軟な働き方を可能にした一方、十分な競争力がないまま独立する人も少なからずいます。こうした人たちは、「準従属労働者」として、プロフェッショナルなスキルや交渉力を持つフリーランスとは切り分けて、労働法で保護されるべきだと考えています。
一方で、競争力のあるプロフェッショナルは独立事業者なので、労働法的な保護の概念はなじみませんが、独禁法や下請法といったいわゆる「競争法」の対象として、公平性や透明性が担保されることが必要です。
多くのフリーランスは、自分の意思でその働き方を選択しています。そこに強い規制がかかってしまうと事業主としての裁量がなくなったり、企業がフリーランスを活用する機会が少なくなったりしてしまいます。準従属労働者とプロフェッショナルなフリーランスを切り分けた議論をしてほしいですし、幸せなフリーランスがたくさんいることを知ってほしいです。
相場観を見える化
二つ目の提言は、自助・共助によるスキル・キャリア形成の促進です。例えば、職業能力育成のために自己投資した費用に関して税額控除の対象や、公的な助成金を支給してもらうような施策などを検討しています。
三つ目は、対等なパートナーシップを実現する取引環境の整備です。フリーランスで働いていると、契約条件がそもそも明示されないこともよくあると聞きますし、際限のない手直し要求、支払遅延なども珍しくありません。こうした課題に対しては、公正取引委員会などと連携し、下請法や独禁法の見直しを進めていけたらと考えています。例えば、下請法は現在、資本金1000万円以下の企業は法の対象外で「治外法権」状態です。こうした点を見直したり、金融機関と連携してフリーランスの社会的信用を担保する仕組みを検討したりしていきたいと考えています。
交渉力強化のために、フリーランスの相場観を見える化する取り組みも検討しています。フリーランスのスキルや実績をビッグデータとして蓄積して、どのくらいの経験の人の仕事が、どのくらいの価格でやりとりされているのかがわかるようにする仕組みです。相場観が見えてくれば、フリーランスの価格交渉に用いることができると考えています。
働き方に中立な社会保障
四つ目は働き方に中立な社会保障の実現です。
フリーランスは、育児休業給付金や職業訓練給付金のように雇用保険で賄われる公的支援を受けられません。子を産み育てる、介護する、職業訓練を受けるなどのセーフティネットは、雇用形態を問わずすべての働く人が利用できる制度になればと考えています。
フリーランス協会では、有料会員にベネフィットプランを提供しています。その一つは、民間の保険会社と連携し、業務の遂行上発生した損害賠償責任に基づく保険金を補償する仕組みです。例えば、情報漏えいや著作権侵害といった業務過誤の事態を補償します。この保険は、発注者側も適用対象となるので、発注者側が安心してフリーランスに仕事を発注しやすくなるメリットもあります。また、労災の代わりに、任意加入の所得補償制度なども提供しています。
個人のフリーランスの声を届ける
私はフリーランスという働き方を気に入っています。制度面の不便さも自分で選んだことだから受け入れてきました。しかし、ここ1~2年、フリーランスになりたいという人が増えていることを肌身で実感しながらも、制度の不便さから自信を持って背中を押せず、もどかしく思っていました。
そうした中で、昨年10月に経済産業省が「雇用関係によらない働き方に関する研究会」を立ち上げました。ただ、研究会のメンバーにはクラウドソーシング事業者は入っていても、私たちのように自分で仕事を受けるフリーランスの当事者は入っていませんでした。そこで、個人のフリーランスの声を届ける場の必要性を感じ、この協会を立ち上げました。
私たちは、労働組合という言葉は使いませんが、活動の内容は似ているところがあります。企業と個人が対等なパートナーシップ関係を築くという意識がもっと広がれば、労働組合に対する期待も高まるのではないかと思います。