特集2018.01-02

「草の根」社会運動と労働組合新しいタイプの社会運動に労働組合はどうかかわるか

2018/01/15
首相官邸前デモや安保法制に反対する国会前デモなど、新しいタイプの運動が広がっている。労働組合はこうした運動とどのようにかかわれるだろうか。社会運動に詳しい小熊英二・慶應義塾大学教授に聞いた。
小熊 英二 慶應義塾大学教授

不安定化と選択の自由の広がり

現代社会は、あらゆる場面で不安定化が進む一方、選択の自由の幅が広がるという状況にあります。

この二つの関係は、コインの裏・表の関係です。例えば、雇用が不安定になる一方で、転職の自由が広がる。家族が不安定になる一方で、婚姻の選択の幅が広がる。このように、不安定化と選択の自由化がさまざまな場面で同時に進んでいて、かつ、競争が激しくなっています。これが現代社会の基本的な趨勢です。インターネットやSNSといった通信技術も、こうした変化に即して発達しています。

社会運動と呼ばれるものも、こうした動きに沿って変化しています。固定化した人間関係を基盤としたメンバーシップ性の強い組織よりも、参加者が自由に離合集散するかたちの運動が増えてきました。SNSがこうした運動を生んだというより、こうした運動がSNSと相性がいいということでしょう。

ここまでが基本的な図式であって、いま起きている、さまざまな出来事はここから派生したものだと言えます。例えば、政党と有権者、企業と社員のような組織と個人の関係が不安定化し、町内会や労働組合を通じて自分の意思を伝えるルートが機能しなくなると人々は疎外感を抱きます。一方で、人々の間には、自分の意見を意思決定の場に直接訴えたいというモチベーションが高まります。そこで人々はSNSなどを使って、自由に運動に参加します。首相官邸や国会前に出現したデモは、そうした人々のメンタリティの表れだと私は解釈しています。

新しい運動と労働組合の補完関係

新しいタイプと呼ばれる運動は、事態に素早く対応でき、多くの人を瞬発的に動員できます。呼び掛ける人が少人数でも、SNSを駆使してたくさんの人を集められます。

しかし、こうした新しいタイプの運動には持続性や資金力はありません。ですから、新しいタイプの運動と労働組合は、ある種の補完関係に立てると私は思います。新しいタイプの運動に足りない持続性や資金力を労働組合は補える、ということです。

実際、そうした場面はこの数年間で随分見られました。労働組合が街宣車や機材を融通したり、人を紹介したりといったことです。このような提携はもっと探っていいと思いますし、労働組合の側から、運動の側に「こういうことをもっとやってほしい」と言ってもいいのではないかと私は思います。

例えば、すぐにできるのは、SNSの活用方法を聞く、サイトのデザインを手掛けてもらうといったこと。新しいタイプの運動と労働組合が、補完関係を持ちながら、互いの関係を深めることはもっとやっていいと思います。

労働組合の第一の任務

しかし、新しいタイプの運動と労働組合の運動とでは、運動の原理が異なるということをまず念頭に置いた方がいいと思います。新しいタイプの運動は、ある一つのテーマに対して、さまざまな場所や立場にある人々が臨時に集まってくる。それに対して、労働組合の運動は、同じ職場で働きながら長期的な人生設計も含めて活動するもので、基本的な性格が異なります。

労働組合の第一の任務は、働く人たちの労働や生活にかかわる権利を向上させることです。ですから、労働組合はこのことを運動の一番に置く。それがしっかりできていれば、新しいタイプの運動に参加したり協力したりする余力も、自然にできてくるでしょう。

職場活動をおろそかにしながら、メディアで注目されている問題に労働組合が最優先で取りかかるべきかというと、そうではない。最初の対応は動きの早いグループに任せて、労働組合はそれと協力関係に立つのでもよいと思います。

新しい時代への対応としては、新しいタイプの運動といきなり連結しようと考える前に、まず労働組合が自分たちの組織の中のコミュニケーションを見直してみてはどうでしょう。組織の中を見渡してみれば、新しい種類の問題にかかわっている人たちがいるはずです。

例えば2012年の首相官邸前デモに参加した人たちに動機を聞いたところ、一番多かった回答は、福島に親戚がいるとか、福島から避難してきた人が職場にいたといったケースでした。そういう動きが職場にあることを、常日頃からつかんでいれば、自然と労働組合の中で取り組みが生まれていたかもしれません。新しい運動に出遅れたというよりは、むしろ職場内の状況を労働組合幹部がつかんでいなかったことの方が大きいのではないでしょうか。

情報労連には、組合員20万人に加えて家族や地域のつながりがあります。その人たちが抱えている問題は、長時間労働や過労死、育児や介護など、広範囲であるはずです。現場の組合員と日常的にコミュニケーションを取り、それらの問題にきちんと取り組んでいくことが、新しい時代に対応する上でも、地道なようで一番効果があるかもしれない。

私が労働組合を外から見ていて気になっているのは、執行部と現場の組合員の感覚にズレが生じていることです。職場のコミュニケーションを労働組合の活動家がつかめておらず、また一般の活動家と労働組合幹部が離れてしまっていて、執行部だけ浮き上がっている状況がないだろうか。それだと、若い人がどういう問題を抱えているかもわからず、昔ながらのスローガンを唱えるばかりになりがちです。時代に即応していくことも、結局はできません。労働組合の執行部は、まず労働現場と交流する機会をもっとたくさんつくった方がいいと思います。

参加経験を売る

かつての労働組合の強さは、職場や地域の関係の強さにありました。1950年代の労働運動の最盛期には、企業別労働組合というメンバーシップに加えて、社宅や「企業城下町」といったネットワークを介して、家族や地域も巻き込んだ運動を展開していました。労働組合が音楽祭や映画の試写会を催して、組合員も純粋に楽しんでいたようです。

ただし、このような運動は再現できない。移動の自由や職業選択の自由があり、息子・娘が同じ地域の同じ職業に就くとは限りません。昔と同じ文化活動をいまの時代にやっても効果がない。現代に即した運動のあり方を考えるべきでしょう。

その場合のヒントは、「参加経験」の魅力です。いまの時代、どんな業界でも、モノが売れない。いま売れるのは「経験」です。中でも一番人気があるのが「参加経験」です。音楽で言えばCDを買うより、コンサートに参加する。アニメーションも見るだけではなく、舞台となった場所を訪問する。何かに参加したいという欲求は潜在的に高い。労働組合の運動もこれを活用していいと思います。職場の条件を決定できる過程に参加できるというのは、意外と若い人には魅力かもしれませんね。

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