「草の根」社会運動と労働組合労働組合のSNS活用法「ネット時代の駆け込み寺」に
メディア・アクティビスト
東日本大震災を転換点に高まったSNSの影響力
東日本大震災のあった2011年は、社会運動やSNSにとっての転換点でもありました。
まず利用者数が大きく変わりました。2011年3月時点のスマートフォンの契約者数は955万人、ツイッターのアクティブユーザーは670万人でそれほど多くありませんでした。けれども2017年にはスマートフォンの契約者数は8100万人、ツイッターのアクティブユーザーは4500万人に増えました。スマートフォンは、12人に1人の割合から1.5人に1人の割合になり、ツイッターは20人に1人から3人に1人の割合で使うようになりました。スマートフォンが普及し、SNSの影響力が高まる中で、社会運動の見直しが同時進行的に起こりました。
SNSの影響力が高まることで生じた大きな変化は、SNSを通じて人々がつながり、デモが盛り上がるようになったこと。もう一つの大きな変化は寄付ブームが起きたことです。2011年以降、インターネットで寄付を募るクラウドファウンディングが広がり、SNSで情報が共有され、共感される運動にはお金が集まるようになりました。それまでの社会運動にとって、広告宣伝と資金集めは小規模の組織ほど難しいものでした。しかしSNSを使えば、小規模でもビジョンがしっかりしていて、信頼があればお金が集まるようになった。このことは東日本震災以降の社会運動を考える上で決定的に重要です。
動員力も大きくなりました。2011年は変化の年で、前年の12月から「アラブの春」が広がり、その年の9月からは「オキュパイ・ウォール・ストリート(OWS)」運動が起きました。OWS運動は、世界的なムーブメントになりましたが、その背景には、OWSの活動家たちが運動のメソッドをマニュアル化し、ウェブサイトで公開したことがあります。こうした運動は、2012年に日本で起きた脱原発の官邸前デモにも影響を与えました。日本ではデモが盛り上がらないと言われていた中で、大規模なデモが起きるようになったのは、SNSがもたらした一つの効果だと思います。
埋もれたニュースを発掘し「声なき者のスピーカー」になる
SNSは共感をつなぐメディアです。その代表格であるツイッターには大きく二つの要素があると言われています。一つは、ニュースを伝えるジャーナリズム・情報ネットワークとしての役割。もう一つは、人々の共感をつなぐ役割です。例えば、深夜一人でさびしい気分の時にツイッターを開くと同じような気持ちの人たちとつながれる。そういう心をいやす機能もあります。動員力が高まったのも、人々の共感をつなぐSNSの力の一つと言えると思います。
SNSで影響力の強い人を「インフルエンサー」と呼びますが、労働組合の活動家や関係者で「インフルエンサー」はまだ出てきていないと思います。
ツイッターで失敗する企業アカウントのほとんどは、自社の告知しかしていません。しかし、それではその企業のホームページやブログを見にいけばいいわけで、SNSの特徴である双方向性を生かせていません。自社に興味のない人たちにも見てもらったり、フォローしてもらったりするにはどうすればいいのかを考えないといけません。
「ウィキリークス」の創設者であるジュリアン・アサンジ氏は、ソーシャル・メディアは、一般の人たちがマスメディアの情報を補完するためのツールだと指摘し、次の三つの活用方法があると述べています。
一つ目は、マスメディアが発信したニュースに多様な見方があると示すことです。例えば、労働関係のニュースがマスメディアに掲載されたら、そこに労働組合としての見方を付け加えてSNSで発信する。「報道はこう言っているが、労働者の目線だとこうなるよ」ということです。労働組合のアカウントなら、労働関係のニュースすべてを解説するといいと思います。
二つ目は、埋もれていたニュースを発掘することです。例えば、「保育園落ちた、日本死ね」騒動も、そうです。マスメディアの記者が発見していない問題を取り上げて、SNSで顕在化させていく活用法です。マスメディアに取り上げさせるよう、SNSを用いて自分たちで仕掛けていくことができます。「声なき者のスピーカー」になれるということです。
三つ目は、マスメディアの情報源になることです。メディア関係者とSNS上で交流することで、記者たちの情報源になっていく。こうした視点で運営していくことが大切だと思います。
ツイッターの運用は「治外法権」に「宴会部長」が適任者
ツイッターがブームになった頃から言ってきましたが、企業アカウントの運用に向いているのは、会社の「宴会部長」のような人だと思っています。いろいろな人の意見を聞いて人を楽しませようとする、イベントに向けて臨機応変に調整できる。こうしたスキルがSNSの情報発信に重要だと思っています。
そこで大切なのは、ツイッターの担当者には、運用の権限を与えて、上から一切口を出さないということです。インターネットでの広報活動と、日常の活動を切り離して、ツイッターの運用は「治外法権」にする。
「炎上」を心配する役員はいるでしょうが、「炎上」して何か困りますか。「炎上マーケティング」は中・長期的に損失が大きいので避けるべきですが、日常のコミュニケーションの中で結果的に「炎上」するのは仕方ありません。むしろ、存在が知れ渡ってよいのではないでしょうか。
先の総選挙では、立憲民主党のツイッターアカウントが話題になりましたが、見ていると「アンチ」の人のコメントにもうまく対応して、自分たちの主張にうまくつなげていました。ツイッターはどうしても、「右」にも「左」にも強い言葉に惹かれがちですが、本当に数が多いのは、その中間にいる人たちです。とがり過ぎた主張にならないよう気を付けるといいと思います。
双方向性を生かし「ネット時代の駆け込み寺」に
労働組合がモデルにできそうなツイッターのアカウントとして「毎日新聞・校閲グループ」のアカウント( @mainichi_kotoba )があります。校閲という仕事は、普段なじみのない職業ですが、このアカウントは、「こういう仕事をしていますよ」という豆知識の宝庫になっています。組織率が低下している労働組合にとっても、労働に関する知識を若者に届けるのに参考になると思います。
また、SNSの双方向性を生かして、ツイッターなどでも労働相談を受け付けたらいいと思います。労働組合のアカウントは「ネット時代の駆け込み寺」になればいいと思います。その意味でも、労働関係のニュースに専門職目線でコメントを付けることは、相談のきっかけにもなります。
ツイッターでの発信にもコツがあります。コツをつかむまでは「トライアンドエラー」を繰り返すしかありません。担当者に運用を任せる思い切った対応が必要です。