特集2018.01-02

「草の根」社会運動と労働組合民主主義の基盤を生み出す「連合地方組織」の運動とは?

2018/01/15
連合の地方組織である「地方連合会」「地域協議会」は、地域から共感を得て生活者と一体となって運動を展開したとき、民主主義の基盤となり得る。地域からの草の根運動のあり方を探る。
柳浦 淳史 (やなうら あつし) NTT労働組合中央執行委員
法政大学大学院連帯社会インスティテュート(連合大学院)2015年度修士課程修了者。修士論文「連合地方組織の政治参加―政策提言活動の現状と課題―」を執筆。

多岐にわたる連合地方組織の活動

労働組合のナショナルセンターである連合は、地域政治にどのようにかかわれるのか。連合の地方組織である地方連合会(県単位)・地域協議会(区市町村単位)は、それぞれの地域で重点政策を策定し、行政や経済団体等に対し政策提言を行っている。

地方連合会・地域協議会が取り扱う政策課題は、雇用労働分野にとどまらず、福祉・医療、都市政策、教育、地域経済の振興など、多岐にわたる。それぞれの組織が掲げる政策の内容をひも解くと、労働者全体・生活者全体へ波及する項目が多くを占めていることがわかる。

つまり、連合の地方組織は、連合に加盟する組合員だけにかかわる利益を追求するのではなく、地域の労働者・生活者全体に波及する利益を追求して、政策提言活動を行っている。

公立病院の合理化に反対地域を巻き込み存続を訴え

ここでは、興味深い事例を一つ紹介したい。当時の政権が、全国の公立病院の経営合理化を進めた際、ある連合地方組織が、地域住民を巻き込んで県や区市町村に病院の存続を訴えた事例である。

当時、公立病院の経営合理化をめぐっては、次のような背景があった。2007年、政府は「経済財政改革の基本方針」を閣議決定した。同年12月、総務省はこの基本方針を踏まえ「公立病院改革ガイドライン」を策定した。

このガイドラインは、各地域において公立病院の、(1)経営の効率化(経常収支の黒字化)(2)再編・ネットワーク化(病院の統廃合と病院間の連携促進)(3)経営形態の見直し─を求めるものである。総務省は、ガイドラインの策定を通じて、全国の都道府県に対し公立病院の経営合理化を強く働き掛けた。

一方でX県も、独自に「自治体病院等広域化・連携構想」を策定し、県下の区市町村の公立病院に対し、個別具体的な経営改善方針を定めた。中には、不採算や病床利用率の低さなどを理由に、廃院や、診療所への経営転換を方針として定められた病院も含まれていた。

2008年、地方連合会X(X県で活動する地方連合会)は、政府やX県が進める検討に対し、「地域医療の再編やネットワーク化の検討は、行政の財政事情ありきではなく、地域の関係者の判断に基づき進められる必要がある」との課題認識を持った。そして、地域協議会などと連動した「対策委員会」を設置し、地域医療の検討にあたり、関係者や住民の参加と情報公開を求める“草の根”の運動を開始した。

一般組合員や地方議員地域住民とともに

県下のY地域では、三つの公立病院について診療所への経営転換が検討されていた。Y地域を管轄する地域協議会Yは、(1)街頭演説(2)チラシ配布(3)戸別訪問(4)集会の開催─などを精力的に展開し地域住民と論議を深め、「病院を維持すべき」との世論を醸成した。一連の行動は、地域協議会Yの役員だけで行うのではなく、「対策委員会」を通じて、加盟組織の役員や一般組合員を巻き込みながら、その規模を広げていった。組合員を巻き込んだ草の根運動は、「地域の声」と共鳴し合い、地域住民をも巻き込む大きなうねりとなった。

さらに、世論に訴え掛ける行動には、連合と友好関係にある市議・県議・国会議員が同行した。行動をともにした議員は、病院の存続の必要性を切実に訴える住民の声を直接聴き、「この問題にはしっかりと対応しなければまずい」「住民の声に背中を押される」との実感を持ち、議会や行政への働き掛けを強めた。

地方連合会X・地域協議会Yの役員自らも、県・区市町村や各地域の首長に対し、公立病院の継続を要請した。要請に当たっては、地方連合会Xが2008年6月から8月の期間に集約した個人60万3477筆・団体3729筆の署名を県に提出している。さらに、より説得力のある政策提言を行うべく、医療機関・患者団体からのヒアリングなどを事前に行い、客観的視点に立った要請を行った。

これらの一連の運動を通じて、最終的に、Y地域では、公立病院の存続が決定した。

連合が地域政治にかかわる実像

労働組合は、本来、職場での課題を民主的かつ主体的に解決する団体である。連合は、その営みを地域社会へと移し、地域の課題解決に取り組んでいる。生活者目線の意見を収集し、世論を喚起し、政策理念をともにする議員と連携しつつ、行政や首長等に直接働き掛けるのである。この一連の運動そのものが、連合が地域政治にかかわる実像と言える。

地域で困難を抱える人々のニーズは、行政の活動と企業活動との狭間に存在している。課題解決のためには、官(政府・行政)・民(市場)に対置する新たな領域「サードセクター」として、市民が主体的に組織・団体を構成し、自らの力で「官」や「民」に働き掛けることが求められる。

連合の地方組織の運動は、サードセクターに期待される役割を体現している。地方連合会X・地域協議会Yの事例のように、労働組合の運動が、地域から共感を得て生活者と一体となって展開されたとき、私たちの運動は民主主義の基盤となり、地域政治に活力をもたらすことができるだろう。

社会のあり方の変化
出所:筆者作成
特集 2018.01-02「草の根」社会運動と労働組合
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