常見陽平のはたらく道2018.01-02

2018年は「労働者の権利のフルコース運動」を

2018/01/15
私たちは労働者の権利を十分に行使しているだろうか。2018年は「労働者の権利のフルコース運動」を展開しよう。

私大で教員をしている。大学教員は意外に忙しい。春から夏にかけては毎月のように、オープンキャンパスに駆り出される。一人でも多くの学生に受験してもらうために、カリキュラムから各種制度、施設まで一生懸命に説明する。嘘はつかない。「盛って」もいない。ただ、たまにむなしくなる。大学の魅力としてアピールするポイントを入学後に活用してくれる学生は少ないからだ。

企業で採用担当をしていた際も、福利厚生が充実していること、ユニークな研修があることなどを求職者にアピールしていた。しかし、やはり入社後に誰もが活用していたわけではない。なんせ、その優れた制度なるものを説明している私自身が活用していないのだ。質問されたらどうしようかとビクビクしていた。

いきなり庶民的な話になるが、IT機器にしろ、“白物家電”にしろ私たちは買う前に性能や機能など比較検討する。それなりの出費になるからだ。そういえば、昨年は奮発してiPad Proを購入したが、例のペンもまったく活用できていない。CMを見て、そうか、こんなこともできるのかと思ってしまう。

これは「権利」についても言えることだ。私たちはいつの間にか、従業員としても、市民としても権利を自ら放棄していないか。放棄するように仕向けられていないか。

身近な件で言うと、有給休暇だ。日本人は国際的に見ても有休取得率が低いと言われている。厚生労働省「就労条件総合調査」によると、2016年の年次有給休暇の付与日数は18.2日、取得日数は9.0日、取得率は49.4%だった。その分、祝日などが多くなっている。

もちろん、休みづらいのには理由がある。仕事の絶対量が多くこなしきれないこと、突発的な仕事が多いこと、チームで仕事をしているがゆえに、一人だけ休むわけにはいかないことなどである。

製造業の方が非製造業よりも休みやすいと言われている。そういえば、以前、トヨタ自動車の工場を見学した際には、壁に2カ月先までのその部署の従業員の有休取得計画が張り出されていた。有休も使い切るように、上司が促していた。

もっとも、優れた取り組みのようだが、物足りない。本来、有休とは自由なタイミングで取ることができるものだからだ。

まず、有休を使い切る、しかも、自由なタイミングで勝手に休みを取るところから始めてみようではないか。もちろん、職場の空気は読まなくてはならないだろうが、とはいえ、これは労働者の権利である。

2018年は「労働者の権利のフルコース運動」を提案したい。ラーメンに例えると、全部入りということになるか。さらに替え玉にもトライしたいくらいだ。労働者として使える権利をフルで使い切りたい。

一見するとワガママのように見えるだろう。空気読めよと言われそうだ。ただ、世の中は働き方改革の大合唱であり、チャンスではある。経営側としても新しい制度の普及をアピールしたい局面でもある。気を付けなければ、現場と合っていない制度の実績づくりになってしまいかねない。

権利とは先人たちの汗と涙、時には血によってできている。感謝しつつ、行使する勇気を持とう。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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