特集2019.04

職場の防災・減災を進めようBCP作成・運用のポイントは?
対話と人材育成が事業継続の鍵に

2019/04/12
事業継続計画(BCP)の作成・運用のポイントは何か。多くの企業のコンサルタントを手掛け、中小企業向けの講演なども行っている識者に聞いた。
木村 正清 NTTラーニングシステムズ株式会社
営業本部 営業推進部
マネジメントコンサルティング部門
シニアコンサルタント

雇用や生活にかかわる問題

大規模災害に見舞われた企業が、厳しい事業運営を迫られることは容易に想像できます。従業員がけがをしたり、場合によっては企業の存続すら危うくなることもあります。そうした事態に陥れば、従業員の雇用や生活に影響します。事業継続計画(BCP)は、一義的には組織の問題ですが、従業員の雇用や生活に直結する問題でもあります。従業員の皆さんには、そうした認識を持って積極的な役割を果たしてほしいと思います。

講演などでは、BCPは何のためにつくるのかをいつもお話しします。それは、日常業務を継続するため、日常生活を維持するためであり、企業が社会的責任を果たすため、従業員が幸せで安定した生活を営むためでもあると説明しています。そのことを見直すためにBCPはいいツールです。組織の問題だけではなく、一人ひとりの問題として意識を持ってほしいと思います。

NTTラーニングシステムズ社が展開するBCPのパンフレット

リスクコミュニケーション

BCP策定のために重要なのは、普段から上司と部下とでコミュニケーションを緊密に図ること、「リスクコミュニケーション」を図ることです。

平時から対話を積み重ね、上司と部下との信頼関係が醸成されている組織は、災害時にも強いです。東日本大震災時における「オイルプラントナトリ」は有名な事例です。この企業では地震発生時の迅速な避難行動で従業員から犠牲者を一人も出さず、事業の復旧・再開にも非常に素早く取り組めました。企業のトップが普段から従業員と自分たちの企業の社会的使命や責任、指針などを議論し、従業員一人ひとりが自覚を持っていたからこそ、災害時にも的確な行動を取れたのだと言えます。あつらえられたBCPを持っているだけではなく、日常業務を通じてリスクコミュニケーションを取れているかが災害時に的確に行動するための鍵になります。信頼関係がないといざというときに動けません。

BCP作成の手順

BCPの作成は、基本方針決定→リスク想定→重要業務選定→課題・リスク洗い出し→対応策検討という手順で進めます。BCPは、中小企業庁や各自治体、商工会議所などが詳細なフォーマットを用意しているので、それらを利用するだけでもつくることはできます。ただ、それだけではいざというとき使えるものになりません。

このプロセスで大事なのは、やはり対話です。

いくつかの事業部や支店などがある場合、リスク想定や重要業務選定の際によく起きるのが、事業部や支店によって想定するリスクや重要業務の優先度が異なることです。これがバラバラのままでは、いざというときに人を動かせません。そのため、弊社のBCP策定支援では、事業部のリーダーや支店長クラスの人材に集まってもらい、リスク想定や重要業務の優先順位について議論してもらいます。

議論をすると、自分たちの事業部や支店の枠を超え、組織全体でのリスクや重要業務が見えてきます。垣根を越えて議論することで、他の事業部のリスクが自分たちの部のリスクになると気付いたり、自分たちのリスクが相手にとってもリスクになると気付いたりできます。

リスク想定の際に会社が意外と見落としがちなのが、従業員が出社できないという事態です。交通インフラが途絶えたり、保育や介護のサービスがストップしたら、出社できない従業員はたくさんいます。どのくらいの従業員が災害時対応に当たることができるのか、というリスク想定もしてほしいと思います。

こうして組織全体のリスクを洗い出すことで、全体として何を優先すべきかが浮き彫りになります。それによって、どこにどれだけのリソースを割くべきかを想定することができ、BCPができあがります。組織内での対話というプロセスを経ることで、自分たちに合った体制をつくることができます。

当事者意識を高めるために

このようなプロセスを経てBCPを完成させたら、全社に展開し、従業員の当事者意識を引き出すことが、いざというときに対応するためにも大切です。そこで鍵となるのが「災害イマジネーション力」です。人は、どのようなことが起きるのか、あらかじめイメージをしておかないと適切に対応できません。できるだけイメージを持っておくことが実践力につながってきます。

そのため、防災訓練でも、毎年同じシナリオを使い避難にかかる時間を短縮することも大切ですが、イメージを膨らます意味では、シミュレーションや状況を変えることも大切です。シナリオは状況を少し変えるだけでも、対応者や避難経路が変わります。それが「災害イマジネーション力」の向上につながります。

弊社のBCP作成支援では、自分たちでシナリオをつくれるようにするためのシナリオ作成演習も提供しています。この演習では、自社にあるリスクを洗い出し、それにどう備えるかを考えてもらい、担当者がシナリオをつくれるようなプログラムを提供しています。

また、弊社では、分厚いBCPをパッと見でわかるようにしてほしいという相談も受けています。この場合、体系だてられたノウハウがすでに存在しています。弊社ではCOP(コモン・オペレーショナル・ピクチャー)という考え方に基づいて、災害による被害状況や対応状況が一目でわかるシステムやツールを提供しています。関係者が共通の画像を見ながら情報を共有し、行動する。こうした体制づくりが迅速・的確な対応のためには必要です。

人材育成が鍵

さらに、弊社では、すでにBCPやマニュアルを作成済みの会社で、担当者がノウハウを持っている企業からも相談を受けます。この場合は、その担当者が持っているノウハウを「見える化」したいという相談です。災害対策のノウハウは属人化しがちです。そのため、その人が異動するとノウハウがブラックボックス化してしまうという課題もあります。弊社ではこのような課題の解決にも支援策を提供しています。

こうした観点で見ると、BCP策定・運用の一番の肝は、実は人材育成システムの体系化だということがわかります。ノウハウを持った人を継続的に育成できる体制の構築こそが、事業継続の鍵なのです。

家族の安全も大切

中小企業などで、災害対策にかける人員や資金のリソースに限界がある場合でも、まずはできることからはじめることが重要です。とりわけ、まず命を守るために、自分の身は自分で守る「自助」の考え方は大切です。

その上で、資金繰りなど、災害時にどれくらい会社が持ちこたえられるかを想定すること。最悪の場合を想定し、代替拠点の設置や他社との応援協定の締結などを進めておくことが重要です。

同時に雇用に関しても、休業する場合や、シフトやワークシェアリングの体制などを考えておくといいでしょう。普段から労使でコミュニケーションを図ってほしいと思います。

また、従業員は家族の安全が確認できないと安心して業務に就くことができません。会社としては、従業員一人ひとりを大切にするというメッセージを伝えるとともに、家族の安全に関してもフォローしてほしいと思います。

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