特集2019.06

女性と労働組合[覆面座談会]現役女性組合役員のホンネ
組合役員のWLBをもっとオープンに語るべき

2019/06/10
現役の女性組合役員に労働組合と女性の関係について語ってもらった。労働組合の中で、女性役員たちは何を感じているのか。率直な思いを紹介する。

男性中心の労働組合

──労働組合で「男性中心」を感じるときは?

A長時間拘束ですね。「拘束時間が長いことも運動の一つ」みたいな。理解しないといけないと思いつつ、そこに仕事と生活の両立の難しさを感じます。それを理由に辞めていく女性役員もいます。

B女性役員が執行部に入ると、男性役員から「来てくれてありがとう」というウエルカム感を感じます。うれしいのですが、「いてくれるだけでいい」という雰囲気には違和感があります。

「あなたより若い世代で役員を引き受けてくれる人はいない?」と男性役員から聞かれたことがあります。独身で、子どもがいない方が役員を続けられるという思考回路があるのでしょう。やんわりとその人を説得しておきました。

C専従ではないので、組合活動をするのは朝か昼食時か、終業後。帰宅がどうしても遅くなってしまいます。長時間の拘束を嫌がって、女性役員のなり手がいません。その結果、いつも同じ人が会議や集会に出る羽目に。「独身だし、子どももいないから大丈夫だよね」という雰囲気はいつも感じます。

D女性役員を増やす方針なので、実際増えています。ただ、女性役員が辞めないように気を使いすぎて、彼女たちの自主性を奪ってしまっているかなと感じることもあります。

男性役員たちが朝まで飲んで「男子校」みたいなノリで騒いだりすることがあると労働組合の男性中心さを感じます。それを嫌がって女性が途中で帰ってしまったり。同じ思考の人ばかり集まっているわけではないので、日々の活動を振り返らないといけないと思います。

E「子どもを生んだら組合役員を続けられないね」と言われたことがあります。でも、そうしたくないという思いで組合役員を続けています。

一方、仕事の役割として男女の違いを感じたことはあまりありませんが、夜遅くまでの議論はどうなのかなと思います。

──仕事の配分などで男女の違いを感じることは?

B女性とか、男女平等とかに関連する集会や会議にいつも駆り出されます。女性役員の人数が少ないので、同じ人ばかり出ているんですけど、みたいな。

Cそうなんですよね。決まった人ばかり会議などに出ていて、後継者を育てられない。他の女性も「あの人がやってくれているから」と任せっきりになってしまう。

Dでも、女性が意思決定の場にいることはすごく大事。ここで決まる、という場に女性がいないと、意見が反映されません。特に三役には女性がいた方がいいですね。

A確かに。執行部には全員発言する権限がありますが、その中にもヒエラルキーはある。女性が「ホントのホントの意思決定の場」にいるかどうかが大切。女性が増えているとはいっても、組織の末端で増えているのでは本当の意味での男女平等ではありません。

D「女性枠」で一本釣りされたりすると、「組合のことをわかっていない」的な扱いをされたり。

Aそうそう。出世のメインストリームに乗るのは男性が多い印象もあって。どこかで「男性にしか任せられない」という意識があるのではとうがった見方をしてしまいます。

D女性が交渉部長を務めた時は、交渉スタイルが変化しましたよ。

E組織部長が女性の組合もありました。

Aそういう意味では変わってきていますよね。三役を務める女性がもっと増えるといいと思います。

性別役割分業と労働組合

──「男子校的なノリ」を皆さんはどう見ていましたか?

Eそういうものだと受け入れていました。議論自体は良いことだと思うのですが、みんなが遅くまでいられるわけではないし、日中にもっと意味のある議論をした方がいいですよね。

Cお酒の場や喫煙所で物事が勝手に決まってしまうこともあります。そういうことがあると、自分がいる意味を感じられず、モチベーションが下がります。「お酒を飲めないから組合役員はできない」という女性もいます。そんなことないのに…。

D「女性役員のなり手がいない。増やすにはどうすればいいか」と男性役員はよく言いますが、まずは自分の行動を振り返ろうよ、と。

(一同笑い)

Dなんで人のせいばかりにするのか。「僕たちは声を掛けているのに」みたいな。

A男性は、女性が断るのを消極性だと捉えてしまうんですよね。

D性別役割分業など、女性が断る背景に何があるのかを良く考えて、それを払しょくしないと問題は解消されないですよね。

──性別役割分業と労働組合活動をどう捉えていますか。

Aこれまで組合役員のモデルは、生活の全部を組合活動に投入できる人。組合役員自身の育児や家事などのケアは、度外視されてきました。

でも、それも変わりつつあります。育児に携わりたい男性役員も増えていて、仕事との両立に悩む人もいます。組合役員自身のケアが、組合活動の中にもっと普通に組み込まれればいいと思います。

C男性役員は、平日の帰宅も遅いし、土日のイベントもある。家族との関係は大丈夫だろうかと心配になります。責任感でこなしていますが、組合活動で家庭が壊れてしまわないかと不安です。組合役員ほどワーク・ライフ・バランスがない。

D生き生きと組合活動をできるようにしたいですね。昔より共働きの家庭が増えているので、家庭のことを放っておける男性も減っています。海外では、妻の組合活動を支援するために夫の理解を得る活動もあるそうです。

E育児時短勤務を取りながら組合役員をしている女性役員を知っています。組織が業務を調整しながら仕事を回しているようです。そこは変わりつつありますね。

B組合のイベントで執行委員の家族を呼ぶと、家族の理解も得られやすくなりますね。家族で一緒に楽しめるようになるといいと思います。

──組合活動のやり方を変えるためにどんな工夫が必要でしょうか。

C私は、男性の育児休業を促進するのがいいと思います。そうすれば、会議に出られなかったり、お迎えで早く帰らないといけなかったりする女性の気持ちが少しは理解できて、男性の意識も変わるはず。

B時間には物理的な限界があります。出産・育児によってライフステージが変われば、それまでと同じような働き方はできません。その状況にいる女性にとって、仕事と家庭の時間は切り離すことができません。

ライフステージによって変化する時間を管理者が上手にマネジメントするのが理想です。ただ、そのときに、女性だけが家庭的な責任を負うべきなのか。男性の育児休業を義務化するような措置を取らなければ、女性が使える物理的な時間は増えないままです。

A出産・育児などで女性役員が退任する例が多い。すごくもったいない。労働組合役員のワーク・ライフ・バランスは労働組合の中でタブー視されてきたようなところがあります。もっとオープンに語るべき課題だと思います。

E組合活動全般に言えることですが、組合員には家庭があることを踏まえて取り組まないといけないですね。

道を切り拓く

──かつて男性組合役員は女性の労働運動の敵対者と言われていました。どう感じますか。

A敵対者だと思ったことはありません。だからといって問題がないかというとそうではなくて、女性の労働問題が労働運動の主流になっていない気がしています。例えば、育児休職などの制度は整っているので、どこか「もう十分だよね」という雰囲気がある。でも、対話会などに行くと、育休復帰後のキャリアなど、さまざまな悩みが聞こえてきます。なのに、その課題が主流化しない。そこがもやもやします。

D「制度の上では男女間賃金格差はもうない」と言う人もいますよね。実際にはあるんですけど。

──女性の抱える問題が組合の要求にもっと反映されるといいですね。そのためにも女性参画の推進が必要なのだと思います。

──労働組合への女性参画を進めるために、何が求められているでしょうか。

D男性の働き方に多様性がないことが問題です。男性の働き方を見直していく必要があると思います。

C時代は変化しているので、組合活動もそれに合わせて変わっていかないといけません。時代の変化にアンテナを張りながら勇気を持って一歩を踏み出せば、多くの女性の理解を得られるのではないでしょうか。

E育児や家事、介護などをしながら組合活動ができることを実際に見せていかないと、労働組合の凝り固まったイメージは変わりません。最初に行動する人はある種のパイオニアになるかもしれませんが、その後について来る人は必ずいます。少しずつでも道を切り拓いていくことが大切だと思います。

B上司や会社と闘うにはエネルギーが必要です。だから、意見を言わずに転職する人も多くいます。でもそれは会社にとって損失です。意見を言わずに会社の指示に従う人ばかりになれば、会社の成長にとってマイナスになる可能性があるからです。従業員が前向きな意見を言える環境や、言ったことに意味があると思える環境づくりが大切です。

A女性は、男性とは違う悩みを抱えています。組合役員になることに悩んでいる女性がいたら、男性リーダーはその人が何に戸惑っているかをちゃんと聞いてほしい。その上で、「サポートするからやってみろ」と後押ししてくれたら、その言葉は、悩んでいる女性にとってものすごい力になると思います。

特集 2019.06女性と労働組合
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー