特集2019.06

女性と労働組合女性組合役員が反映する組合活動の
「X理論」と「Y理論」
オトコ社会から抜け出すためには?

2019/06/10
女性組合役員の活動の姿から、労働組合活動のあり方が見えてくる。パート労働をはじめ、女性の労働問題の取材を続けるジャーナリストが提示する組合の理論とは?
渋谷 龍一 ジャーナリスト
労働ジャーナリスト。日本労働ペンクラブ会員。主著に『女性活躍「不可能」社会ニッポン 原点は「丸子警報器主婦パート事件」にあった!』(旬報社)がある。

女性役員の気持ち

労働組合は今も間違いなく男社会です。ただ、その「オトコ社会ぶり」を正確に把握することはちょっとした困難です。なぜなら、それがなかなか表面に出てこないからです。

なぜ表面に出てこないのでしょうか。労働組合の女性役員の立場から考えてみましょう。

労働組合を動かす主力は圧倒的多数が男性。女性は少数です。オトコ社会の中で生きる女性役員にとって、オトコ社会を正面から否定することは困難です。不満はあっても愚痴も言いづらい。そのため、例えば、労働組合の「オトコ社会ぶり」を女性役員に聞きたいとしても、正直な気持ちがなかなか表に出てきません。

一方、男性役員に話を聞いてみましょう。男性役員が「うちの組合には問題がない。女性たちが不満を抱えているなら、自ら進んで運動すればいい」というレベルの考えでは、女性役員の声が上がりづらいのも当然です。

しかし、改めて考えてほしいのですが、あなたは、あなたの組合の女性役員がどんなことを感じているか、どれほど理解していますか。あなたの知らないところで女性役員は不満を抱えていて、それを口にできない理由があるかもしれません。その背景を掘り下げて深く考えることが労働組合運動と女性参画を考えるスタートラインです。その深掘りができなければ、女性組合役員の比率も頭打ち。課題は永遠に解消しないでしょう。

女性役員「X」と「Y」

これまで私が出会ってきた女性役員「X」と「Y」の話をしたいと思います。

女性役員「X」は、運動の主力が圧倒的に男性という構造の中で、組合役員の一人として、時にオトコ社会の代表者として振る舞いながら活動しています。

一方、女性役員「Y」は、労働組合の「オトコ社会ぶり」に嫌気が差しています。オトコ社会に抵抗して組合役員を降りたり、組合役員を降りた後で「オトコ社会」への不満をさらけ出したりしています。女性役員「Y」は、「オトコ社会」に心底嫌気が差しているので、男性中心の企業別組合にも、産業別組合にも、ナショナルセンターにも期待していません。そのため、女性役員「Y」の声は、なかなか表に出てきません。

女性役員「X」と女性役員「Y」からは、異なる活動ぶりが見えてきます。

女性役員「X」の活動は、職場の情報交換や経験交流が中心。職場がもっと働きやすくなるように意見を交わし、職場の労働問題の予防措置に奔走しています。職場の話が中心で、家庭の話はあまり出てきません。

他方、女性役員「Y」だけの集会(女性だけのユニオンなど)は、女性の低賃金や雇用の不安定性、ハラスメントの話が中心。その中では、家庭責任を担わない男性や、子どもの教育、地域活動の話も出てきます。

「X理論」と「Y理論」

さて、この女性役員「X」と「Y」は、組合活動のあり方を反映する鏡です。その人材像から、労働組合運動の「X理論」と「Y理論」を整理することができるでしょう。

まず、労働組合の「X理論」はこうです。

・労働組合を動かす主力が圧倒的多数の男性と一部の女性という中で、実質的な要求は男性正社員のロジックに基づき組み立てられる。

・そのため、職場の問題解決がそのまま家庭の問題解決につながるという考え方が強い。

・組合の要求は企業別組合に解決できそうな職場部分に依拠して運動が組み立てられる。

・女性役員の比率を上げることに取り組むが、比率の上昇を阻害する要因には目を向けない。

一方の「Y理論」の概要はこうです。

・女性役員比率を問題とせず、比率上昇を阻む原因を分析して解消する。

・女性組合員の要望や意見のうち、家庭生活の部分に依拠して運動を組み立てる。

・「女性活躍」の促進ではなく、男性を動かす方策を考える。

・家庭の問題解決が、職場の問題解決につながると考える。

お気付きだと思いますが、二つの理論の違いは、労働組合が組合員の家庭にどれだけコミットするかです。より正確に言えば、性別役割分業の解消により踏み込み、労働組合が「生活政策」にどれだけ積極的に取り組めるか。ここに二つの理論の大きな違いがあります。

性別役割分業の見直しができるか

私は、日本の労働運動が男女平等参画を本気で進めるなら、現状の男女間格差の土台にある、性別役割分業の見直しに取り組まざるを得ないと考えています。それは、労働組合が組合員の家庭にどれだけ手を突っ込めるかにかかっています。つまり男性中心の労働組合が「Y理論」をもっと取り込めるかにかかっています。

現状では、女性役員「X」も一生懸命がんばっています。活動の成果も上げています。しかし、その活動が職場単位、職場論理の範囲にとどまっている限り、運動には限界があります。このままでは女性役員「X」は疲弊していくばかりです。女性役員「X」が抱えている不満やそれを口に出して言えない背景を認識し、解消する努力が「X理論」の労働組合に求められています。

組織化に見る性別役割分業

男性組合役員の視点からすると、「女性役員も女性組合員比率も増えているのに、どこに問題があるのか」と見る向きもあるでしょう。

一つ気になるデータを上げておきます。「労働組合基礎調査」(2018年)と「労働力調査月報」(2018年6月)を用いて、労働組合での男女比率と、雇用者(正社員とパート社員)での男女比率を推計してみました。その結果、労働組合員の男女比率は男性66.5%、女性33.5%。一方、雇用者全体(正社員とパート社員)の男女比率は男性53.7%、女性46.3%でした。労働組合の方が男性比率が高く、オトコ社会であることがわかります。

さらに雇用形態別の男女比率を見てみましょう。雇用者全体(正社員とパート社員)のうち男性正社員は46.0%、女性パートタイムは23.6%を占めます。この数値が、「男性正社員+パートタイム女性」という性別役割分業の投影です。

一方、労働組合員のうち男性正社員は63.4%、女性パートタイム組合員は9.9%。さて、労働組合は今、パートタイム労働者の組織化を進めており、実際にその比率も上がっています。こうして見ると、パートタイム労働者の組織化は、「男性正社員+パートタイム女性」という性別役割分業の構造を、労働組合の中でさらに強化してしまう懸念があります。

労働組合の構造を性別役割分業から脱却させるために何をすべきか。皆さんには「X理論」「Y理論」という活動の軸を参考に考えてみてほしいと思います。

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