特集2019.06

女性と労働組合女性は労働組合に何を思う
意識調査から見る労働組合への評価

2019/06/10
女性組合員は労働組合活動をどう評価しているのか。労働組合活動への参加におけるジェンダー・ギャップなどを分析した調査結果を解説してもらった。そこから見えてくることとは?
大倉 沙江 三重大学人文学部助教
性別ごとの労働組合に対する意見や評価の平均値
出典:岩本・大倉(2019)、P10 国際経済労働研究所「第50回共同調査(2016年参議院選挙)組合員政治意識調査」

女性の組合参加の現状

国際経済労働研究所が実施した「第50回共同調査(2016年参議院議員選挙)組合員政治調査」のデータを用いて、労働組合活動への参加におけるジェンダー・ギャップなどを分析しました。

主要な分析テーマは、労働組合活動への女性参画の現状と、労働組合活動への女性参画の拡大です。

まず現状から紹介します。女性と男性の間には、組織率にも、組織化された後の活動への参加状況にも違いがあります。組織率に関しては「労働組合基礎調査」(2018年)によると男性の組織率は20.7%、女性は12.6%。女性が8ポイントほど低くなっています。

また、労働組合活動への参加については、a)日常的な組合活動、b)政治活動、c)組合役員経験─に分けて検討しました。その結果、いずれの項目も女性の数値は男性を下回っていました。男女差が最も大きかったのが、「組合の運営や意思決定に組合員が参加する」という項目です。一方、組合活動について話し合ったり、組合主催のイベントに参加したりといった日常的な項目でも女性の参画は男性に比べ低位でした。これでは選挙の時に政治活動の重要性を訴えても女性組合員はピンときません。女性組合員が日常的な活動に参加していなければ、労働組合は「顔の見えない」「選挙の時だけやってくる」存在になってしまいます。女性の組合活動への参画を促進したいのであれば、日常的な活動に最も力を入れる必要があると言えます。

労働組合に対する女性の評価

次に労働組合に対する女性の評価です。

今述べたように、女性は男性よりも組合活動に参加していません。そのため、女性は男性に比べ労働組合に対するイメージを持ちにくい状況にあります。例えば、組合員の女性に対して労働組合のイメージを聞くと「どちらとも言えない」や「わからない」という回答の比率が男性より高くなります。女性は労働組合がどのような目的で活動しているのか、自分がなぜ参加する必要があるのかなど、組合活動について考えるのに十分な情報を持っていないと考えられます。

この点とも関連しますが、女性の労働組合活動に対する評価は、男性と比べて総じて低いです。例えば「個人では解決できなくても、労働組合などの団体を通じて解決できる課題がたくさんある」「日頃の組合活動は社会的な意義がある」といった項目では、女性が男性を大きく下回っています。女性は、男性に比べて組合活動の意義を感じていません。

情報の欠如や労働組合活動に対する評価の低さは、女性の組織率の低さの要因になっていると考えられます。そのため、まずは情報提供が大切です。職場に長時間いる男性労働者とパートタイムの女性労働者では得られる情報量に違いが生じることも考えられます。情報発信の仕方にも工夫が求められます。

一方、女性は労働組合に何を期待しているでしょうか。組合員に対する調査結果からは、女性組合員は男性組合員と比べて労働や社会福祉(社会福祉の充実や最低賃金の引き上げ、女性の参画拡大、ハラスメント対策、ダイバーシティなど)に敏感であるという結果が得られました。これらは労働組合が現在も取り組んでいる課題です。従前の運動にしっかり取り組むことが女性の組織化にもつながると言えます。この点では、自信を持って活動に取り組んでほしいと思います。

組合役員に対する意識は?

次に労働組合役員に対する女性の意識を見てみましょう。

労働組合に対する評価が男性に比べ低いものの、将来的に組合役員を担う意欲のある女性がまったくいないわけではありません。特に、正社員、30代、未婚、大学・大学院卒、教育や専門・技術・研究の業務に携わる女性たちは、それ以外の女性たちと比べて役員希望者の比率が高いことがわかりました。意欲のあるこれらの層の女性たちの登用を進めることは、労働組合の男女平等参画の実現に向けた一つの戦略になると思います。

一方、「どちらとも言えない」と態度を決めかねている層(特に30歳未満層)の取り組みが今後の課題でしょう。女性組合員は、30歳未満の時点では「どちらとも言えない」と考えているものの、年齢が上がるごとに組合役員となる希望が下がっていく傾向があります。背景には、仕事の負担が増えたり、結婚・出産・育児などのライフイベントがあったりという事情があります。こうした女性たちを労働組合役員に登用するためには、労働時間や家事労働の負担のあり方を見直す必要があると言えます。

時間のあり方を見直す

結局、多忙を背景に、労働組合に限らず、さまざまな社会活動に時間を割く余裕がないという現状があります。

組合活動は、専従の場合を除いて、就業時間外に行われるのが基本です。そのため夕方から夜にかけての活動もどうしてもあります。家事・育児を負担する女性が、この時間に活動することは困難です。一方、内閣府の「生活状況に関する調査」によれば、日本の男性が家事や育児に費やす時間は先進国中最も低くなっています。

こうした現状を踏まえれば、家事・育児の分担や、その背景にある性別役割分業意識の見直しを進める必要があります。家事労働を男女が等しく負担することが求められるとともに、長時間労働に象徴される男性の働き方を見直すことも不可欠です。男女ともに適正な時間を仕事に当て、家事労働を分担できれば、女性が就業時間後の会議に参加することも可能になります。遠回りのようですが、労働組合がこれまで通りディーセント・ワークの実現を求めることが、女性の組合参加につながると考えています。

今の働き方では無理がある

長時間労働の慣行が十分に見直されないまま、女性が労働市場に進出し、男性は家事労働を分担しろと言われても、どちらも大変です。今の働き方のままでは、男女双方に無理があります。

かつて男性労働組合役員は、女性労働者の敵対者とも言われましたが、その対立は解消しつつあります。長時間労働の是正などを共通の課題として、男女が協力して活動できると良いでしょう。

現状を変えるためには、声を上げることがとても重要です。職場や家庭の中で問題があっても、それについて声を上げないと可視化されず、問題化しません。1970年代の女性運動に「個人的なことは政治的なこと」という合言葉がありました。どんなにささいな問題でも個人的なことだと思わず、声を上げることをためらわないでほしいと思います。

ただし、声を受け止めてくれる組織がなければ、働く人たちは声を上げることができません。労働組合には声を上げやすい環境をつくること。ジェンダーの視点を取り入れ、女性も男性も声を上げやすい環境を整えることに期待しています。

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