特集2019.06

女性と労働組合かつては女性労働者の敵対者
労働組合と女性労働者の関係は?

2019/06/10
女性労働者にとって労働組合とはどのような存在だったのか。そして、現在の関係はどう捉えられるのか。戦後女性労働運動のリーダーたちの経験をまとめた浅倉むつ子早稲田大学名誉教授に聞いた。
浅倉 むつ子 早稲田大学名誉教授

女性労働者の敵対者

戦後女性労働運動の成果を次世代に引き継ぐため、2016〜2018年の連合総研プロジェクト「戦後労働運動の女性たち〜闘いの歴史と未来への提言」に参加しました。研究の成果は、『労働運動を切り拓く 女性たちによる闘いの軌跡』(旬報社)としてまとめました。戦後労働運動をけん引した女性リーダー12人を対象に聞き書きしたものです。

私には、二つの問題意識がありました。一つは、戦後の労働組合運動で女性の問題はどのように位置付けられてきたのか、ということです。

1956年に『講座 労働問題と労働法 第6巻 婦人労働』という本が出版され、ここに労働組合の女性たちによる覆面座談会が掲載されました。女性たちは、男性組合員の女性問題に対する意識の低さや女性に対する差別意識の強さを、率直に語っています。戦後の学会をリードした大河内一男と磯田進は、編者としてこの座談会をまとめつつ、女性労働者は組合活動の中で二つの敵対者を持っている、それは、雇い主と男性の組合役員だ、と指摘しました。「婦人の労働運動にとっての第一の関門は組合自身の内部にひそんでいる」、だが「婦人問題の正しい解決こそが労働組合運動の試金石になる」と分析しました。

では現在、女性労働者と男性中心の労働組合という対立構造は解決されたのでしょうか。それが私の第一の問題意識でした。

もう一つの問題意識は、衰退している労働組合運動活性化のために、労働組合が女性たちから学ぶことは何か、ということでした。諸外国の中には、女性の組織率が高まり、その結果、労働組合運動が活発化した国もいくつか見受けられます。日本でも、過去の女性運動のあり方から、何か労働運動活性化のための教訓が得られるのではないかと考えました。

談笑する組合員たち(1960年代)

女性労働者を巡る差別の実態

戦後しばらく、女性労働者は、労働組合の中で、保護されるべき存在ではあっても平等の主体とは考えられていませんでした。男性中心の労働組合には、女性労働者を対等に扱うべきという認識が欠けていました。企業でも女性は半人前の労働力でしかなかった時代です。

1970年代の春闘では、労働組合が獲得した賃上げの原資を男性に優先的に配分していました。それに対し、福井県のある労働組合では、女性たちが署名を集めて、決死の覚悟で組合執行委員会に提出し、男女同率の配分を獲得しました。

国際婦人年であった1975年には、賃金の男女差別を違法とした秋田相互銀行事件の判決が出ました。労働組合の専従役員の男女間にも賃金に差があり、それに対して女性が声を上げたことで、ようやく男性たちも性差別を認識し、その是正に取り組むようになりました。

とはいえ1970年代、平等はきわめて形式的に捉えられていました。男性と同じように働く女性には同じ処遇をしなければならないと認めつつも、出産や育児・家事を担う女性を平等に扱うという意識はなお薄かったと思います。

違う方向を向いていた男女

人々が、社会における性別役割分業の見直しやワーク・ライフ・バランス問題を意識し始めたのは、日本が国連の女性差別撤廃条約を批准した1985年以降です。この条約の前文や第5条は、男女差別撤廃のためには性別役割分業の見直しが必要であるとうたっています。長らく日本社会では、育児や家事負担は女性だけの問題で、労使が取り組むべき問題とは言えず、私的な問題だと考えられてきました。女性差別撤廃条約が性別役割分業の見直しに明確に言及したことは、女性たちにも新鮮な驚きをもたらしました。

しかし国内では、平等と保護のあり方をめぐり、労使が激しく対立しました。しかも当時の日本社会では、労働組合の要求は賃上げが中心、一方、家庭責任を一身に担っていた女性にとっては労働時間短縮が重要でした。この時点では、男女の労働者の要求はまったく異なる方向を向いていたと言えます。

組織の枠を超えた共闘

女性差別撤廃条約の批准と雇用平等法制定要求は、1980年代の運動の最大のテーマでした。特に記憶すべきは、労働組合の女性たちが、幅広い市民と連帯しながらこの運動に取り組んだということです。総評/同盟というナショナルセンターの枠も超え、労働組合/女性団体という枠も超えて、共闘関係がつくられました。

女性には、職場のさまざまな問題に加えて、出産や育児、介護、教育、DV、夫婦別姓など、幅広い課題があります。それらの課題を解決するには、それぞれの組織の枠を超えた連帯が必要不可欠です。雇用平等法要求運動は、結局、均等法の制定と女性保護規定の廃止という帰結をもたらし、運動は挫折したと評価されています。しかし女性たちの闘いの軌跡は、私たちに多くのことを教えるものでもあります。

二つの問題意識への答え

冒頭で述べた問題意識に戻ってみましょう。最近、育児休業を取得したい、ワーク・ライフ・バランスを重視したいという男性が増えています。世代間のギャップがなおあるとはいえ、男女労働者には、ようやく共通の目標が浮かび上がってきたと思います。

かつては女性労働者だけに、1日2時間、年間150時間という時間外労働の上限規制があり、均等法制定の過程で、女性たちはこれを男女共通規制にするように要求しました。しかし、叶いませんでした。今の時代になってようやく、これが労働組合の要求としてもおかしくはないと認められ始めています。男女が同じ方向性を向き始めているのです。

二つ目の問題意識について考えると、そもそも女性にとっては、仕事と生活を切り分けるのは困難です。だからこそ女性問題を解決するには、多角的に幅広い個人・組織との連携が必要でした。労働組合がそこから学ぶのであれば、組合という組織の枠を超え、市民運動とのつながりを通じての連帯というところに、労働運動そのものを活性化するヒントがあるのではないでしょうか。

男女共通規制へのアプローチ

最後に、労働組合へメッセージを届けたいと思います。現在の労働組合活動は、まだまだ男性中心ですが、変化は生まれています。労働組合にはぜひ、社会を民主化する運動の中心になってほしいと思います。

労働組合は、女性、非正規、外国人労働者、障害者など、弱い立場に追いやられている人々の権利のために闘うことができます。そうした人たちの声を後押しすることは、必然的に、社会の民主化につながると思います。

また、労働組合には、時短やワーク・ライフ・バランスという、生活を中心とするテーマに正面から取り組んでほしいものです。これらは従来、女性の問題だとされてきました。しかし、長時間労働を現にしている男性労働者にこそ、これらの問題は重要です。私が、今訴えているのは、日々の生活時間を確保するという「生活時間」のアプローチです。女性たちが求め続けてきた「男女共通規制」を、「生活時間」というアプローチから労働組合全体の問題として実現してほしいと思います。

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