特集2019.10

「共助」をもっと考えよう子ども食堂の広がりは日本の共助をどう変えるのか

2019/10/15
無料もしくは低価格で食事を提供する子ども食堂が全国で広がりを見せている。子ども食堂に見る共助の広がりは何を意味するのか。この活動を積極的に支援する湯浅誠さんに聞いた。
湯浅 誠 NPO法人全国こども食堂支援
センター・むすびえ 理事長
東京大学 特任教授

──日本の市民運動の現状をどう捉えていますか。

特定非営利活動促進法(NPO法)が成立して約20年。NPOの数は5万を超え、コンビニの店舗数と同じくらいになりました。一方、専従スタッフを置けるようなNPOはまだ少なく、貧困や児童虐待などの社会的課題に取り組むテーマ型と言われるNPOも、欧米に比べるとまだ成熟していません。

制度が整っていないわけではありません。欧米と比較して市民運動が弱いのは、制度の問題より文化の問題で、市民活動が市民からの支持を広く集めきれないところに課題があるのではないでしょうか。ただ最近では「地縁系組織」と呼ばれる町おこしや地域おこしの活動が活発化しており、これらにソーシャルビジネスや企業のCSR活動まで含めると、市民活動の層はかつてより厚くなってきたと捉えています。

──こうした中で子ども食堂が広がりを見せています。

子ども食堂は現在全国に約3700カ所あり、昨年だけで1400カ所増えました。

子ども食堂は2本の柱で成り立っています。「地域の交流拠点」と「子どもの貧困対策」です。私は後者の文脈から子ども食堂にかかわり始めましたが、子ども食堂が広がった最大の要因はむしろ前者の「地域の交流拠点」にあります。

今、地域に人がにぎわう場所がない中で、子どもから親世代、高齢者も含めてみんなで食事をする子ども食堂は、とりわけ高齢者の記憶に訴え掛けています。高齢者の皆さんが、かつて地域の人たちとともに交流した光景を子ども食堂が思い出させているのです。子ども食堂が地域交流拠点としての役割を発揮していることが、子ども食堂が広がった最大の要因だと考えています。

──子ども食堂の貧困対策としての役割は?

私がこれまで貧困対策に取り組んできて、乗り越えられなかった壁が二つあります。

一つ目は、多くの人が貧困の存在を身近に感じられないこと。ニュースで貧困問題が取り上げられても、「そんな人が本当にいるのか」とか「私の周りにはいない」とか、そういう感覚を持ってしまうことです。

二つ目は、貧困問題に対して自分にできることは何もないと感じてしまうこと。多くの人は、例えば、児童虐待のある家庭に入り込んで親子関係を調整することなどできるわけがないと考えます。だから、児童相談所がしっかりしてくれと専門機関頼みになります。

この二つの感覚は、同じ根を持っています。貧困とは極めて厳しい状態であり、生きるか死ぬかの話だと感じてしまうということです。

私は長年、貧困問題に取り組む中でこの二つの壁を乗り越えられませんでした。でも、子ども食堂はいとも簡単にこの壁を乗り越えました。

まず、子ども食堂にかかわっている人たちは、地域の賑わいづくりだと思ってそこに参加しています。みんなで食事をするのはいいことだし、食事ボランティアなら私にもできる。そういう感覚で参加しています。ここで壁を一つ乗り越えています。

そして、子ども食堂に参加した人は、一見、貧困の課題を抱えていると思えない子でも、背景にさまざまな事情を抱えていることに気付きます。そして、ここがポイントなのですが、そのことに子どもたちとかかわった後に気付く、ということです。子どもたちとかかわった後だから、目の前にいる子どもに対して自分なりにできることがあると考えることができます。こうしてもう一つの壁を乗り越えます。

このようにして子ども食堂は、子どもの貧困問題にかかわる人の裾野を爆発的に広げているのです。こうしたアプローチは専門家の頭の中からはなかなか出てきません。つくづく感心しました。

──子ども食堂は、実際の貧困家庭へのアウトリーチが難しく、子どもの貧困問題を解消するには効率が良くないとの指摘もあります。

それは福祉専門職の人の捉え方かもしれません。子ども食堂のように誰でも集まれる場所があることで、行政などの専門職がアウトリーチすべき家庭が浮かび上がります。

例えば、「黄信号」の家庭に行政の相談窓口に来るよう、いくら呼び掛けても来ることはまれです。相談窓口はもっと深刻な家庭が行くところだと思われているからです。だからこそ、誰でも集まれる場所が増えることが大切なのです。子ども食堂が予防的にかかわる場所として機能することで、専門職がアウトリーチすべき家庭がはっきりします。子ども食堂だけで子どもの貧困問題が解決するとは思っていません。子ども食堂と専門職が、相互に機能することが重要だと思います。

──「共助」が強調されるほど、政府は「公助」を縮小していくという指摘もあります。

気持ちはわかりますが、我慢比べではありません。共助が弱かったら、公助が充実するわけでもないと思います。

そもそも、日本の高齢化を踏まえると公助は増えていかざるを得ませんが、高齢化への対応をすべて公助によって賄おうとするのは無理です。公助は必ず増えていきますが、期待するほど増やせないということです。その中で、自助ではなく、共助の必要性が高まっていくということです。

──子ども食堂で生まれた人々のつながりは社会にどのような影響を与えるでしょうか。

子ども食堂のネットワークでロビー活動を展開するつもりは今のところありません。運動体を組織してロビー活動するのは運動の正攻法ですが、子ども食堂はそれに縛られなくてもいいと思っています。そうした活動をしないからこそ緩やかにつながれているのだと思います。

そういうことをしなくても、子ども食堂は社会に影響を与えていると思います。中学校の給食率がこの数年間で急速に上がっています。80%台前半だったものが90%を超えました。それには子ども食堂の広がりが無縁ではないと思っています。市役所職員や自治体議員などが、子ども食堂の活動を見て、地域の課題を肌で感じ取り、自分たちにできることを考えた結果ではないでしょうか。つまり、子ども食堂はロビー活動を直接的に展開しなくても、間接的に地域に影響を及ぼしているということです。

私は子ども食堂を社会のインフラにしたいと思っています。そのためには、すべての人がアクセスできる地域交流拠点として機能することがまず大切です。全国で約2万あるすべての小学校区に子ども食堂ができることが当面の目標です。そのために、さまざまな働き掛けをしていきたいと考えています。

──労働組合は地域の市民活動にどうかかわれるでしょうか。

「この活動が組合員のためになるのか」という問いをいったん脇に置くことが必要だと思います。何をしたら労働組合の組合員が増えるのかを考えるのではなく、地域の課題を解決するために自分たちの持つリソースをいかに発揮することができるのかと考えること。主語を自分たちではなく、地域にすることです。そのことが結局、自分たちのファンを増やすことにつながると思います。

特集 2019.10「共助」をもっと考えよう
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