特集2019.10

「共助」をもっと考えよう共助としての労働組合
共助を強め、他助とつながるには?

2019/10/15
労働組合は、組合員が互いに助け合う共助の組織だ。共助の機能を強めるにはどうすべきか。さらに、労働組合が「他助」の組織とつながるにはどうすべきかを考える。
中村 圭介 法政大学大学院連帯社会
インスティテュート教授

四つの助け合い

生活上の困難を抱えている人々を支援する方法には四つの種類があると考えています。自分で自分を助ける「自助」、地方自治体や国が助ける「公助」、特定の目的を持った組織をつくり、ともに助け合う「共助」、それに加えて、任意の個人や組織が困難に陥った人たちを支援する「他助」です。

労働組合は共助の組織です。まず、労働組合という共助の組織をどう活性化させるかについて述べたいと思います。

若手非専従役員を支援する

企業別組合の活性化のために必要だと私が考えていることの一つは、非専従の支部役員や職場委員の活動のサポートです。この層の組合役員が活躍することで、労働組合全体の活動も活性化するのではないかと思っています。

具体例を見ていきましょう。法政大学と連合が連携して設置した「連合大学院」の卒業生の一人は、オープンショップの労働組合における新入職員の加入率の違いを分析した修士論文を執筆しました。この論文では、若手の非専従の職場委員など新入職員に近い組合役員が説明会などで組合の意義などを説明した場合には加入率が100%になり、若手の職場委員ではなく本部のベテラン役員が説明した場合は加入率が下がるということがわかりました。

また、私の研究でも、青年女性委員会のメンバーが説明会に出ると加入率がほぼ100%になる労働組合を紹介しています。

つまり、企業別組合の活性化のためには、非専従の若手の職場委員のやる気を引き出すような工夫が必要なのではないかということです。

個人で解決できない問題に取り組む

もう一つの組合活性化をもたらすだろうと私が考えているのは、長時間労働の是正です。総務省の社会生活基本調査によれば、子どものいない正社員の共働き夫婦で、妻の家事時間は土日も含む1日当たり平均で146分なのに対し、夫はわずか20分。未就学児のいる正社員の共働き夫婦では、妻の家事時間は週140分、育児179分に対し、夫は家事23分、育児55分でした。女性はアンペイドワークを背負わされていて、搾取されています。長時間労働が解消されない限り、ワーク・ライフ・バランスも「女性活躍」も実現できません。

長時間労働の問題は個人では解決できないと思います。職場全体の問題として、集団的労使関係の中で改善していくほかないというのが私の考えです。この問題に取り組むことが集団的労使関係の強化、すなわち労働組合の活性化に結び付くと思っています。

さらにもう一つ強調したいのは、職場からの経営参加です。会社の事業計画や経営計画が職場で無理なく執行できるのか、どこに問題があるのかなどをチェックできるのは職場の労働組合、とりわけその職場で働く非専従の組合役員です。事業計画をチェックし、働きやすい職場をつくるのも、集団的労使関係の強化・再構築につながります。

これらのポイントはすべてセットになっています。つまり、非専従の職場委員をサポートし、長時間労働や事業計画などのチェックをしてもらう。それが企業別組合の活性化、すなわち共助の活性化につながるということです。

非専従の職場委員が活動しやすい環境をつくるためには、彼・彼女たちが組合活動の時間を確保しやすくなるよう会社に働き掛けることです。業務のあり方やサポート体制について、会社と協議すべきでしょう。また専従の組合役員は彼・彼女たちの声を拾い上げてほしいと思います。労働組合の運営のあり方そのものを見直していく必要もあるはずです。労働組合が、個人で解決できない問題に取り組むことで、一般の組合員にも集団的労使関係の重要性が認識されるようになるでしょう。

共助が他助に乗り出す

労働組合を活性化させ、組合員を増やすことは、共助の枠を広げていくということです。共助の枠が狭まる中で、その枠内に人々を入れ込むことは重要です。しかし、それだけでは足りず、他助を必要とする人々も多くいます。近年、共助の組織が他助に乗り出す動きが見られます。この動きに注目して、『連帯社会の可能性』(全労済協会、2019年)という研究報告書をまとめました。

この論文で各地の労働者福祉協議会(労福協)を調査しました。労福協は働く人たちの福祉を担う共助の組織ですが、近年、地域での就労支援やフードバンクなど、他助の活動を本格化させています。

労福協は、労働組合や労働者福祉団体、生協などが緩やかにつながる組織で、多数の人材や潤沢な資産を持っているわけではありませんが、さまざまな組織の結節点として運動を展開しています。

他助の組織であるNPOは、資金的にも人的にも限界があり、継続性にも課題を抱えています。その点、共助の組織は資金面でも人材面でもまだ力を持っているため、共助の組織が他助に乗り出すことが重要だと思います。労福協が運動の結節点になり、そこに人材や資金が集まり、他助の活動をさらに本格化させることができれば、大きな期待が持てます。

こんな事例もありました。労福協が中心となってフードバンク事業を立ち上げようとしたところ、地方連合会が当初反対したのです。理由は、組合費を組合員以外の人たちに使うことに理解を得られないということでした。しかし、実際に立ち上げてみたところ、フードバンクにはニーズがあって感謝の言葉がたくさん届きました。そして、実際の事業運営では、労福協がNPOをサポートするなど、労働組合が培ってきたノウハウが運営に生かされるようになりました。

連帯社会の実現へ

共助の枠からこぼれ落ちた人たちが日本社会にはたくさんいます。そうした人たちをこのまま放っておけば、日本社会は悪くなっていくだけです。国際労働機関(ILO)が言うように「一部の貧困は、全体の繁栄にとって危険」です。共助の組織である労働組合が、そのリソースを少しでも他助に回すことができれば日本社会はよくなっていきます。

大切なのは、困っている人がいたら助けるという当たり前のことです。想像力を働かせて、躊躇せず行動に移してほしいと思います。

これも連合大学院卒業生の修士論文の紹介ですが、連合が大学で行っている寄付講座を受講した学生を調査したところ、受講後、助け合って問題を解決すると答える学生の割合が増えました。労働法などを専攻しない限り、労働組合の意義などを学ぶ場は大学にはありません。連合寄付講座のような場を増やしていくことで社会は少しずつよくなっていくはずです。大学だけではなく、職場での説明会などでも、労働組合が助け合いの意義を繰り返し問い掛けていくことが重要でしょう。

そもそも連合の運動は他助の要素を多分に含んでいます。政策制度要求も最低賃金の取り組みも、すべての労働者のための運動です。連帯社会の実現には、共助の力を他助にも向けていくことが必要だと思います。

特集 2019.10「共助」をもっと考えよう
トピックス
巻頭言
常見陽平のはたらく道
ビストロパパレシピ
渋谷龍一のドラゴンノート
バックナンバー