特集2019.10

「共助」をもっと考えよう労働者の運動で福祉の拡大に70年
中央労福協の果たす役割とは

2019/10/15
第二次大戦後の深刻な食糧難・物資不足の中で生まれた労働者福祉中央協議会(当時は労務者用物資対策中央連絡協議会)。共助の組織として、運動をつなぐ役割を果たしてきた。その活動を紹介する。
労働者福祉中央協議会 花井 圭子 事務局長(右) 栗岡 勝也 事務局次長(左)

「福祉はひとつ」

第二次世界大戦後、働く人たちは助け合い、共助の組織をつくった。その名は、「労務者用物資対策中央連絡協議会(中央物対協)」。現在の「労働者福祉中央協議会(中央労福協)」の前身となる組織だ。

中央物対協とはどのような組織だったか。終戦直後の日本は、食糧危機と生活物資の不足が深刻化し、多くの人が飢えに苦しんでいた。そうした中、労働組合や購買生協などは共同して、適正な配給や生活必需品の民主的管理、「労務加配米の増配、作業衣服の確保、木炭の払い下げ」などを要求する切実な運動を展開していた。この運動から全国的な共同行動の機関をつくろうという機運が高まり、1949年8月30日に設立したのが、中央物対協だ。

中央物対協の誕生が画期的だったのは、政治的イデオロギーや組織の枠を超え、すべての労働者の福祉の充実と生活向上をめざすという一点で統一し、結集を図ったことだ。当時分立していた中央労働団体(総同盟、産別会議、全労連)は、組織の枠を超えて連携し、労働組合に加えて生協など36団体が集まって中央物対協をつくった。その背景には「福祉はひとつ」という精神があった。その精神は、創設から70年を迎え、中央労福協となった今も引き継がれている。

労福協の運動

「労福協は働く人たちが自らつくり出した共助の組織」と中央労福協の花井圭子事務局長は説明する。

この運動は、労働者のための銀行である「労働金庫」と、労働者の共済事業「全労済」の誕生にもつながった。労働運動が自ら創り出した労働者自主福祉事業だ。

労福協は連合発足後、団体間の調整役としての役割を終えたとして、「不要論」が浮上したこともあった。しかし、さまざまな団体とのネットワークの構築や、共助を必要とする人たちの増加という背景から、組織の存続が決まった。

そうした中で中央労福協が2005年から取り組んだのが、クレ・サラ(消費者金融)の高金利引下げ運動だった。当時、多重債務に起因した生活苦によって年間8000人の自殺者が出るなど深刻な社会問題となっていた。法のはざまを縫ったグレーゾーン金利による高利貸しが問題となる中、労福協は日弁連やさまざまな団体とも連携し、貸金業法の改正運動に取り組み、グレーゾーン金利の廃止を含む法改正を実現した。さらに割賦販売法の改正でも労福協は大きな役割を果たした。

また、労福協は、厚生労働省のモデル事業段階から取り組んできた生活困窮者自立支援制度を7県で行政から事業受託しているほか、ひとり親家庭への就労・子育て支援、フードバンク事業、中小企業労働者の福利厚生事業など、労働組合や行政、NPOなどと連携し、地域に密着した活動を展開している。

加えて、地域では2005年から連合・中央労福協・労金協会・全労済の4団体合意に基づき、全国142カ所でライフサポートセンターを運営。暮らしにかかわるさまざまな相談を受けている。

相談を受けている中で浮かび上がってきたのが「奨学金問題」だ。中央労福協の栗岡勝也事務局次長は、「多重債務の相談の中で子どもの奨学金返済が一つの要因となっているという事例がありました」と説明する。

「大学の授業料が上がっているのに、親の収入が増えない実状。子どもも卒業後、正社員になれず収入が安定しないため奨学金を返済できず延滞になります。こうした相談が増えてきたことで、何とかしなければと労福協としての運動が始まりました」と当時を振り返る。

中央労福協は、給付型奨学金制度の創設と奨学金制度の改善、教育費負担軽減に向けて署名活動などを展開。労働組合や協同組合、市民団体まで幅広く協力を募った結果、304万筆の署名を集めた。こうした運動により、2017年3月に給付型奨学金制度が創設された。

つなぐ役割とつながる運動

花井事務局長は「ライフサポートセンターでの相談内容は、社会問題をキャッチする役割も果たしています」と話す。電話相談にはさまざまな悩みが寄せられる。解雇、経済的貧困、メンタルヘルス、シングルマザー、ひきこもり──。労福協の運動は、働く人たちが生活上、困っていることを察知するアンテナの機能を発揮しているのだ。

その声は、ともすると労働組合が気付かなかった声かもしれない。奨学金問題で「組合員に奨学金で困っている人はいない」と意見する組合役員がいた。しかし、実際に組合員に聞いてみると困っている組合員が多く出てきた。組合役員が組合員の生活上の困りごとに気付けていなかった。

「組合役員の皆さんは一歩踏み出してほしいと思います。そうすると自己責任が強まる中で困っていても言えない人が多くいることがわかるのではないでしょうか。社会には助けてと言えない人がたくさんいます。目の前に困っている人がいたら助けるというのが労働組合の本来の姿です」と花井事務局長は語る。

労福協は今年結成70周年を迎えた。「連帯・協同の価値は高まっています。労福協の『つなぐ』役割や、さまざまな社会運動と『つながる』活動は今後ますます重要になるはずです」と花井事務局長は訴える。労働組合とろうきん、こくみん共済coop〈全労済〉などの福祉事業体、生協などが一緒になっている団体は労福協しかない。労福協の持つネットワークは大きな可能性を持っている。

特集 2019.10「共助」をもっと考えよう
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