特集2020.04

どこが問題?雇用によらない働き方請負労働者の権利行使
使用者とどう対峙するべきか

2020/04/15
実態は雇用労働者に近い請負労働者が増えている。使用者と交渉するためにはどうすればよいか。労働組合法上の労働者性の定義を踏まえつつ、実践的な運動のあり方を検討する。
指宿 昭一 弁護士

労働者性と使用者性

個人事業主が労働者の権利を行使しようとする場合、次のような問題が挙げられます。まず、個人事業主が労働法上の労働者に該当するかという問題。形式上は請負契約でも実態が労働者であれば労働法上の労働者に該当します。次に労働組合を結成して団体交渉の権利を行使できるか。個人事業主であっても労働組合の権利を行使できる場合があります。

こうした個人事業主の労働者性の問題があった上で、プラットフォーマーや元請け企業の責任を問うことができるかという使用者性の問題があります。今回は、個人事業主の労働者性の問題、特に労働組合法上の労働者に該当するかを中心にお話ししたいと思います。

労組法上の労働者の判断

労働組合法上の労働者に該当する基準は、最高裁判例があります(「新国立劇場運営財団事件」「INAXメンテナンス事件」「ビクターサービスエンジニアリング事件」)。

判例では、労働組合法上の労働者に該当するかについて、六つの基準を示しています。(1)事業組織への組み入れ(2)契約内容の一方的・定型的決定(3)報酬の労務対価性(4)業務の依頼に応ずべき関係(諾否の自由)(5)広い意味での指揮命令下の労務提供、一定の場所的・時間的拘束(6)顕著な事業者性──の六つです。

ただ、法的な判断を受けるまで労働組合法上の労働者に該当するかははっきりしないため、その間は使用者に労働者性を否定され、団体交渉の入り口にも立てないというのが実務上の問題です。

判断基準(1)〜(3)は相対的なもので、それぞれに当てはまってもそれだけでは決定打になりません。例えば、(1)の事業組織への組み入れは、広く捉えれば下請け企業の多くは事業組織に組み入れられていることになりますし、(2)の契約内容の一方的・定型的決定も、そのような契約は一般的にも存在するので、それに当てはまるだけでは決定的な判断に至りません。(1)〜(3)は当てはまる場合が多い基準だと言えます。

そうすると(4)の諾否の自由が重要な判断要素になりますが、ここでは実体論にどこまで踏み込めるかが課題です。形式上は諾否の自由があることになっていても、仕事を断ってしまえば次の仕事がなくなるような場合、仕事の依頼を断ることができず、実質的に諾否の自由があるとは言えません。実態にどこまで踏み込めるかが判断の分かれ目になります。近年、裁判所は形式論を取る傾向にあるので、実体論を強く訴える必要があります。

(6)の事業者性についても、雇用労働者にも歩合給のように収入が上下する実態があります。過度に重視すべきではないと考えます。

労働組合法上の労働者性の判断基準について
出所:厚生労働省資料

憲法28条の勤労者

労働者性の判断は、労働組合法の方が、労働基準法より広く捉えられます。労働組合法は経済的従属性、労働基準法は人的従属性が問われます。とはいえ、従属性が強調されると労働者の範囲は狭くなってしまいます。

憲法28条は、労働者という言葉ではなく、勤労者という言葉を使っています。その趣旨は、労働者ではない個人事業主のような勤労者でも、経済的に弱い立場であれば憲法28条の保護を及ぼし、団結権などを認め、使用者・発注者と対等な立場に押し上げようということのはずです。近年、交渉力の弱い働く個人事業主が増えています。従属性にいたずらに捉われるのではなく、経済的に弱い立場に置かれているかどうかという実態で判断し、憲法28条の保護を広げていくべきです。従属性を重視する「従属労働論」を見直す時期に来ているのではないでしょうか。

カリフォルニア州では個人請負労働者であるかを判断するための立法が行われました。「ABCテスト」というテストが導入され、3つの条件をすべてクリアできない場合は、雇用関係が成立しているとされます。大きなポイントは、使用者側に説明責任を負わせていることです。今の日本の制度では、労働者側に立証責任があります。立証責任を転換できれば、大きな改革になります。

結社の自由で闘う

こうした見直しが求められる一方、実務的には、仮に現行法上で労働者性を否定されたとしても、働く人たちは権利を主張することはできます。それが憲法21条1項の「結社の自由」です。独立事業者であっても憲法21条1項を行使して、結社をつくり、団体交渉を求めることができます。労働組合のように正当なストライキに対する民事・刑事免責がなかったり、団体交渉の応諾義務がなかったりしますが、団体を組織し、交渉を申し入れることはできます。

団体に社会的な影響力があれば、事態を動かせます。コンビニオーナーの労働者性を争った事件では、中央労働委員会が労働者性を否定しましたが、コンビニオーナーの過酷な労働実態がメディアで報道されたことで、コンビニ本部も対応せざるを得なくなりました。労働者だと認められなくても、このような闘い方はできます。

また、「武器」はほかにもあります。国連人権理事会で2011年に採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」です。この原則は、すべての企業に対して、人権侵害行為や人権侵害を助長するような行為をやめるよう呼び掛けています。法的義務はありませんが、これを根拠に会社や社会に訴えかけることはできます。

もう一つは、独占禁止法です。「優越的地位の濫用」を用いて、公正取引委員会などを活用しながら闘うことはできます。また、下請法も事例によっては活用できます。このように、労働法上の労働者に仮に当てはまらなくても、闘う方法があることは知っておくべきです。

実務的には労働委員会での闘い方を工夫することも重要です。団体交渉拒否事件であれば論点を絞り込めば、審理を短期化させることもある程度可能です。申し立て事項を絞り、争点を明確化することも審理の迅速化につながります。労働委員会の迅速化には、関係者の努力が大切です。労働委員会が立ち会う「立ち会い団交」で実質的な団体交渉を始めるという手もあります。

原点に立ち返る

労働運動は、自らの労働によって収入を得る、経済的に弱い立場に置かれた人たちが自分たちの生活を守るために始まった運動です。その原点に立ち返れば、保護されるべきは法律上の労働者だけに限定されないはずです。働き方が多様化する中で、雇用によらない働き方をしている人たちを含んだ労働運動が求められています。

そのためには、当事者自身が、団結によって自分たちの権利を守ることができると気付くことが不可欠です。ウーバーイーツユニオンのように、立ち上がって闘い始めている人たちを既存の労働運動が支えていくことが大切です。

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