特集2020.04

どこが問題?雇用によらない働き方事業者間の交渉力格差をどうするか
請負側が知っておきたい法的ルールとは

2020/04/15
ここまでは労働者と使用者との関係を主に見てきた。では、事業者間で交渉力格差がある場合はどうすればいいのか。 フランチャイズや代理店ビジネスを例に現状と課題を学ぶ。
菅 俊治 弁護士

民法の観点から

労働者と使用者の関係ではなく、事業者と事業者との間の契約で、当事者間の交渉力に格差がある場合、どのような問題が生じるでしょうか。一般的にいくつかの場面が想定されます。

一つ目は、契約過程における説明の問題(契約締結時の問題)。

二つ目は、不当な契約内容で合意させられてしまう問題(不当条項の問題)。

三つ目は、優越的な地位にある側が契約内容を一方的に変更する問題(契約内容の変更の問題)。

四つ目は、更新の拒絶や途中解除など契約終了時の問題です(契約の終了の問題)。

これらの場面において法律はどう対応できるでしょうか。

実務的によくあるトラブルは、契約内容が定まらないまま契約を締結し、後になって当事者間で問題が起きるケースです。このような場合、契約締結時点で両者の同意があったかどうかが争点になります。民法は、契約自由が原則です。そのため、一方に不利な条件があったとしても合意は成立します。

契約内容は自由である一方、更新拒絶や契約解除に関しては、一方的な契約終了から請負側を保護する裁判例が積み重なっています。

例えば、期間満了で契約関係を終了させることが、契約締結の経緯や取引の実態などからみて不合理である場合、信義則上、当事者に契約更新義務が認められたり、黙示の更新を認定されたりする場合があります。

また、自動更新条項があり、長期間にわたって更新が繰り返され、契約関係が継続されるという期待が生じた場合、更新拒絶の正当な理由を求める裁判例もあります。

契約解除に関しても、裁判所は契約の継続性や安定性を保護しようとする傾向があります。特に、契約を請け負った側が広告宣伝費をはじめ、人的・物的資源を事業に投入した場合、重大な事由がなければ契約を解除することはできないとした裁判例が多くあります。

下請法による保護

民法では契約内容は基本的に自由です。請負側の保護のためには別の法律で考える必要があります。

下請法による請負事業者の保護はその一つです。

下請法は、親事業者が下請け事業者に物品の製造、修理、情報成果物の作成、役務の提供を委託したときに適用されます。親事業者には、発注書面の交付義務や、下請代金の支払い期日を定める義務、遅延利息の支払い義務などの義務が課されるほか、受領拒否や買いたたき、下請代金の減額などの禁止措置が課されます。

下請法はこのように幅広い範囲をカバーしていますが、問題はあります。違反があっても、契約の継続性などを考慮して当事者が親事業者に訴えられないことです。第三者による当事者のサポートは重要な問題です。

独占禁止法とフランチャイズ

フランチャイズは、フランチャイザー(本部)が、フランチャイジー(加盟店)に対して、ブランド(商号、商標)やノウハウを提供するシステムのことです。フランチャイジーは個人事業主で、経済的に弱い立場に置かれることが多いです。

日本にはフランチャイジーを保護するためのフランチャイズ規制法がありません。公正取引委員会がフランチャイズガイドラインを策定しており、それに違反すれば是正勧告などがありますが、民事効果はありません。日弁連をはじめ、各種団体が立法の必要性を訴えています。

フランチャイズ規制法がない中、加盟店主らは独占禁止法を使って重要な成果を勝ち取ってきました。

独占禁止法上問題になることの一つは、欺瞞的顧客誘引です。これは虚偽の収支計画を掲載して加盟店を募集する手法です。フランチャイザーが顧客(加盟店主)を欺く行為にあたります。ただ、そうした過大な収益予測は口頭で行われることが多いので、立証に苦労するケースが多いです。

欺瞞的顧客誘引に関するものとしては、ほかに、▼ノウハウのないフランチャイザーが加盟店からのロイヤルティーを得るために無計画にフランチャイズを拡大させる▼フランチャイザーが地域でのシェアを高めるために同じ地域内に相次いで出店する「ドミナント戦略」を取って加盟店の売り上げが減少する──といったケースがあります。

これに対応する判例法理として情報提供義務があります。フランチャイザーには、加盟店主になる人が加盟契約を締結すべきか否かを決定するのに適切な情報を提供する義務があります。この義務をより効果的に発揮させるためには、既存加盟者の平均的な経営状況の開示を義務付ける必要があります。

また、法的によく使われる手法は、債務不履行です。フランチャイザーからのノウハウの提供が不十分な場合は、債務不履行として損害賠償請求の対象にすることができます。

二つ目は、優越的地位の濫用です。具体的には、大量購入の要請や24時間営業の強制、見切り品販売(値引き)の禁止などがそれに当たります。これまでにも公正取引委員会が、こうした事項に対して是正勧告を出し、実務に影響を及ぼしてきました。

代理店ビジネスの保護

代理店ビジネスとは、サプライヤーと呼ばれる供給元が、一定の地域内で特定の製品・商品の販売拡大を目的に販売代理店(特約店)と締結する契約の総称です。

販売代理店がサプライヤーから商品を仕入れて販売する形式と、特売店が販売委託権をサプライヤーから購入し、委託販売手数料を受けながら販売する形式があります。

サプライヤーと代理店とのトラブルには、さまざまな類型がありますが、ここでは継続的な供給契約に関するトラブルを取り上げます。

具体的な事例としては、代理店の注文をサプライヤーが拒否する場合です。過去には、新聞販売代理店や化粧品販売代理店が、サプライヤーからの供給拒否に対して裁判を起こした結果、特段の事情がない限り商品を提供しなければならないという判決が出ています。

代理店契約では、代理店が販売促進に向けて「最善の努力義務」を負うという条項がよく設けられます。これは代理店側に、サプライヤーへの販売状況の報告義務や在庫の維持義務、代理店への最低購入義務などを課すものですが、独占禁止法違反に当たらないと言われています。

海外には、代理店の保護を目的とした代理店保護法があります。中近東や中南米、ヨーロッパで立法されています。強大なメーカーや商社が自社に都合の良い代理店契約を押し付けることを防ぐために立法されました。日本にはありません。

代理店保護法の内容は各国で異なりますが、共通するのは、サプライヤーによる代理店契約の解約を制限すること。サプライヤーに対して厳格な解約告知義務を課して、代理店側には一定の場合における更新請求権を与えます。その上で、契約終了時の代理店への補償義務も課しています。

日本の裁判所は、代理店に背信行為があった場合など、契約の継続を期待し難い特段の事情があれば、解約の効力として有効だと判断していますが、それだけにとどまります。日本でも代理店保護法の立法を検討するといいと思いますし、立法のハードルが高くても、その内容を参考に政策立案などに生かすことはできるはずです。

SDGsの活用

こうした法的手段以外にも、フランチャイザーやサプライヤーに対してプレッシャーをかける方法はあります。国連が採択した「ビジネスと人権に関する指導原則」や、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」は有効です。世界的な潮流を生かして、人権を侵害するような働かせ方を許さない運動を展開することができるでしょう。

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