特集2020.04

どこが問題?雇用によらない働き方ウーバーのドライバーは「労働者」か?
世界で広がるライドシェアと規制強化の動き

2020/04/15
インターネットのプラットフォームを用いて、タクシーと同様のサービスを提供するライドシェア。ドライバーは形式上、プラットフォーマーと契約する個人事業主だ。ライドシェアは世界で広がる一方、労働者による反対運動も盛り上がり、規制も進む。世界の現状について執筆してもらった。
浦田 誠 国際運輸労連(ITF)
政策部長

ライドシェアの世界的動向

一般運転手が自家用車を使って客を有償で運ぶライドシェア。専用アプリを介してすぐ配車され、タクシーよりも基本的に安いと、この10年で瞬く間に世界中で利用者を獲得した。ウーバーを筆頭とする各社が、サービスの違法性を無視し、赤字覚悟でダンピング運賃を設定し、際限なく登録車両を増やしてきた結果だ。

米国では、こうしてタクシー産業に壊滅的な打撃を与える一方、ロビイストを動員して政治家や役人にライドシェアを合法化させる新法を大半の州でつくらせた。運転手は、独立事業主と規定させた。このため今日、最賃や年休の保障がなく、労災保護もないライドシェア運転手が、全米に100万人以上いる。

2011年にパリへ進出したウーバーは、これを皮切りに世界85カ国でこの電撃戦を繰り広げた。だが、欧州のハードルは高かった。タクシー業界は、労使とも激しい反対運動を展開。欧州連合の最高裁である欧州司法裁判所は2017年、「ウーバーは運輸業であり、運転手と乗客をアプリで結ぶサービス業ではない」と判決した。このため欧州でのサービスは現在、有資格運転手によるハイヤー配車にほぼ限定されており、その総数は15万人ほどと言われる。

中国、ロシア、東南アジアでは、台頭した同業他社の滴滴出行、ヤンデックス、グラブやゴージェックに競り負け、撤退。インドでオラと、アフリカでボルトとのつばぜり合いが続く。米国ではリフトがシェアを伸ばし、滴滴は進出した南米で再びウーバーと競っている。また、ソフトバンクと楽天が、複数のライドシェア社に出資している。この戦国時代を勝ち残るのは誰なのか、まだわからない。

良かったのは最初だけ

米国でも規制強化が進む。8人のハイタク労働者が自殺したニューヨーク市では、過当競争に歯止めをかけるため、タクシー労組が市議会を動かし、ライドシェアの車両台数を制限し、運転手に最低賃金を保障する条例を実現させた。カリフォルニア州では、独立事業主の定義を厳格化した、通称AB5法が施行され、ウーバーやリフトが猛反発している。

日本は世界で唯一、ライドシェアを水際で食い止めている国だ。ハイタク労組が広範な反対運動の中心となり、弁護士や研究者と「交通の安全と労働を考える市民会議」を立ち上げ、雇用によらない働き方の危険性を世論に訴えてきた。

国際運輸労連(ITF)も、ウーバー対策会議などを開き、こうした取り組みを支援してきた。だがここ数年は、困窮するライドシェア運転手の抗議行動やストライキが、タクシー労働者の反対運動よりも多く報告されている。

「良かったのは最初だけ。会社はどんどん運転手を増やし、運賃割引や手数料の引き上げを一方的に決める。諸経費を差し引くと何も残らない」という叫びが世界中から聞こえてくる。オーストラリア運輸労組の調査では、67%が最賃にすら満たない収入で、半年の間に5割が辞めていく実態だった。配車を断り、会社にアカウントを停止される運転手が、各国で後を絶たない。

フランス最高裁が判決

「車中で暮らしている」くらい労働時間が長くなったインドでは2年前、各地のITF加盟組合が全国ストを一週間以上打ち抜いた。関係組合はその後、全国共闘会議を結成し、政府に労働条件の改善を迫っている。

昨年5月には、ウーバーの株式上場に合わせて、米英のライドシェア労組が、国際ストを呼び掛けた。創業時は33セントだった非公開株に100倍の値がつき、役員や投資家がボロもうけしていることに怒りを突きつけた。

「ウーバーとその運転手の間には雇用関係がある」。今年3月4日にフランス最高裁が下した判決だ。アカウントを一方的に停止したのは不当解雇だと、元運転手が補償を求めていた。こうした訴訟は米国にも多いが、金銭的な和解で終わるケースがほとんどだ。その意味から、最高裁で判決が出たことは画期的だ。ウーバー運転手の誤分類を巡る裁判は、英国でも今夏に最高裁が判断を下す。後に続く訴訟が増えてもおかしくない。

労働組合の課題

私たちにも課題はある。フランスの勝訴は、原告個人を利するものだ。この先も運転手たちは、司法の場で各々の補償や権利を求めていくだけなのか。労働組合に結集し、要求で一致する運動はつくらないのか。働く者にも、その労働者性が問われている。

では、その組織と運動は、どのように形成されるのか。昨年の国際ストに参加した組合のほとんどはITF未加盟だった。20世紀の労働組合は、時代の流れから取り残されていないか。私たちのバージョンアップも急務なのだ。

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