特集2020.04

どこが問題?雇用によらない働き方業務委託を理由に団体交渉を拒否
De-self労組DQSジャパン支部の闘い

2020/04/15
業務委託契約という形式を理由に、労働組合からの団体交渉に応じない事例は、情報労連の加盟組合にもある。De-self労組DQSジャパン支部の事例を紹介する。

労働組合を認めず

労働組合法上の労働者たり得ないので団体交渉をする義務はない──。情報労連加盟組合の中にも、使用者のこうした言い分と闘っている仲間がいる。De-self労組DQSジャパン支部の組合員たちがそうだ。

対置する企業は、ドイツ品質システム認証株式会社(DQSJapan)。ISOなどのマネジメントシステムの審査登録を手掛ける外資系の企業だ。DQSジャパン支部の組合員は、IATFという自動車産業向けの品質マネジメントシステム(ISO)の審査をする審査員。DQSJapanと業務委託契約を締結し、働いている。

業務委託契約という点で会社との間に争いはない。問題は、会社が労働組合と誠実に交渉しないこと。会社は、組合員たちを独立事業者だと位置付け、DQSジャパン支部を労働組合として認めず、団体交渉に応じていない。

ことの発端は、会社がIATF審査員の契約内容を一方的に引き下げたこと。20〜30%も収入が減る審査員もいた。連合東京への相談をきっかけに2018年9月、労働組合が結成された。

組合結成後、申し入れはすぐに行われた。だが、「入り口からつまずいた」とDe-self労組の中野匡委員長は話す。会社は、業務委託契約の審査員に労働組合は結成できないとし、労働組合の存在を認めず、上部団体(De-self労組)との面会も拒否。「門前払いの状態だった」と中野委員長は振り返る。

その後、会社は「打ち合わせ」には応じた。だが、その内容は、交渉人数を狭めたり、組合員が集まれない時間に「打ち合わせ」を指定したりするという、誠実とは言えないものだった。また、会社は突然、契約審査員全員を集めて、契約内容についての説明会を開催すると通知。今まで一度も実施したことのない、契約審査員全員を集めての説明会を強行してきた。労働組合との交渉をないがしろにして、労働組合を無力化しようとする行為だった。労働組合はボイコット戦術を取った。

さらに決定的な出来事が起きた。会社の部長が支部委員長を呼び出した時のこと。支部委員長が労働組合への姿勢を部長に質問したところ、部長は「労働組合は認めない」と発言。社長も同じ考えだと明言した。

この発言をきっかけに労働組合は2019年5月、東京都労働委員会への救済申し立てを決めた。

労働委員会の焦点

労働委員会での焦点は、DQSジャパン支部の組合員が労働組合法上の労働者に当たるかどうか。最高裁は労働組合法上の労働者性に関する判断枠組みを示している(「新国立劇場運営財団事件」「INAXメンテナンス事件」)。具体的な基準は、(1)事業組織への組み入れ(2)契約内容の一方的決定(3)報酬の労務対価性(4)業務の依頼に応ずべき関係(諾否の自由の欠如)(5)(時間・場所の拘束を含む)指揮監督関係の存在(6)独立の事業者としての実態──の6点だ。

組合員の働き方の実態はどうか。実際には、(1)IATFの審査は会社の主な事業の一つになっている(2)契約内容は会社が一方的に通知し決めている(3)労務対価性がある(4)経済的な依存度が高く、仕事を断りづらい環境にある(5)審査方法やレポート報告などの手順はあらかじめ決められている(6)DQSJapanと専属契約しているため、他社と契約した審査はできない──というように、「使用従属性」や「経済的従属性」があると労働組合は主張している。労働委員会の審査は継続中だ。

救済手続きの迅速化を

De-self労組の中野委員長は、「支部の組合員の皆さんは、自動車メーカーなどで経験を積んだエンジニア。スキルのある人材でも、今回のような問題が起こる。政府は今、高年齢者の請負就労を促進しようとしているが、高スキル・高賃金の人であってもこのような問題が起きることを働く人たちは警戒しておくべき」と訴える。

また、中野委員長は、労働委員会の審査の迅速化が必要だと強調する。「労働委員会は労使関係を回復させるための機関。審査が先送りになるほど労働者にとって不利になる。交渉の入り口でこれほど時間がかかる現状は早急に見直すべき」と訴える。

たとえ高いスキルを持っていたとしても、個人請負労働者と企業との間には交渉力の格差がある。経済的に弱い立場に置かれた働く人を迅速にサポートする仕組みが必要だ。

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