常見陽平のはたらく道2020.04

広がるテレワーク
労働者への過剰な負荷はないか?

2020/04/15
コロナ対策としてテレワークが広がっている。過度な負担が掛かっていないか。立ち止まって考えることも必要だ。

新型コロナウイルス問題によりテレワークが促されている。「これで、今まで浸透していなかったテレワークが爆発的に広がるチャンスだ」と捉える声もある。

たしかに、危機は働き方を変える。ここ数年、地震、大雨、台風などがあった場合は会社に行くのをやめるという動きが目立ってきた。大震災や、その後の大型台風などで定着した対応だ。

ただ、労働組合としてはこのテレワーク拡大について慎重に向き合いたい。これにより、労働者に過度な負担が掛かっていないか。

テレワークは、働く場所、頻度、目的、組織への所属、担当業務などにより分類される。働く場所だけでも、在宅だけでなく、直行直帰のモバイルワーク、さらにサテライトオフィス勤務などに分かれる。現状のテレワークの呼び掛けは「緊急時の毎日在宅勤務の強制」に近い。テレワークのごく一類型にすぎない。

緊急事態に対応した在宅勤務にしても、そのメリット・デメリットを確認しておきたい。通勤時間がゼロとなるし、通勤および職場でウイルスに感染することを防ぐことができる。ただ、必ずしも労働時間の短縮につながらないし、むしろ長時間労働が誘発される可能性もある。慣れるまでは、オフィスでは簡単にできたことがうまくできないこともある。人に簡単に相談できるわけでもない。オフィスに出社している人に負荷が掛かることもある。そもそも、自宅が快適に働くことのできる環境ではない人もいる。ちょうど学校の休校とも重なったので、仕事に集中できないこともある。

コロナ騒動によるテレワーク導入は、制度がなかった企業、あっても活用が十分ではなかった企業にとっては突貫工事もいいところだ。ルールやツールを丁寧に検討する機会をスルーしている。ルールを決め、適切なツールを導入しなくては、情報漏えい、長時間労働などのリスクが大きくなってしまう。

現状は「とりあえずやってみた」というレベルだと捉えるべきだろう。そもそもの仕事の中身や役割分担を見直さなければ、労働者に過剰な負荷が掛かってしまうことにも注意しなくてはならない。コロナ終息後に「テレワークはダメだ」と、手段、選択肢として切り捨てられることは避けたい。

私たち夫婦は現在、二人とも在宅勤務している。妻はリビング、私は書斎に分かれ、仕事に集中できる環境にしている。食事、休憩は一緒にし、保育園の送り迎えはあえて二人で歩いて行き、運動の機会にするなど工夫している。すっかり慣れてきたが、逆に仕事の密度が濃くなりすぎて疲れることも多く、注意している。このような創意工夫を組織内で共有し、浸透させることも必要だろう。

テレワークを導入し、浸透させた企業では、試行錯誤を重ねつつ、あえてチャットツールでの雑談を推奨する、会議は最も不利な立場の人を最優先にして組み立てる、やってはいけない業務を決める、必ず出社する日を設けるなどのルールを決めた。ノウハウの共有も推進した。

労働組合としては従業員の権利を拡大する一方で、労働強化の防止にも取り組まなくてはならない。コロナ終息後も視野にいれて、あるべき姿を模索しよう。

常見 陽平 (つねみ ようへい) 千葉商科大学 准教授。働き方評論家。ProFuture株式会社 HR総研 客員研究員。ソーシャルメディアリスク研究所 客員研究員。『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞出版社)、『「就活」と日本社会』(NHKブックス)、『なぜ、残業はなくならないのか』 (祥伝社)など著書多数。
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