LGBTとハラスメント── (2)KDDIで進むジェンダー平等、LGBT施策とは?
服装規定の見直し
KDDIは2019年9月、社員の服装基準を廃止し、10月から服装に関する新しい就業規則を適用した。最低限度のマナーを守っていれば、服装は社員が自分で決められることになる。
元々の基準では、男性はスーツ・ネクタイ、女性はTPOに合わせた服装と規定されていた。それに対して、KDDI労組の長谷川強副委員長は、社内規則をチェックしながら、「アンバランスだし、性別で区別する必要はないと思いました」と振り返る。
そうした問題意識を会社の人事担当者に伝えたところ、会社の担当者もまったく同じことを考えていた。
長谷川さんは以前、性自認の観点から服装で悩んでいる社員がいるという話を聞いていた。また、情報通信業という企業柄、取引先がビジネスカジュアルというケースも少なくなかった。こうした観点も含め会社と議論した結果、より働きやすい環境をつくるために服装基準を見直すことを決めた。
制度を議論した際に担当者が心配したのは、服装が自由になり過ぎることだった。だが、男性担当者の心配に対して、女性社員が「女性社員はずっとこの考え方でやってきたのに何を心配しているのか」と指摘した。実際、制度見直し後に職場が混乱することはなかった。
見直した就業規則では、相手に対して不快感を与えないという最低限度のラインを設け、事業本部ごとに運用基準を設けることにした。運用基準にはLGBTに配慮することなどが盛り込まれた。
「運用基準にも厳しいことは書いてありません。例えば、機械室で作業する場合は静電気を帯びにくい服装というように、業務に必要な場合は作業着の着用が指示される場合はありますが、そうでなければ最低限度のマナーを守ってもらえれば服装は問われません」(長谷川さん)
職場ではパンプスではなく、スニーカーの女性社員も増えた。「職場の雰囲気は変わったと思います」と長谷川さんは話す。
ハラスメント禁止協約
KDDI労働組合は2020春季生活闘争で、「ハラスメントの禁止に関する協約」を会社と締結した。あらゆるハラスメントの防止促進を目的とし、そのための対応指針を定めたものだ。
KDDI労組の永渕達也政策局長は「協約の締結にあたってはILOのハラスメント禁止条約の条文を参考にしました」と説明する。
協約のハラスメントの定義はILOのハラスメント禁止条約に準じている。協約の対象となるハラスメントの対象や範囲もILOの条約を参考にした。ハラスメントの対象は職場の中だけではなく、仕事に関係した懇親会やイベントなど事業所外で起きたものや、メールやSNSなどの対面ではないコミュニケーションで起きたものも含む。対象となる加害者・被害者には、社員だけではなく、顧客やサービス利用者、求職者、退職者も含めた。就活生に対するハラスメントやカスタマーハラスメントにも対応する内容だ。
その上で、対応方針として相談しやすい環境の整備や、相談したことによる不利益取り扱いの禁止、社員への意識啓発などを定めている。
「オンラインでの学習会をはじめ、役職などに応じて、全社員が学習する機会を設けています。特に性的指向や性自認に関する相談に関しては、第三者に『アウティング』しないよう呼び掛ける研修なども実施しています」と永渕さんは話す。
KDDIの労働協約は、対象範囲などにおいて、今年6月に施行された『パワハラ防止措置法』の内容を上回るものだ。他の労働組合への水平展開が期待される内容だ。
同性パートナーへの福利厚生
KDDIは、会社が認めた同性パートナーとの子を社内制度上「家族」として扱う「ファミリーシップ申請」を今年6月から開始した。
同性婚が現在認められていない日本では、同性パートナーの双方が親権を持つことができない。今回の制度化で、KDDI社員の同性パートナーが親権を持つ場合でも、会社はその子を社員の家族として扱い、育児休職や子の看護休暇・出産祝い金などの社内制度が適用されるようになった。社員から会社への相談がきっかけで制度が見直された。
KDDIでは2017年から同性パートナーを配偶者として認定し、手当や休暇の対象としてきた。今回その対象をさらに広げたことになる。
「労働組合としても賛成で、会社と細かい要件などをすり合わせた上で制度化されました」と永渕さんは話す。今後も必要に応じて制度見直しや運用について会社と協議を重ねていくことにしている。
社会全体への展開
一連の取り組みについて長谷川さんは、「誰もが安心して働ける環境をつくりたいという思いで取り組んできた」と訴える。「会社としても性的マイノリティーの人が不安なく働ける制度をつくることで多様な人材を確保したいという狙いがあるのだと思います」(長谷川さん)
こうした先進的な取り組みを広げていくにはどうすればいいだろうか。
長谷川さんは「性的マイノリティーの人は身近にいます。自分が見えている世界だけではないと知れば改善されるはずです」。永渕さんは「まずは、できる企業が率先して取り組んでいけば、社会全体に広げられる。労働組合が他社の事例を参考に水平展開すれば、それが社会の規範になるはず」と訴える。
KDDIの取り組みは、社内にあるジェンダー差別の要素を一つずつに是正する取り組みだと言える。誰もが不安なく、安心して働ける職場をつくるために、KDDI労働組合では、一人ひとりに寄り添うことをスローガンに活動を展開している。こうした活動の積み重ねが労働組合の信頼向上につながるはずだ。